第81話 vsバラク団長 決着
バラク・メルトーファ、現騎士団団長。王国最強の男。周辺国にもその名が轟くこの男だが、実は魔導の加護の保有者ではない。それどころかギリギリ上級加護を持っているという程度だ。
加護に恵まれなかったバラクだが、それでも王国最強と呼ばれているのはメラギウスという天才と自身の特殊な加護によるところが大きい。
バラクの加護、それは魔法換装剣士という特殊加護。その加護は基本的に魔法剣士の加護と変わりない。そして魔法剣士の加護というのはこの国にもそれなりにいる加護だ。むしろポーラの魔法騎士の加護と比べてしまえば下位の加護となってしまう。
だがバラクの魔法換装剣士というのは自身が設定しておいた装備に瞬時に切り替えられるという特殊能力がある。戦場において消耗品である剣や鎧を瞬時に取り替えられるというのは大きい。
そして魔法換装剣士と錬金術の加護を持つメラギウスが合わさることでこの魔法換装剣士は魔導の加護にも匹敵する能力を得た。
バラクが主に使用するのは1〜9までの試作剣。そして完成剣である天剣。この全ては魔力剣であり、剣や鎧そのものに膨大な魔力を内包させている。
その内包された魔力を消費することでバラク本人の魔力消費を極限まで減らし、長時間の全力戦闘を可能としている。
メスティが今の所突破したのは武器の損耗を減らすことに特化した三剣、防御を特化させた四剣、特殊な魔力波を発生させ、硬い防御を破砕させる五剣。そして今メスティが破壊したのは切断力を特化させた六剣だ。
「あっぶねぇ…見てくださいよ。ほらここ、産毛剃れちゃった。」
「随分上手くこなせるようになったじゃないか。それじゃあ…七剣いってみようか。」
バラク団長の装備が切り替わる。今度はまさに騎士だと言わんばかりの盾と槍を持った姿だ。するとメスティは大きく深呼吸して集中力を上げる。
メスティはこれまでこの七剣を突破したことがない。正直この七剣からは一気にレベルが上がる。一剣から六剣まではバラク団長の本気の戦闘には耐えることができず、その実力を半分も発揮できない。
だが七剣はバラク団長の本気の戦闘に耐えられるように設計されている。とはいえ七剣作成時のバラク団長の本気のため、現在から考えると7割ほどの実力までしか耐えられない。
しかしその7割の実力にメスティはこれまで一切勝つことができなかった。そして今も先ほどまでとは異なり、防戦一方になっている。
「こ…の……くそ!」
「はっはっは。どうしたどうした。まだまだ速度は上がるぞ。」
バラク団長の猛攻は止まらない。特にこの槍という奴が厄介だ。槍を躱し、間を詰めるための距離があまりに遠いのだ。そして仮に間を詰めたとしても…
「どうしたどうした?やっぱりここで終わりか?」
「なめんじゃ…ねぇ…この……」
メスティは一度大きく後退する。そして一瞬で呼吸を整えると両拳に魔力を集中させ始めた。何かを察したバラク団長はすぐにメスティへと詰め寄る。だがメスティはすでに準備は整っている。
強く吐き出された呼吸とともに一気に駆け出すメスティ。それを迎撃しようと槍を突き出すバラク団長。しかしメスティはその槍を右拳で大きく弾いた。
「お!?」
「らぁ!!」
右拳に溜め込んだ魔力は使ってしまった。しかしまだ左拳がある。だがバラク団長に詰め寄ったメスティは目の前に迫る重厚な盾を目にする。
そうだ。これだけ間を詰めてもこのシールドバッシュがある。体格差や筋力差のせいでこのシールドバッシュを超えることができなかった。しかしそれは過去の話だ。
メスティは左拳を盾に突き立てた。ここからはバラク団長とメスティとの押し合いだ。ギリギリと両者拮抗している。だが拮抗していればバラク団長が有利だ。槍を大きく振りかざし、それをメスティに叩きつける。
だがメスティに槍が当たる前にメスティは盾を破壊してみせた。そしてバラク団長の懐に潜り込む。
「マジか。腕あげたな…」
「俺だって成長しているんですよ!」
バラク団長にいくつもの殴撃を浴びせるメスティ。だが次の瞬間、背筋が凍りつくような恐怖を感じ、すぐに飛び下がった。すると先ほどまでメスティがいた位置にメスティの髪の毛が舞っている。
「出たな…八剣。」
「七剣こえられるようになったか。いやぁ嬉しいもんだな。あ、気をつけろよ。八剣は油断すると…死ぬぞ?」
「ハッ…上等だよ……」
八剣。短めの曲刀を両手に持った双剣モード。バラク団長の8割ちょっとの実力まで耐えられる。さらにこの双剣には重量変化と切断力強化の魔法が込められている。
つまり剣を振るう時は軽くさせて剣速を上げる。そして相手にぶつける時には重くさせて剣圧を増させる。そして強化された切断力は生半可な魔力強化をした大盾ならばバターのように切り裂く。
そしてこの斬撃力を前にしてはメスティの身体強化による防御力強化も意味をなさない。斬られればそれだけで致命傷になる。
そして八剣を前にメスティはずっと回避をし続ける。八剣を前に間を詰めるのはあまりにも危険。あの剣速を全て躱して一撃加えるなど不可能だ。
だがこれでは躱すだけで他になすすべがない。しかしメスティはメラギウスからバラク団長の全ての武器について聞かされている。ゆえに八剣の弱点をよく知っている。
「ずっと避けてばっかりじゃないか。もっと攻めて良いんだぞ。」
「嫌ですよ。それに…そろそろ時間じゃないですか?」
「ん〜まあそうなんだよな。」
そう言うとバラク団長は八剣を解除した。八剣は重量変化やバラク団長の8割戦闘に耐えられるように常に魔力を消費し続けている。そのため長時間の戦闘に向いていないのだ。
つまり逃げ続ければそのうち勝手に終わってくれる。なんとも使い勝手の悪い武器だが、だからこそ試作剣の部類に入るのだ。
そしてメスティは一気に詰め寄る。この次は一番良くないのだ。なるべく早く潰す必要がある。しかしバラク団長を守るように浮遊している盾に行く手を遮られる。
「くそ!やっぱり九剣の防御は甘くないか。」
「ははは、頑張れよ。」
バラク団長は突っ立ったまま動かない。しかしその周囲を浮遊するいくつもの盾によりメスティは一向にバラク団長に近づけない。
これが九剣。最終形態の天剣の手前の武器。最後の試作剣。しかし性能だけで言えば天剣にも劣らない。
九剣の性能は防御特化。盾に内包された魔力を大量に消費し続けることで得られるバラク団長最高の防御。しかし防御以外にももう一つ効果がある。
息の上がっていたバラク団長の呼吸が整っていく。その姿はこの試合が始まる前よりも元気そうに見える。そう、九剣は絶対防御と回復を併せ持った武器なのだ。
この九剣の魔力を使い果たす頃にはバラク団長の疲労や怪我は一切無くなっている。そして完全回復したバラク団長が取り出すのは最強武器、天剣だ。
「まさか天剣を使うことになるとはな。今回はこいつにするか。」
「ようやくお目にかかれたな。3つの天剣の一振り、王薙。」
王薙とは巨大な薙刀のことだ。ただし、ただの薙刀ではない。メラギウスが持てる全ての知識を使って完成させた最強の薙刀だ。この王薙はバラク団長の全力を引き出してくれる。それどころかこの王薙の力を合わせることで本来のバラク団長の150%の力を発揮させる。
「メスティ、一つだけ言っておく。…死ぬなよ?」
振り下ろされる王薙。しかしメスティとバラク団長の間はかなりある。そこからでは決して届かない。だがメスティは直感的に危険を察知し、上からの攻撃を防ぐように構えた。
そして次の瞬間、王薙が振り下ろされたのと同時にとてつもない衝撃が落ちてきた。その威力は思わずメスティが苦悶の表情を浮かべるほどだ。
一体どう言う理屈なのか考える暇がない。全身全霊でこの攻撃を防がなくてはならない。だがメスティはその時、王薙が横に払うように動くのをみた。
「まじ…か…」
王薙による一線。それは上部からの攻撃を防ぐのに必死であったメスティを吹き飛ばすのには十分であった。
大きく吹き飛び、そのまま壁にめり込むメスティ。その瞬間勝負は決まった。これ以上戦いを続けるのは不可能。それはめり込んだ壁からずり落ち、地面に横たわろうとしているメスティを見れば歴然であった。
だがその時、バラク団長は笑った。それはあの一撃を受けても未だ闘志を漲らせているメスティが動き出すのを見たからだ。
「はっ…け…よい……」
倒れこむメスティが踏み込む足元がひび割れる。そしてメスティがこれまで見せたことのない速度でバラク団長へと一気に近づく。だがバラク団長はそんなメスティを迎撃するように王薙を振り下ろした。
これ以上はさすがにメスティが死ぬ。そう思い試合を止めようとする騎士達。しかしそんな騎士達はメスティから溢れ出る闘志に当てられ思わず足を止めた。
「いいぞメスティ!!!」
「河童流相撲…」
メスティは薄れゆく意識の中思い出していた。あの河童と出会い、相撲を教わる毎日。そんな毎日の中で学び続けた技を。これだけはたとえ気を失おうと自然と繰り出せる。
「河童張り手ぇ!!」
メスティの張り手とバラク団長の王薙がぶつかり合う。しかしただの平手打ちとメラギウスが作った最高傑作の王薙では比べ物にならない。メスティの腕は間違いなくふき飛ぶ。
しかしメスティは知っている。この王薙よりもあの河童の方がよほど恐ろしいことを。そしてこの張り手はあの河童相手に何度もなんども鍛え上げられた。
この一撃はバラクの一撃にも勝るとも劣らない。
「なっ!!」
王薙が弾かれ、大きく後退することとなったバラク団長。その表情には汗が流れている。メスティの一撃がバラク団長の一撃を超えたのだ。
「お前は…本当に楽しませてくれる。さあ、もっとやろう!」
「団長!もうそこまでです。」
「何を言ってる!ここからが…」
「もう無理です。メスティに意識はありません。」
興奮したバラク団長は気がつかなかったが、メスティは今の一撃に全てを注ぎ込んだ。そして先の王薙による一撃が想像以上に響いていたのだろう。メスティは立ったまま気絶している。こうしてバラク団長とメスティの戦いに決着がついた。
 




