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第70話 新米

「よし、これで全員分の白米は揃ったな。」


 杵を片手にフルイにかけられた白米を眺めるメスティ。かれこれ1時間近く杵を振るい続けたメスティだが、疲れよりも白米が完成したことの喜びが大きい。


「でもこうしてみると欠けたのとか割れた米も結構ありますね。」


「まあこんなので叩きつければ割れるよな。本当は割れずに綺麗な状態の米が良いらしいんだけど……なんか方法考えてみるか。とりあえず、次の作業入るぞ。」


 白米を鍋に入れると井戸の方へ近づく。そして井戸の水で丁寧に米を研ぎ始めた。ジャッジャッとリズムよく洗われていく米は水を真っ白に変えていく。


「この作業は何ですか?」


「米を研ぐ作業だ。さっき杵でついて米の周りの糠ってやつを取ったが、完璧じゃない。だからこうやって水洗いして米糠を洗い流すんだ。」


「へぇ…どのくらいやればいいんですかね?」


「…どの程度米糠が残っているかで違うからそこは感覚だな。ただ洗いすぎてもよくないらしい。適度にが良いんだが…それがわからん。」


 とりあえず何度か米を研いでいくメスティ。そして徐々に米を研いだ際に出てくる白い水が薄くなってきたところで作業を止めた。


「たぶんこのくらいで良いはずだ。きっと大丈夫…」


「それでこの後は?」


「30分から1時間水につける。」


「…食べるまでにめちゃくちゃ時間かかりますね。」


 水につけている間に再び農作業に戻る一行は、そわそわしながら農作業をする。そして1時間後、米にしっかりと吸水をさせると米は白くなり、若干膨らんでいた。


「給水が終わった米を今から煮る。水が無くなるまで煮るそうなんだが、その間蓋をして開けないようにとのことだ。」


「開けちゃダメなんですか…ちなみに水の量は?」


「それは…この鍋の中に手を置いて手の甲に水が被るくらい…らしい。」


「…なんですかそれ。米の量によって割合がかなりバラバラになりませんか?」


「そうは言っても本にはそうとしか書かれていないんだ…」


 ガルのツッコミに若干の焦りを見せるメスティ。しかしメスティも本の情報しか持っておらず、これ以上は何とも言えない。


「それじゃあ火にかけましょうよ。」


「それなんだが、火のかけ方にもやり方があるらしい。はじめちょろちょろ中ぱっぱ…だそうだ。」


「…つまりはじめは弱火で、その後は…ぱっぱ?」


「火を強くしろってことだと思う。まあ…やってみよう。」


 米の入った鍋を火にかけるメスティ。まずは沸騰するまで弱めの火で炊いていく。そして沸騰し、吹きこぼれ始めたら火力を上げていく。


「吹きこぼれているけど大丈夫なんですか?」


「だ、大丈夫だと信じるしかない。ちなみに吹きこぼれが収まって数分火にかけたら完成とのことだ。米にはおかずが必要とのことだから準備を頼めるか?俺はこっちに集中したい。」


 ものすごい真面目な表情で米の入った鍋を見つめるメスティ。これ以上邪魔してはいけないと他の料理を始めるガルたち。


 メスティはじっと吹きこぼれる鍋を見つめる。そして数分後鍋の吹きこぼれが収まったところでメスティは鍋の蓋を触る。


「吹きこぼれは収まったが、中で水が沸騰しているようなわずかな揺れがある。水を米に吸わせないといけないらしいからこの水がなくならなくちゃダメだ。」


 蓋に触りながらわずかな感覚でタイミングを計る。そして蓋を触りながらじっと待ち続けたメスティは突如バッと動いて鍋を火から下ろす。


「もうできましたか?」


「いや、ここから数分蒸らしの作業に入る。蒸らし終えたら完成だ。今のうちにそっちの準備を終わらせよう。」


 米の影響で遅めの昼となってしまったが、その分時間に余裕があったため豪勢な食卓となっている。そして綺麗に並べ終えたところでメスティは米の入った鍋を持ってきた。


「よし、それじゃあ開けるぞ…」


 意を決して蓋をあけるメスティ。するとそこからは真っ白な湯気とともに湯気よりも白い純白の米たちが現れた。


 こんなにも真っ白な見た目の食べ物というのは珍しい。それを丁寧にかき混ぜ、一人一人お椀によそっていく。


「よし、全員分揃ったな。それじゃあ…いただきます。」


「「「「「いただきます」」」」」


 早速白米を口へ運ぶ一同。そしてその味を確かめるように何度もなんども噛みしめる。そしてようやく飲み込むと考え始める。


「う〜ん…これはパンの代わりの主食なんですよね?何というかそのまま食べるだけじゃ味気ないというか…」


「若干の甘みもありますね。しょっぱい食事に甘みのある米……なんか違和感がありますね。」


 そこそこの評価を受けている中、メスティは皆からだいぶ遅れてゆっくりと飲み込んだ。そして胸の部分を露出させるとそこには加護の証である魔紋が浮かび上がっていた。そしてその魔紋に変化が訪れる。


 それはこうべを垂れる稲の紋。初めてキュウリを食べた時と同じだ。そしてその時と同じようにメスティの魔力量が跳ね上がる。その膨大な魔力量は足元の雑草をみるみるうちに成長させていく。


「偉業の達成だな。また一つ強くなった。しばらく魔力の調整をしないとな。」


 わかりやすく強くなったメスティにフォルンとエラミは驚愕する。そして、その様子を檻の中から見ていた暗殺者は戦慄した。


 強くなるために血の滲み出るような特訓をしたわけじゃない。強大な敵と戦ったわけじゃない。だというのにメスティは明らかに強くなった。


 これまでも逃げ出せる可能性がなかったというのに、さらにその可能性がなくなった。


 するとメスティは席を立ち上がり、暗殺者の元へと近づいた。そしてメスティは暗殺者の檻を素手でこじ開けた。


「お前も稲刈りしてくれたんだから一緒に食べよう。ほら、来い。」


「ちょ…ちょっとメスティさん!檻壊さないでくださいよ!言えば開けますから!」


「素手で開けられるような檻じゃダメだろ。もっと丈夫なのを作って。」


「普通は素手じゃ無理なんですよ!…はぁ……」


「ほら、食え食え。」


 米の入ったお椀を手渡すメスティ。暗殺者はそれを拒むわけにもいかずに米を食べる。


「…甘い……」


「お?おお?反応が良いな。気に入ったか。」


 嬉しそうな笑みを浮かべる。どうやらこの暗殺者には高評価であったようだ。そして8人で食卓を囲み、食事が始まる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何でもかんでも「うめぇええ!!」「すげぇええ!!」には辟易なのできゅうりも米もいまいち反応が悪いのが逆に良き。 でもきゅうりみたいに斜め方向から高評価もらうんでしょうね、それもまた良き。 …
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