第80話 vsバラク団長
「おう!メスティ、ようやく…何してんだお前…」
「ふぉふぉふふぁふぃふぁふぃふぁ」
いくつもの野菜を抱え、それを頬張りながら歩いてくるメスティ。そんなメスティを待つバラク団長の周囲には大勢の騎士達が死屍累々のように転がっている。
「んぐ…はぁ…水水。それにしても随分遊んでましたね。」
「せっかくお前とやるんだ。準備運動は念入りにな。しかしお前…随分と余裕そうだな。」
「何言ってんですか!しっかりと土耕して飯食って来たんですよ!団長こそ飯食わなくて良いんですか?途中で腹が減ったとかそんなのはダメですよ。」
なんともキリリとした表情のメスティ。しかしこれから模擬戦とはいえ戦うのにろくな準備をしていない。なめているとしか思えない。しかしバラク団長はメスティに言われるとその言葉に従うように軽食を取り始める。
「それでルールはどうしますか?」
「ん?参ったって言ったらお終いだ。それ以外はなんでもあり。殺しちまったらごめんなさいだ。」
「相変わらず野蛮ですね。女の子にモテませんよ。」
「俺はとっくに結婚しとるわ!というかお前そんなの気にしないだろ。」
「一応俺もお年頃ですよ。結婚も視野に入れていかないと。」
「ん…それもそうか。お前もそんな歳か…俺も老けたもんだな。」
「もうジジイですね。」
ヘラヘラと笑うメスティ。それを怒るバラク団長。なんともふざけたやり取りに見学に来た騎士達からはかすかに笑い声が聞こえる。すると上の方から声が聞こえた。
「メスティ来たか!もう始めるか?」
「いえ、もう帰ろうかと思って。」
「そういうわけには行くか!陛下、今から始めますのでちゃんと見ておいた方が良いですよ。」
はぁ、と大きなため息をつきながらバラク団長の元へ向かうメスティ。メスティがバラク団長の前に立つとバラク団長はなんとも嬉しそうな笑みを浮かべる。
「久しぶりだな。今日は楽しませてもらおう。」
「あ〜やだやだ戦闘狂なんだから。とりあえず一剣から始めませんか?」
「なんで訓練用の一剣なんだよ。まあウォーミングアップがてら三剣からやってやるからそれで我慢しろ。」
そう言うとバラク団長の服装が切り替わり、鉄の鎧と長剣を腰に携えた姿へと変わった。そして長剣を抜き放つと嬉しそうに笑みを浮かべる。メスティは対照的にひどく嫌そうな表情を取っている。
「おい、誰か合図しろ。」
「で、では私が…始め!」
一人の騎士によって合図が出される。その合図とともに動き出すバラク団長。しかしその動きはすぐに止まった。メスティが手を差し出してきたのだ。
「んじゃまあ握手でもしてから…それから始めでも良いですか?」
「もう開始の合図は出ただろうが。ったく…」
バラク団長は差し出されたメスティの手を握る。なんとも締まらない始まり方だ。上から見ている国王もさぞがっかりしていることだろう。だがバラク団長は気がついた。これは罠だと。
「反応が遅いですよ。」
ただの握手。しかしメスティはその握手を攻撃として利用した。突如バラク団長がその場で転かされるとメスティは空いている手で追撃の連打を加える。
何発かもらった後にその場を飛び退くバラク団長。その装備は先ほどまでと変わっている。さらに周辺に鉄片が転がっているではないか。
「え〜何発かダメージ与えられたと思ったんだけどな。まあ三剣を飛ばして四剣を破壊できただけでも良しとするか。」
「こ、このやろ〜…やる気ないのは振りだけか。」
「当たり前じゃないですか。久々に団長とやれるんだから。それに言ったでしょ?土耕して飯食ったって。準備は万端ですよ。」
ケラケラと笑うメスティ。しかしそれを見た一部の騎士達からは怒声が上がる。これはあまりに騎士道精神にかける行為だと。
「ふざけんな!騎士の決闘を汚しやがって!!」
「何を言うかと思えば…俺は騎士じゃない。そんな簡単なこともわからんのか?だからお前らはダメなんだ。自分たちは騎士だろうが、相手は騎士じゃないことの方が多いんだ。相手に騎士道精神求めんなこの馬鹿ども。」
「ふざけやがって…俺が相手になってやる!」
バラク団長とメスティの戦いに割って入ろうと立ち上がる幾人かの騎士達。しかしそんな彼らをバラク団長は怒鳴りつけた。
「相手が騎士道精神を持っていないからどうした!そんなことで俺の戦いに割って入るつもりか!この俺を侮辱するつもりか!」
「そ、それは…申し訳ありません……」
バラク団長に怒鳴られすぐに座り込む騎士達。メスティは周囲を見回し騎士達の表情を確認する。そして大きくため息をついた。
「団長。少し指導が甘っちょろいんじゃないですか?随分と質が下がった。この程度でうろたえるなんて…」
「明日から徹底的にシゴいてやる。少し綺麗好きな騎士が増えたみたいだ。騎士の泥臭さも教えてやらんとな。」
バラク団長の装備が再び切り替わった。この装備は五剣と呼ばれるが剣ではなく2つの棍棒を携えた装備だ。
「しかし最短記録じゃないか?上手いことやったな。」
「普段は四剣に時間かかりますからね。五剣は楽なんですぐに六剣を出させてみせますよ。」
メスティは一気に詰め寄る。だがバラク団長はすでに反応しており、近づいてきたメスティに対し棍棒による乱打を放つ。だがメスティはそれを躱し、拳で弾く。
そしてしばらく攻防を続けるとメスティはバラク団長の鎧に一撃加える。すると再び装備が切り替わり、青龍刀を構えている。
「普通五剣はもっと難しいんだぞ。本当に得意だな。」
「メカニズムさえわかれば怖くないですよ。まあ初見殺しなところはありますけどね。さて…ここからが大変なんだよなぁ…」
メスティは肩を回し、気合いを入れ直す。ここからがバラク団長の本当の戦いだ。




