第78話 王との会談
「しっかしお前面白いことになってんな。」
「王にあの地へ送られたときはどうなることかと思いましたけどね。まあ結果的には…ずいぶん愉快なことになってますよ。あ、それ美味しそう。」
「いいぞ。買ってこい。」
小銭を貰い屋台の食事を買いに行くメスティ。城へ向かうまでこの腹ペコの状態は耐えられないメスティはそこら中で買い食いしている。
「しかし団長は相変わらず移動は徒歩なんですね。」
「見回りがてら丁度良い。いざという時動きやすいしな。」
「まだあの時のことトラウマなんですね。メータルさんも食べますか?」
「ありがとうございますメスティくん。」
メータルのような身分の人間が買い食いをするのは非常に珍しい。まあこれもメスティとバラク団長の影響だ。メラギウスのところに行くたびにこんな感じなので慣れてしまったのだ。
「あの時は大変だったんだぞ。他人事だからって…おれにもくれ。」
「はいはい。けどあれを聞いた時は笑ったなぁ。まさか路地に逃げた盗人追いかけるために馬を置いて行ったら馬まで盗まれてんだもん。副長からは普段から独断が過ぎるせいだって怒られるし。」
「馬が見つかるまで毎日探し回ったもんだ。あの時はお前に助けられた。」
「傭兵業やってたおかげでそういうのも詳しかったからね。そう言えば王に会うのに服装これで良いの?」
「いいんじゃないか?買うの面倒だろ。」
「いや、人の金で買うからそこは我慢する。」
「俺にたかる気かよ。服装ぐらいでごちゃごちゃいう王じゃない。パパッと済ませるぞ。」
軽く腹ごしらえをしたメスティは急ぎ足で城にたどり着いた。メータルとバラク団長に挟まれているメスティは誰かに引き止められることなく、するすると城の内部へと入って行く。
城の中では見回りの騎士や、訓練を行っている騎士たちの姿がある。それをちらっと見たメスティはふと思い出した。
「そう言えば魔法学校で同期だったポーラはどんな調子ですか?」
「ん?…ああ、あの子か。良い加護にも恵まれているし、訓練も疎かにしない。だがまあ……まだ若過ぎるな。いずれは良いところまでいけるんじゃないか?」
「ふ〜ん…」
「ほれ、そんなことよりも着いたぞ。ちょっと待ってろ。」
大きな扉の前で待たされるメスティ。先に中へと入って行ったメータルとバラク団長の話はしばらくかかることだろう。そう思い野菜を取り出してかじり始める。すると予想以上に早く話が済んだのかすぐに呼ばれた。
慌ててかじった野菜を飲み込むと軽く服装を整えて部屋へと入る。そこには大量の書類に囲まれた恰幅の良い男がいた。
「おお!メスティ!久しいな!元気であったか?」
「なんとか元気にやっています。王も相変わらずお元気そうで。……また太りましたね?」
「気苦労が絶えんのだ。毎日こうして書類に目を通していれば運動不足で太りもしよう。とりあえずそこにかけよ。色々話すこともあろう。」
「では失礼します。」
椅子に腰掛けるメスティ。王は数枚の書類に目を通すと椅子から立ち上がりメスティへと近づいてきた。そして大きくなったと言いながらメスティの頭を撫でる。
「では聞かせてくれ。この街を離れてからどんな経験をしたのか。」
「では…あまり長くならないように…」
「…と、いうことがありました。」
「ほっほっほ。良い経験をしておる。聖樹に龍に魔大陸からきた河童。そして魔導農家の力か。しかし錬金術の加護持ちを仲間にしたのか。実に運が良い。」
「いまやアリルは私には欠かせない人材です。ですので…」
「良い良い。どうせお前のことだ。渡さないために手を打ってあるのだろう?好きにしなさい。」
「ありがとうございます。」
「ただし情報を他に貴族達に漏らさないようにしなさい。重要な秘密があり過ぎる。そうだな…いくつか功績をあげて上の爵位を目指しなさい。そうすれば誰も口出しできなくなる。」
「わかりました。それでなんですが、現在国内流通している麻薬の件をどうにかしようかと考えております。少しお力添えをお願いできませんか?」
「ふむ…こればかりは難しい問題だな。関わっている貴族の数が多く、そして地位も高い。無理やり撲滅すれば軋轢を生む。下手をすれば国内に争いの火種を生みかねない。」
「では…手出しをするなと?」
「いや、そういうわけにもいかんだろう。放っておけば国が腐ってしまう。幾人かみせしめになってもらう必要がある。……死神と呼ばれる闇ギルドの人間が欲しいんだったな?」
「ええ、あれは優秀な人材です。是非とも仲間に引き入れたいです。」
「ふむ…」
王はたるんだ顎を撫でながらしばらく悩む。そしてメータルに地図を持って来させるとテーブルの上に広げて再び悩む。そしてしばらく長考したのちに笑みを浮かべた。
「ではメスティよ。ここへ向かいなさい。」
「ここは…チェラグニュール山脈?私の情報では北の方と…」
メスティは予想外の場所を指定され、困惑する。しかし王の表情を見たメスティは少し考えると大きく息を吐いた。
「わかりました。ではこの地に向かいます。しかし…理由はどうしましょうか。私がそこらをうろつくと問題視する貴族も出てきます。」
「この辺りには牛飼いが多く済んでおる。羊を飼っているのなら、牛が欲しくなってもおかしくはなかろう。」
「確かに。牛か……良いですね。」
「乳製品を作るのもよかろう。街に運べば良い値で売れるぞ。私もチーズは大好物だ。溶かしてパンに乗せると美味でな…」
「そんなのばっかり食べているとまた太りますよ。少し団長に運動させてもらった方が良いんじゃないですか?」
「ほっほっほ、ここまで太ると運動はかえって体に悪い。それに大事な仕事をおろそかにはできぬ。」
「じゃあ食生活変えましょうか。うちの野菜を山ほど置いて行くので野菜をたくさん食べるようにしてください。」
「構わぬぞ。野菜も好きだ。好き嫌いはないからな。食というのは私の中の探究心を刺激してくれる。いくら食べてもその欲は薄れぬ。ああ、コカトリスの卵も置いて行きなさい。」
「わかりましたよ。…野菜も食い過ぎれば太るのかな?なんか不安になってきた。」
「ああ、もうこんな時間だ。皆の分の夕食も用意させよう。今日は賑やかな食事になりそうだ。」
ウキウキと喜ぶ王。よほど食事が楽しみなのだろう。そしてもうしばらく話したのちに夕食の時間が近づくと我先に食事場所へと向かって行った。




