第77話 メラギウスへの土産
「飯は先生のところでご馳走になって…泊まるのはハドのところで良いかな?その時に色々情報聞き出して…団長にも色々話聞かないと。ん?」
メスティは立ち止まり背後を見る。するとそこには騎士団団長バラクの姿があった。その隣にはひ弱そうな男がいる。
「ようメスティ!いつ来たんだ。」
「今しがた来たばっかりですよ団長。それにお久しぶりですメータルさん。もしかして先生のところに用事ですか?」
「お久しぶりですメスティくん。ええ、メラギウス様に話があるんです。こんな状態ですけど一応王命なのですよ。」
「ははは、先生は着飾った奴が来ると全部剥ぎ取って研究費にしますからね。ああ、私も先生に用事があるので横道使いますか?」
「そ、それはありがたい…あのガーゴイルに襲われながら待つのはいつになっても慣れなくて…」
気弱そうなメータルという男はへこへことメスティに頼む。なんとも頼りない男だが、これでも王の側仕えでそれなりの権力を持っている。
そしてメスティはバラクとメータルを引き連れてメラギウスの屋敷へと入って行く。すんなりと屋敷に入ったメスティはズカズカとメラギウスの書斎へと向かった。
「せんせーい!来ましたよ〜!とりあえず腹が減ったんでご飯おごってくださ〜い!」
「やかましいぞ馬鹿弟子!ゾロゾロ引き連れて来おって!」
「お、お久しぶりでございますメラギウス様。王からの書状を持ってまいりましたので確認をお願いします…」
「ふん!またお前か!いつもなよなよしおって!そんなもの知らんわ!その辺に置いておけ!」
どうやらメラギウスは機嫌が良くないらしい。メスティはその辺にあるメラギウスが目を通したと思われる書類を見て苦笑いをする。
「11番目の剣の開発ですか。そりゃまた…」
「多少のアイデアがあったところで材料がなければどうにもならん。今あるもので天剣を超えるものを作るのはなんとも…」
ぶつぶつと呟きながら一人の世界に入り込むメラギウス。大方王からの書状の内容も11番目の剣の開発を急がせるものだろう。
「それだけ厳しいんですか?あの魔導拳闘家との戦いは…」
「前回は天剣の3つのうち2つは破壊された。次の戦いでは…すべて破壊されてもおかしくない。」
「前回はいつでしたか?」
「お前がいなくなった翌年だ。時期的には来年…もしくは再来年には来るな。だから天剣を超える武器が欲しい。」
天剣。それはバラク団長が保有するメラギウスが作成した魔法剣のことだ。非常に強力な魔法剣で、これまで天剣の前に敵なしと言われて来たがそれを超える敵が現れたようだ。
「次回の戦いでトドメ刺さないと厳しいですよ。」
「わかっているが、相手は軍事国家だ。下手に欲をかけば殺した後に他の奴に殺される。だが…次は総力戦で奴を殺す。」
バラク団長と隣国の魔導拳闘家の戦いはこれまで幾度と行われて来た。今のところ全てバラク団長が勝っているが、トドメを刺す前に必ず逃げられている。そして戦いごとに魔導拳闘家の奴は強くなっていく。
「しかし確実に殺すための11の剣か…欲を言えば天剣全てをまとめたくらいの強さは欲しいですね。」
「それができたらやっておるわ!大体材料もなしにどうやってやれというんじゃ!作って欲しければ山のようなミスリルを持ってこい!そして強力なモンスターの素材でも持ってこい!なんならドラゴンでも狩ってこい!」
「龍が狩れたらそんな武器なんかいらないだろうよ。第一そんなおとぎ話まで出して来るなんて…随分追い込まれてんな……」
バラク団長は少し落ち込んだ表情を取る。本当はバラク団長が武器に頼らずとも戦えれば良いのだが、魔導の加護持ち相手に強力な武器なしに戦うのは厳しい。するとメスティはリュックをおろした。
「そうそう先生にアリルからお土産があるんですよ。」
「あ?今は研究成果を見ている暇は…」
ゴトン、とテーブルの上に金属の塊を乗せるメスティ。それを見たメラギウスは息をすることをやめた。そしてメスティがさらに金属の塊を追加するとわなわなと震え始めた。そしてもう一つ追加すると今度は膝から崩れ落ちた。
「とりあえず3つまでは用意できたんでうまく活用してください。」
「ば、馬鹿な…こんなミスリルの塊……」
「あ!そうだ。先生のとこで確認したくて。コカトリスの研究資料ってここにありましたっけ?」
「そこだ……」
ミスリルの塊に抱きつきながら軽く指をさすメラギウス。その指の先にある資料を確認して行くメスティ。そしてバラク団長は小さくガッツポーズを取る。
「ジジイ!これなら…!」
「ああ、なんとかなるやもしれん。天剣を超える武器…必ず作ってみせよう。」
目に闘志がギラギラと燃え上がるメラギウス。そんなメラギウスを尻目にメスティは一つのボロボロの資料を手に取った。
「あったあった。これこれ…」
「メスティ、このミスリルは一体どうした?これほどの量のミスリルはこの辺りで取れるはずがない。」
「うちの特殊な取引先です。それよりも覚えてますか?この研究資料。」
「ん?ああ、キメラ研究の…コカトリスに関する研究じゃな。確かコカトリスが2種の異なる生物を同じ体に持てるのは龍の因子がどうのこうのとか…だが憶測が過ぎる。」
「実はそうでもなかったんですよ。うちの村の近くに現れたんです。龍化したコカトリスが。」
「何!?」
「おいおいマジかよ…今は隣国との方に集中したかったが…」
「あ、危険性はないです。非常に知性が高く、会話の成り立つモンスターです。今ではうちの取引先になってまして……あ、いくつか素材を持って来たんで色々調べてくれませんか?」
メスティはリュックの中からコカトリスの素材を取り出して並べて行く。羽、爪、血液、鱗、卵の殻。それを見たメラギウスは興味津々だ。
「好きに使ってもらって構わないんでこれがなんなのか調べてください。正直…モンスターという分類から外れそうなんです。俺にもどういうことかわからないんですけど…」
「モンスターの分類から外れる?」
「ええ、モンスター特有の荒れた魔力が感じられないんです。非常に安定した魔力の流れで…目視で確認するまでただの動物かと思うほどでした…それにほら、国のモンスターの感知器で観測されていないでしょ?」
「ふむ、確かにそういう話は聞いていないな。どうだ?」
「多少忙しいとはいえ、モンスターが出たのに黙認するような真似はしない。それにメスティの感知は抜群だ。そのメスティがモンスターの魔力を感じないというのなら…そうなんだろう。」
「ふむ、龍化したというところにヒントがありそうだな。何か龍化したのに心当たりは?」
「ああ、その理由ならわかります。うちの村に地龍が出ました。」
「……今なんと?」
「だから地龍。アースドラゴンです。いや、アースドラゴンなんていい方するとダメですね。かつて観測された龍もどきとごっちゃになる。うちにいるのは間違いなく本物の龍です。一度暴れれば国が滅びる。あ、これも見て欲しいんですよね。その地龍の身体から落ちた土砂なんですけど…多分垢くらいは入ってます。」
リュックの中から巨大な瓶を取り出すとゴトンと置いた。それを見たメラギウスはキラキラと目を輝かせ、まるで子供のように夢中になっている。
「どれほどの大きさだ?どのくらい強いと感じた?」
「最初見たときはでかい岩山かと思いました。この屋敷の倍以上はありましたね。ただ…俺の予想ですけど、わざと大きさを小さくしてます。本気ならあの数倍はでかくなるでしょう。きっと城よりも大きいと思います。強さは強すぎて不明です。一度、甲殻の一部を欲しいと言ったら取れたらやるって許可もらいましたが、硬すぎて無理でした。まる半日頑張りましたけど、傷すらつかない。まあ絶対に勝てないですね。」
「そうか!そうかそうか!なんと素晴らしい…まさか龍が現れるとは…」
「お、おい。危険性はないのか?」
「こっちもコカトリス同様温厚です。今はうちの村の野菜を食べて満足しているから問題はないです。まあ危険だったとしても手の出し様がないですけどね。」
相手があまりに強大すぎてなすすべがない。まあメスティの言葉を信用し、何もしないというのが得策だ。
「それよりも…先生が言っていたものすべて揃えましたよ?とびっきりの作れるんじゃないですか?」
「ふっ、逆にハードル上げおって!…ここまで揃えられたら生半可なものは作れんな。このコカトリスやら龍やらの調査はしておく。だが今はわしの生涯最高傑作を作るのに集中させい。」
「良いですけど…お昼ご飯……」
「奢ってる暇なんかないわい!王城に行って飯でも食わせてもらえ!」
「え〜…」
「そ、そうしてもらえると助かります。今の話は陛下へ報告しないと…」
「わっかりましたよ…城の飯は毒味やらで冷えてて美味しくないんだよなぁ…毒程度じゃ死なないのに。」
「ん?言えば温かいの食えるぞ。」
「え!本当ですか!?よし、城に行きましょう。それじゃあ先生、帰る前にまた来るんで。」
メスティが声をかけるが完全に集中してしまったメラギウスには何も聞こえない。あの様子ならば年内に成果が上がることだろう。そしてメスティはバラク団長とともに城へと向かった。




