第83話 ライバル
忘れてたので土日投稿します。
「いでで…」
「おいおい大丈夫かよ。」
馬車に揺られる振動で身体中から悲鳴が上がるメスティ。こんな状態でも魔導の加護の影響で国内から強制退去させられる。心配なバラク団長はメスティに付きっきりだ。
「大丈夫ですよ。それにしてもいろいろ揃えていただき感謝します。」
「気にするな。それよりも一人で帰れるか?誰かに送らせることも可能だぞ。お前と同期のポーラに送らせても良いぞ。」
「そのために連れてきたんですか?大丈夫ですよ。こんな怪我でもそこらのやつには負けませんから。」
今メスティを送るためだけに10人ほどの騎士達が同行している。こんな警戒態勢はなかなか起こらないことなので人々は何事かと見物しにくる。
そんな人々の視線から逃れるようにメスティは国を後にした。そして国を離れ数キロほど進むと同行していた騎士達は歩みを止めた。
「団長!ここまでとしましょう。」
「だが…」
「大丈夫ですよ。見送りはここまでで十分です。」
今回バラク団長と他の騎士達はメスティが確実に国外退去したこと確認するために付いてきたという名目だ。そのためいつまでもついていくことはできない。馬車に乗り込んでいたバラク団長は馬車から降りると心配そうな視線をメスティへと送る。
「そんな心配しなくても…もう子供じゃないですよ。」
「それはそうかもしれんがな…」
「まったくもう…ん?」
メスティとバラク団長は即座に視線を彼方へと向けた。他の騎士達は気がついていないが、その方角から何かが来る。しかもとてつもない速度で。強力な何かが確実にこちらへきている。
警戒態勢に入ろうとするバラク団長。しかしメスティは問題ないと合図を出した。そして馬車から降りるとその方角へと目を向ける。
そこからきたのはコカトリスだ。ものすごい速度で脚を回転させながら駆けてくる姿に思わず笑いが溢れてしまう。そしてメスティから少し離れたところで止まると、警戒態勢に入った。
「こっちは友人達です。迎えにきてくれたんですか?」
「コケ、ココ。」
「ああ、この怪我はちょっと張り切ってしまいまして。大丈夫ですよ。荷物があるんですけど良いですか?」
「ココ。」
馬車の荷台に頭を突っ込むコカトリスは荷台で一鳴きすると、一瞬のうちに荷物を異空間収納に収納してみせた。
「じゃあ団長は馬車で帰ってくださいね。」
「お、おお…それが例のか。」
「ええ、そうです。うちの大切なお客様であり、良き隣人です。」
「コケ!」
バラク団長はコカトリスを見つめる。コカトリスもバラク団長を見つめ返す。そしてお互いに何かを感じ取ったのか笑みを浮かべた。
「そいつは俺の弟子であり…息子みたいなもんだ。よろしく頼む。」
「コケ。」
「えぇ…団長が父親ですかぁ?やだなぁ…」
「お前!このやろう…」
「冗談ですよ。さて、それじゃあ行きましょうか。」
コカトリスはメスティを啄ばみあげると背に乗せた。そして出発の間際、メスティはポーラへと視線を送る。
「ポーラ、君の剣は綺麗だ。汚れなく、物語の騎士像のように清く正しい。しかし現実はそう上手くはいかない。忘れてはいけない。騎士とは人々を守るためのものだ。人々を守るために時に騎士は汚れなくてはならない。どんなに惨めでも、どんなに恥辱にまみれようと勝たなければならない。勝たなければ全てを失う。騎士になった君に敗北は許されない。」
「は…はい!」
「団長、彼女を6番隊隊長補佐にしてみてください。その方がきっと彼女は伸びますよ。」
「あいつの補佐か…面白いかもな。良いだろう。」
メスティの提案にバラク団長は乗っかる。それを確認したメスティはコカトリスに声をかけて出発する。あっという間に視界から消え去るメスティ。それを見送るバラク団長はメスティの過ぎ去った方角を見つめる。
「…今の騎士団にあのコカトリスに勝てるやつは何人いるだろうな。」
「……各部隊の隊長、および副隊長クラスならなんとか。」
「副隊長レベルじゃ厳しいだろ。それじゃあ勝率は3割くらいなものだ。すごいやつと友好関係になれたものだな。……ポーラ!」
「はい!」
「君の学友であったメスティはあそこまで成長したぞ。あれはまだまだ強くなる。正直あの加護を授けられた時は絶望したものだが…関係なかったようだ。生産系の加護でもあいつは強くなる。いずれはこの俺を超えるだろう。」
「…はい。」
「君も負けられんだろう。なんせ君の魔法騎士の加護は騎士団の中でも上位に入る強力な加護だ。せめて隊長格くらいにはなってもらわないと困る。今後はより一層厳しい訓練を課す。だがまあ…それも惚れている男に追いつくためだと思えばたやすいものだろ?」
「その…別にそういう関係の異性などはいないのですが…」
「あら?そうなの?てっきり…同期だし、主席と次席だったし…そういうラブマンスが…」
「あ、全くないです。」
「えぇ〜…」
「団長〜女心わかってないですねぇ…」
「あんなキメ顔していたのにダサいですよ。」
からかわれるバラク団長は本当に違うのかとポーラに視線を送る。だがポーラは本気で否定している。それをみたバラク団長はいたたまれなくなって馬車に逃げ込んだ。
そして逃げるように馬車で帰るバラク団長をからかう騎士達がついていく。それをみたポーラは大きなため息をつく。
ポーラとしてはこの感じのやり取りは魔法学校時代もよくあったので慣れている。主席と次席のお似合いカップル。付き合っていないのにそんな噂がよく出回った。
しかしポーラとしてはメスティは永遠のライバルだ。メスティの優秀さを認めているからこそ、それに追いつこうと、それを追い越そうと必死に努力してきた。
だがメスティは変な魔導加護を授かり、国外退去の身となった。それを知った時、ポーラは一度やる気を失ってしまった。自分の目標だと思っていたものがまるで違ってしまったのだ。
だから訓練にもどこか身が入らなかった。一応訓練自体はちゃんとやっている。だがどこか気持ちが入りきらなかった。
しかしメスティとバラク団長の戦いを見て思った。やはりメスティは永遠のライバルであった。追いつくべき、追い越すべき目標であった。ポーラは身体が疼き出す。今すぐ訓練がしたいと。
「待ってなさい。あんたを追い越してやるんだから。」




