第72話 森の異変
予約投稿ミスりました。
翌日のこと。特に変わりなく農作業に励み、いつものように作物を収穫する。しかし森に入っていたフォルンとエラミが昼飯時に手ぶらでため息をつきながら戻ってきた。
「ん?収穫なしか?」
「昨日全然狩れなかったから今日は午前中からって思ったけど全然ダメ。狩尽くしちゃったのかなって思うほどなにもいない。」
「…気配がない……」
「ん〜?俺たちも何年かここに住んでいるけど、そんなのは初めてだな。何かあったのかな?でも…特にこれといって感じないんだよなぁ。」
森を眺めるメスティ。普段から襲撃に備えて周囲を感知しているのだが、これといった異変は感じられない。ただ、フォルンたちが言う通り生き物の気配は少ない。
「仕方ない。肉は食いたいからな。午後は俺も狩に行ってくる。どうせだから修行もつけてやるよ。」
「本当ですか!やった!」
「ありがとうございます…」
メスティの稽古がつけられると聞いて喜ぶ二人を見て、若干ふてくされるアリル。自分もメスティと一緒に行きたかったのだろう。メスティもそんなアリルに気がつき、少し困った表情をとった。
「アリル、お前にはここの防衛を頼んだ。最悪の場合自分たちの命を優先させて、ワディたちのところに逃げろ。今のお前ならそのくらいできるだろ?」
「まあ…色々薬品使えばなんとか……」
「頼りにしてるぞ。」
その言葉を聞いたアリルはふてくされながらも若干の笑みを浮かべる。そして昼食後、メスティはフォルンとエラミを連れて森へと入っていく。
そしてその日の夕方頃。大きな鹿を抱えて疲れた様子の3人が帰ってきた。ただフォルンとエラミが疲れているのはわかるが、メスティまで疲れていると言うのはなんとも珍しい。
「随分遅かったですね。」
「大変だったんすよ。探しても探しても獲物がいなくて…」
「…帰り際、ようやく見つけた。」
「ここまで獲物がいないのは初めてだ。自然的なもの…と考えるのは違うな。何かが起きてる。明日は本格的に森の中を探索してみるわ。」
「わかりました。それじゃあお風呂に入ってきてください。その間に解体しておきますから。」
「すまんが頼んだ…」
魔力による広範囲の探知をし続けたメスティは風呂に入って体を休める。しかしこれだけ探知しながら探索したと言うのに、獲物は見つからないし獲物がいなくなった原因もわからない。
軽く調べればこの森で何が起きているのかすぐにわかるものだと思っていたメスティだったが、随分計算違いであった。
「これだけ探索してもダメってことは結構遠方だよな。戦争でも起きてたか?もしくは飢饉?…いや、それなら逆にこっちに動物たちが逃げてくるはずだから……まあ明日しっかり調べてみるか。」
そして翌朝。いつものように日の出る前から祭壇へ祈りに向かう。そしていつものように手を合わせ、祈り始める。
「本日は農作業は少し休み、森の中で何が起きているのか調査したいと思います。ただ動物たちがいないだけならば良いのですが、何か災いが起こる前兆なのだとしたら食い止めたいと思います。それでは…」
立ち上がるメスティ。すると突如強い風が吹いた。その風に木の葉が舞いあげられ、風とともに森の中へと消えていく。その様子を見たメスティは啓示を感じ取った。
「あの風の吹いて行った方向…ですか。ありがとうございます。」
メスティは走った。風を追いかけるように。その方向はメスティたちの家とは反対側の方向。こちら側はあまり来たことがなかった。するとメスティは水の流れる音を感じ取った。
「ここの森には川なんてなかったはずだが…もしかして……」
メスティは道を外れて音の方へと向かう。するとそこには緩やかに流れる小川があった。こんなところに小川があったのかと驚くかと思いきや、意外にもメスティは冷静に小川を観察していた。
「やっぱこの小川そうか。これうちの井戸水だ。」
流れてくる方角、小川周辺の植生、その他諸々からメスティはそれを推察した。確かに井戸水の排水を森の中にしたが、それがこんなところまで流れて来ているとは思いもしなかった。
ただ当然のことながらこの小川には魚はいない。ただの井戸水の排水のため、生命を感じられない。これで魚でもいてくれたらもう少し嬉しかったのだが、そうはまくいかない。
メスティはそんな川沿いを走りながらただひたすらに啓示のあった方角へと進む。するとメスティの感知にいくつか動物たちがいるのを感じ取られた。
「そうか。小川ができた影響で水のある方へ動物たちが移動して来ていたのか。これは俺たちの影響だな。今後は狩りに来るならこっちだな。」
これで動物たちがいなくなった理由は説明ついた。特に危険な理由でなかったのは幸いだ。これで問題は無事解決…したのだがメスティは帰ろうとしない。
「予想以上に早く終わったからな。どうせならこの小川がどこまで続いているのか見てみたい。上手くどこかの川と合流できればそこから魚が登ってくる可能性も十分ある。」
少しワクワクしてしまったメスティはさらに小川を下って行く。小川は土に水が染み込んで行っている影響で徐々に小さく、細くなって行く。だがそれでもあの井戸から毎日溢れ出る水はまだまだ小川となって森の中を流れて行く。
すると森の中からガサガサと大きな物音がした。鹿にしては大きすぎる。熊かもしれない。今後こっちで狩りをするなら危険な動物は把握しておく必要がある。
メスティは藪の中に隠れ、その正体を観察する。するとそこから現れたのは鶏だ。そして小川の水を飲んでいる。だがただの鶏ではない。尾が蛇なのだ。
「コカトリス!?そんなバカな……なんでこんなところにモンスターが…しかも通常種じゃない…大型種だ……」
メスティが文献で見たコカトリスは鹿くらいの大きさであった。しかし今目の前にいるコカトリスは人の背丈よりも高い。2m50はあるだろう。
栄養豊富な土地や寒冷な土地では通常種よりも体が大きくなることは聞いたことがあったが、メスティもそれをみるのは初めてのことだ。
ただコカトリスは通常種でも特殊な魔法を用いる危険なモンスターとされている。それが大型種となればさらに危険度は増す。そして何より、コカトリスの最も危険な点は…
「やっぱりか…」
冷や汗を流すメスティ。そんなメスティの目には森の中から出て来た他のコカトリスの姿があった。これがコカトリスの最も危険な点。群れを作ることだ。
モンスターは滅多に出現しない危険な生物。1体狩るだけでもとてつもない労力がかかる。それが群れでいるとなればその労力は膨大なものとなる。
「一体どの程度の群れなんだ…これ早いうちにどうにかしないと……とにかく現状を把握しよう。」
メスティは目の前にいるコカトリスを魔力感知しようとする。だが全く上手くいかない。メスティの魔力感知をもってしても目の前にいるコカトリスすら正しく認識できない。
おそらく感知妨害系の魔法を常時展開しているのだろう。強力なモンスターならばそのくらいのことはやってのけると聞いたことがある。
その魔法によってメスティはこれまでこのコカトリスたちのことに気がつかなかったのだ。するとそんなメスティのことをあざ笑うかのようにさらに3体のコカトリスが森の中から現れた。
「5体はやばいだろ…3体までならなんとかなったが…5は厳しい……」
するとメスティは足元からわずかな揺れを感じた。この揺れは少し遠くからのものだ。落石でもしたのではないかというような揺れ方。メスティはこの揺れがさらなる災ではないことを祈り、その揺れの発生源へと走った。
せっかくなので明日も投稿します。




