第79話 騎士達への刺激
「大臣のフーゲッチが関わっているのは間違いないかと思います。襲ってきた奴から吐かせました。おそらく城内にもまだ関わっているものたちがいると思われます。ただ…」
「あれが全てを牛耳っておるわけではない。麻薬を牛耳っておるのは北方の辺境伯、カールド・フェデルであろう。」
「そこまで…確かかの辺境伯は……」
「うむ、王族の血筋だ。影響力も高い。下手に麻薬のことを追求すればどうなるかはわかるな?」
「もちろんです。」
王家の血筋が入った貴族。もしも王家が断絶するようなことがあればこの家から次代の王が選ばれることになるだろう。しかしそれゆえの不安もある。
「フェデルが自身の子か孫を王にしようと企むという可能性は…」
「なかろう。なにせ旨みがない。下手に国が傾くことが起きれば隣国に襲われこの国は滅びる。おまけに戦争に備えて軍事費を毎年増額させておる。それよりも地方で麻薬を売り払い金儲けした方が豊かに暮らせる。あれは無駄な権力を求めるより金を求めた方が良いと知っておる男だ。…うむ!このコカトリスの卵は美味であるな!」
「ありがとうございます。」
熱々のコカトリスの卵を頬張り、満面の笑みを浮かべる国王。普段は長時間の毒味のせいで冷めたものしか食べられないので、余計に美味しく感じるだろう。
さらに野菜も気に入ったのかバクバク食べている。あまり上品な食べ方とは言えないが、美味しそうに食べている。随分と気に入ってくれたらしい。
「メスティよ。もしも商売するのならフェデラルの元に行くと良い。麻薬のおかげで潤っておるから良い値で買い取ってくれるぞ。商人たちも随分懇意にしているようだ。」
「そこで懇意になった商人に麻薬を運ばせると…あまり野放しにしていると麻薬のせいで国が傾きますよ。」
「それがそうでもない。まともな貴族は自分たちで麻薬を使うことはないが、マヌケな貴族は自分で使う。そして常用していくうちに頭がおかしくなる。そうなった奴は国内で禁止されている麻薬を使用したという罪でお家取りつぶしになる。そうやって貴族派の家がいくつか取り潰しになっておるよ。」
「…貴族派の力を削ぐために麻薬を利用しているんですか。」
「毒も使い方によっては薬となる。最近は貴族の数が多くて、新たに爵位を与えるのが難しかったから無能の家が潰れてくれると助かる。うむ、美味であった。」
満足げに腹をさする国王。人の良さそうな顔をしてえげつないことを考えるものだ。麻薬を利用して国内の貴族たちを入れ替えるなんて。
しかもフェデル辺境伯はかなりの高齢だ。あと10年もすれば寿命で亡くなるだろう。それまでに貴族派の貴族を麻薬を利用して取り潰しにし、国王に忠誠を誓う優秀なものたちを貴族にさせる。
そしてフェデル辺境伯が亡くなる頃には国王派の貴族が多数派となり、貴族派の重鎮でもある次代のフェデル辺境伯を麻薬やその他諸々の罪で取り潰しにするのだろう。
そうすればこの国王の独裁国家としてこの国は生まれ変わる。そうすればこの国は強くなるだろう。そして豊かな国になるだろう。
「そのためには魔導拳闘家のやつをどうにかしないといけませんね…」
「うむ、あの国は強敵だ。3年以内に兵力を彼の国より上にしないといけないだろう。そのための第一歩としてバラク、お主に勝ってもらわなければならぬ。…この国にお主以上の男はいないのだから。負けは許さぬ。」
「もちろんです陛下。メラギウス殿から最強の一振りを賜った時。その時がやつの最後です。」
「頼むぞ。……本当はメスティ。お主に任せようかとも思っていたのだがな…もしもお主が戦闘系の加護を手に入れていたら…」
「もう過去の話ですよ。それに俺は団長の七剣までしか対応できませんから。」
「加護なしの状態で七剣まで対応できたのだ。そんな人間、他に聞いたことはない。一般騎士でも五剣まで対応できれば良いほどなのに……そうだ。久しぶりに手合わせをしてみてはどうだ?良い刺激になるだろう。」
「団長とですか?いやいや…最近は農作業ばっかりでまともに戦闘できてないから…七剣まで行けるかどうか…」
「それでも構わぬ。他の騎士達の刺激にもなる。では明日の朝としよう。私も観戦させてもらうぞ。」
そうと決まると国王は明日の分の仕事を少し終わらせておくと仕事をしに行く。こうなってしまってはメスティは断ることもできない。バラク団長はどう思っているのかと横を見ると嬉しそうな笑みを浮かべている。
「これは明日が楽しみだな。今日は早めに休んでおこう。」
「やる気満々じゃん…やだなぁ……」
そして翌朝。バラク団長との戦いに備えて準備運動をしていたメスティだが、なぜかムズムズしてしまい鍬で庭を耕し始めた。もう完全に農民になってしまったらしい。これが一番落ち着く。
そして無心で庭を耕していると何者かが近づいてくる気配を感じる。メスティはその誰かの方に一切目を向けないが、それでも誰が来ているかはわかっている。
「どうしたんだポーラ。午前中の訓練は良いのか?皆やっている頃だろう?」
「そういうあなたこそ何しているの?そんなところ耕して。」
「準備運動だ。これが一番落ち着く。それに身体も温まる。」
「…聞いたわよ。団長と戦うって……」
「ただの模擬戦だ。別にそこまで本気になる必要は…」
「団長は張り切ってるわ。もう何人も騎士達を失神させてる。」
「張り切りすぎだろ…こちとら戦闘系の加護じゃないんだから。そんな本気出されたってな……」
「団長は本気でやりたいそうよ。だから私にあなたの練習相手になってやれって。」
「えぇ……」
バラク団長はかなり本気だ。メスティのことを考え、同期であったポーラを練習相手によこしたのだろう。魔法騎士の加護を授かっているポーラであれば良い練習相手になるだろう。だがポーラをちゃんとみたメスティは何かに感づいた。
「最近伸び悩んでいるみたいだな。去年会った時とあまり変化がみられない。」
「な……わかるの?」
「ああ、技術的な面は多少上がっているとは思うが魔力量や強さの気配的なものがあまり変わっていない。俺の練習相手というよりもポーラの練習相手って感じだな。」
手を握る力が強くなるポーラ。おそらく本人も伸び悩んでいることを気にしていたらしい。メスティと戦うことで何かきっかけが得られるとバラク団長は考えたようだが、メスティはそうは思わない。
「まあ俺の練習相手はいいや。団長と戦う前に疲れたくないからさ。それよりも見学くるんだろ?一番見やすいところで見学しておきな。団長の戦いは間違いなく参考になるはずだ。それよりも今から飯食うんだが一緒にどうだ?うちの野菜食べていきなよ。美味しいぞ。」




