第87話 冬の始まりと出発
お久しぶりです。
引っ越ししたらパソコン壊れました。新パソコンで初投稿です。
「今日は冷えるな…手短に終わらせて風呂でも入ろう。」
「賛成です。もう畑にはほとんど残っているものないですからね。」
ギッドが畑を見回すと確かにほとんどの畑は何も植えつけられていない。残っているものも今から収穫したらお終いだろう。ただし例外がいくつか存在する。
「薬草畑はあのままで良いとして…あの2つはどうするんですか?」
ギッドが疑問に思っているのはメスティが魔導農家の加護により授かった2種類の作物だ。一方は夏頃にモサモサと藪のような葉を茂らせていたが、現在は枯れ果てて倒れている。もう一方はメスティが収穫に待ったを言い続けた楕円型の葉物だ。
そのどちらも今年種を播いたというのに一切収穫作業ができていない。これから冬を迎えるというのにこのまま放って置くのだろうか。
「とりあえず放置だな。でも…あの楕円型のやつは周りの葉を持ち上げて紐で縛っておこう。」
「周りの葉っぱで雪を防ぐ…ってことですか?それなら収穫した方が…」
「まあそうなんだが…どちらにしろ俺の加護の都合上、一度は作物から種子を収穫しないといけない。どちらにしろ冬越えはさせなくちゃいけないんだ。」
「それなら…ガラス温室に避難させた方が…」
「そこまでしなくても大丈夫だ。…きっと。」
どことなく不安な返事をするメスティ。しかしメスティの中にはどこか確信めいたものがある。だが根拠のない確信ほど不安なものはない。
「でも冬が来るってことはそろそろ行くんですか?えっと…」
「チェラグニュール山脈。かつては鉱山として賑わっていたらしい。でも俺が生まれる前には廃鉱になった。先生の話じゃあミスリルもわずかに採れたって話だ。」
「そうなんですか。じゃあそのかつての賑わいが残って…」
「いや、鉱山としては優秀だったんだが、場所的に商人も通らないし作物も実りにくいってことで過疎化が進んでな。ある時モンスターが出現して完全に人はいなくなった。…はずなんだが、おそらく何かがある。」
「それは…国王様が言ったからですか?でもその…」
「当てになるのか…だろ?まあ国王のことを知らないとそうなるよな。でも大丈夫だ。あの王様はメラギウス先生もバラク団長も信用してる。まあ信用できないようじゃあの二人は仕えはしないよ。」
「じゃあすごい人なんですね。」
「すごい…いや、正直俺はまだよくわからんのよね。ただその片鱗は感じたことがある。なんて言えばいいんだろうな。」
メスティは頭を悩ませる。メスティの理解が及ばない相手というだけでギッドとしてはすごい人物なんだと思ってしまう。
「まあ幾つか逸話はあるんだよ。元々王位継承権は下の方だったとか、流浪の民であったメラギウス先生がこの地に居着いたとか、バラクという最強の男を見出したとか。結構すごいことやっているんだけど、なぜそれができたのかと言われると……感…なんだよなぁ…」
「か、感?ですか??」
「直感力というか…もう天の声が聞こえるんじゃないかってレベルで感が当たるんだよ。多分なんかのカラクリはあると思うんだけど、そこまで調べたことはない。まあこの国がここまで発展したのもその感のおかげだ。」
「感のおかげでこの国が発展したと?」
「さらにいうなら俺がここにいるのもその感のおかげだな。俺の故郷が滅んでも俺が生き残れたのは王様の感によって派遣された騎士団のおかげだ。俺の故郷は滅んだが、その感がなければ被害はもっと広がっていただろうな。」
あまりに鋭すぎる超直感。国王は公には魔力なしということになっているが、メスティはおそらく何かの加護持ちだと睨んでいる。この超直感もその加護の影響だというのがメスティの考えだ。
「その直感によってチェラグニュール山脈が怪しいと言った。そしてあの王様の直感が働くときは何か大きなことが起こる時だ。俺が冬まで待ったのも日帰りレベルでは無理だと判断したからでもある。」
「大きな騒動に巻き込まれると…何かこっちでやっておくことはありますか?」
「特にない!……と言いたいが万が一のことを考えて、俺がいない間はあの河童が何かやりたいらしいからそれに付き合っていてくれ。あの河童がこっちに長居してくれれば万が一の時もなんとかしてくれるだろう。あの河童を上手く利用してやれ。」
「わかりました。こっちのことはお任せください。」
「頼んだ。それから来年からはお前たちに街との交易を任せたい。今は河童とコカトリスたちと交易ができているが、日用品なんかは街の方が充実している。ワディたちとも話し合って月1か2月に1度くらいで行ってもらうつもりだ。色々勉強しておいてくれよ。」
「わかりました。…でもどうせなら街で少し遊ぶお金も…」
「わかっているよ。せっかく街まで行って遊べないのは辛いもんな。街で稼いだ金の一部を給金にする予定だから安心しな。」
「よし!」
ギッドは小さくガッツポーズをとる。たまにはそういう息抜きもとらせてやらないとストレスが溜まることだろう。
「さて、随分とおしゃべりしちゃったな。仕事始めるぞ。」
「はい!」
翌日の早朝。祭壇にて祈りを終えたメスティは一度家へと戻り、なにやら荷物を広げて確認を行なっている。
「解毒ポーションにランタン用の燃料。回復ポーションに酸素ポーション。」
「どうせなのでこの発光ポーションも持っていってください。それからそれから…」
「そんなにいっぱい持っていくのは無理だよ。まあいくつか持っていくから。」
アリルが次から次へと取り出すポーションをいくつか手に取ると荷物に詰め込む。そして背中に背負うとその場で軽く動いた。
「多少重くなったが許容範囲だな。それにちょうど来たらしい。」
メスティが顔を向けるとそこから猛スピードでコカトリスが走り寄ってくる。そしてメスティの目の前で止まるとそのままメスティを嘴で咥え上げた。
「それじゃあ行ってくる。留守は頼んだぞ。」
「いってらっしゃい。お土産期待してます。」
「行くのは無人地帯だっての。それじゃあな。」
メスティを乗せたコカトリスはあっという間に加速して消え去ってしまった。残されたアリルたちはあまりに一瞬の出来事に若干の戸惑いが残っているが、すぐに気持ちを切り替える。
「よし!じゃあ仕事に戻ろう。」
「まあ俺たちは昨日までで仕事終わっているから今日から休暇だ。」
「とりあえず風呂にでも入って休息しようぜ。勉強は午後からで。」
「賛成。あ、午後からワディさんたちの方に行ってくる。今日会議なんだよね。」
「えぇ〜お兄ちゃん達だけズルい!じゃあ私も午前は休みにしよ〜っと。」




