第85話 プルー収穫祭
いいね、ありがとうございます。
「今日も〜美味しい〜ぬか漬けに〜」
ぬっちょぬっちょと音を立てながらぬか床をかき混ぜるメスティ。あれからしばらくぬか漬けについて研究し、自分なりに正解を編み出した。
そして完成したのがこのぬか床である。今はいくつもの作物をぬか漬けにし、どの程度の期間つければ良いのかを研究している。
それに付き合わされているガル達は最初は嫌な表情を浮かべたが、ぬか漬けの味に慣れてしまうと毎日食べるのも苦にはならなくなった。
そして今日も朝食にキュウリのぬか漬けを出すと皆すぐに食べ始めた。アリルも最初はなれなかったが、今は美味しそうに食べている。
「今日のはどうだ?」
「昨日より酸味が強くなってますけど…塩味もキツイですね。」
「疲れた時とか汗かいた時なら良いですけど、この塩味は体に悪そうですね。」
「ん〜…ぬか床に塩を入れすぎたかな?でも長期保存を考えたりすると塩が入っていた方が良いし…何より塩味があった方が美味しい。」
「水につけて塩抜きすれば良いんじゃないですか?塩なら私が作りますから気にしなくても良いんですよ。」
「それもそうか…塩はアリルがいれば問題ないからな。じゃあそっちの方向でやってみるか。長期間漬けたものは塩抜きを行うっと。でも半年とかぬか漬けにするのはキツそうだな。」
「短期的な長期保存って感じですね。言ってることめちゃくちゃですけど。」
「野菜を乾燥させずに水分を含んだまま1ヶ月保存できるのは大きいよ。まあ俺がいれば生のまま数年は保存できるけどね。」
「そういえば怪我はもう大丈夫そうですか?」
「ああ、ほぼ大丈夫だ。激しい戦闘をするとさすがに痛むけど、農作業なら問題ない。」
「じゃあ今日から頑張ってもらわないと。もう秋ですよ。」
「そうだな。でも今日は向こうの村でやることがあるんだ。アリルと一緒に行ってくるからこっちの作業は頼んだぞ。」
今日の作業をガル達に頼み、メスティはアリルと共にワディ達の村へと向かう。するとワディ達の村の方角から甘い香りが漂ってきた。そして賑やかな声も。
「お、やってるな。」
「人が多いし、賑やかですね。それに…すごい収穫量。」
驚くアリルの視界には大量のプルーの実を収穫した大勢の姿が映っている。今日はプルーの実の一大収穫祭だ。
メスティもまさか植えた年にプルーを収穫できるとは思ってもみなかった。しかし結果としてありえない量のプルーの実を収穫できている。
するとそんなメスティ達に気がついたのか作業を離れてシェムーがこちらへとやってきた。その表情はすごいでしょという自慢と収穫疲れの両方を合わせている。
「収穫は順調みたいだな。」
「もちろんよ。ワディ様の指示に従って皆で動いているからね。当分は甘味に困らないわ。」
「困りはしないが、このまま全てのプルーを保管しておくのは無理だろうな。甘くて美味しそうなやつだけ俺の方で保管しておく。その仕分けはしてあるか?」
「子供達がやってくれてる。傷物とかは省いているわ。ただそっちはもうしばらく時間がかかるから先にあっちに行くわよ。」
「ああ頼む。うまくいけばうちの稼ぎ頭になってくれるからな。」
そう言ってシェムーが案内したのはこの村の中でもひときわ大きな建物だ。そこには幾人もの人々がプルーの実を運び込んでいる。
そして運び込まれたプルーの実は器具を使い細かく砕かれ、大きな樽の中にどんどんいれられていく。
「粉砕機の調子はどうですか?調整必要そうですか?」
「まったく問題ないわ。横のハンドルを回すだけでどんどん砕けて行くから楽チンだってみんな言ってる。良い仕事してくれたわ。」
「良かったです。でもさすがに収穫量が多いので間に合ってないですね。」
「これだけの畑からこんな量のプルーが収穫できるのなんて異常よ。これもあんたの加護のおかげね。」
「それは良かったよ。じゃあ俺らも手伝うか。準備はできているんだろ?」
「もちろんよ。」
そう言ってシェムーに案内されたのはアリルが用意した粉砕機だ。ただしこっちは手動式ではなく、魔力による魔動式の粉砕機だ。
シェムーやワディがいるのだから最初からこれを使えば良い気もするが、万が一に備えてアリルが来るまで使わないでいてもらった。そしてアリルの最終確認を終えてから魔動式粉砕機の稼働が始まる。
「おお、ゴリゴリいくな。これならすぐに終わりそうじゃないか?」
「あ、ちょっと止めてください。少し荒いですね。もう少し細かくなるように調整します。」
予想よりも荒い粉砕になってしまったため、一度止めて調整が入る。その後も少し稼働させたら調整するを繰り返し、結局ほとんど手動式の粉砕機でプルーの粉砕をしてしまった。
粉砕されたプルーの実が樽一杯に溜まったところで次の作業に移る。若干のもたつきもあったが、準備が完了すると樽の上部に男たちが集まった。
「よ〜し、準備はできたな?それじゃあ栓を開けるぞ。」
そう言うとメスティはプルーの入った樽の下部にある栓を開く。すると大量のプルージュースが溢れ出てきた。それを別の小さな樽にどんどん入れていく。
やがてプルージュースの出る勢いが弱くなるとメスティは男たちに合図を送る。その合図を見た男たちは器具を動かし始める。すると再びプルージュースが溢れ出してきた。
樽の上の男たちが動かしているのは圧搾装置だ。手回し式でゆっくりと圧力を加えられていくプルーの実から大量のプルージュースが搾り取られていく。
次々と小さな樽の中にプルージュースが入れられていく。プルージュースで一杯になった樽は建物の端から順に並べられていく。
「すごい量になりそうですね。樽いくつ分できるんだろ。」
「すごい量ができてもあっという間になくなるぞ。なんせこの村唯一の酒だからな。」
そう、メスティたちが大量に作っているのはプルージュースだが、ジュースとして飲むわけではない。これを発酵させて酒にしようとしているのだ。
作り方は非常に簡単でプルーの実を絞ったものを樽に詰めて放置しておくだけ。それだけで発泡酒になるのだ。
アルコール度数は高くないが、今作れば冬の間に楽しむことができるだろう。酒を飲むためなら男たちは必死に働く。だがメスティは背後に別の意思を持った視線を感じる。
メスティは背後を振り向き、その視線を送るものたちへ手招きをする。すると幾人もの子供達が嬉しそうにコップを持ってやってきた。子供達には酒よりもジュースが良い。
そんな子供たちのコップに搾りたてのプルージュースを注いでやる。すると子供達はそれを嬉しそうに飲んでいる。それにつられたメスティもプルージュースを飲んでみる。
「ん…結構甘いな。予想よりも糖度が高めだ。」
「なら度数の高いお酒になりそうですね。」
「まあ元がプルーだからそこまで高くはならないけどな。ただ発酵が強くなりそうだから発酵中の樽のガス抜きを多めにやらせよう。樽ごと大爆発なんて悲惨すぎる。」
初の酒造り。うまくいかないことも多々あることだろう。だが酒というのは日持ちするし、消費量が多い。街で売れば確実に金になるだろう。新たな産業の確立に今はプルージュースで乾杯する。




