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第69話 精米

「まずい雨だ!お前ら急げ!」


 まだ日も出ぬ早朝。メスティの声で起こされた一同は大慌てで外へと飛び出し、稲架掛けされている稲を回収する。


 運が良いことにまだ降り始めであったため、そこまで雨に濡れることはなかった。だがその日は結局丸一日大雨が降ることとなり、家の中に避難させられた稲のせいで家が狭くなった。


 おまけに大雨の中でも農作業に休みはなく、ずぶ濡れの状態でいつもよりも余分に疲れた彼らには家の中でゆっくりくつろげないこの状況は痛手であった。


「と言うかこの稲、メスティさんの収納魔法の中に入らないんですか?」


「それなんだけどな…実はもう俺の時空ムロの中がいっぱいになってきたんだ。今日の収穫分入れたからもうほとんど入らない。」


「え!それってまずくないですか?」


「まずいんだよ。去年よりも作付け面積をかなり増やしただろ?おまけに加護の力がさらに強く働いているのか収量と収穫までの期間がかなり良くなった。」


「街に売りにいくのは…」


「もうちょい先のことになる。とりあえず今日から食いまくって食料消費加速させる。」


 メスティの異空間収納魔法である時空ムロは膨大な量が入るとはいえ、無限ではない。メスティもどのくらいの量が入るかは限界ギリギリまで収納しない限りわからないため、今日までそれがわからなかった。


「メスティさんの異空間収納に頼りすぎましたね。少し保存食を作ることも考えないと…」


「保存食か…ただ保存食を作るにしても塩がな……」


 保存食は水気を抜くか、過度な塩分を加える。もしくはその両方を行うことで腐敗を遅らせて長期間保存させる。しかしこの地では塩は貴重品であるため、塩をあまり無駄遣いはできない。


「根菜類は土の中に埋めておけば長期間保存できるが、葉物は難しいな。果実系もなかなか…」


「瓶詰めでも難しいですか?」


「保存するだけなら可能かもしれないが、それを美味しく食べるのがな。とりあえずソースでも作ってみるか?」


「…とんでもない量のソースを作る必要がありそうですね。」


「美味しいソースができたら街で売ろう。それから今後は収穫スパンの早い作物を育てるのは中止。期間のかかる作物を育てよう。」


 保存食というとどうしても美味しくないというイメージが先行してしまい、これまではなかなか着手してこなかった。しかし今後はメスティの時空ムロによる保管が難しくなったため、調理の技術も必要となってくる。


 そして翌日からそれなりに時間のある昼食と夕食の時間を利用して保存食の作成と味見をしていく。だがなかなか満足いく保存食が完成しない。


 そんなことをしているうちに稲の乾燥期間が経った。待ちに待った米を食べる日がやってきたのだ。


「それでこれをどうするんですか?」


「まずはこの稲についている実をとる。そのためのこの道具だ。アリル説明を。」


「説明…まあ簡単です。ここのペダルを踏むとここが回転するので、ここに稲のみがついている部分を当てて…このように実を弾きます。」


 アリルが実演すると勢いよく回転する金具がついた樽の側面に押し当てられた稲から実がバラバラと飛ばされていく。一分もかからぬうちに稲の束から実が綺麗に無くなった。


「一粒足りとも残すなよ。綺麗に弾くんだ。」


「弾くのは良いですけど、稲の葉っぱとかも混ざっていますよ?」


「それはこっちに持っていく。こっちは少し調整しながらやる感じだから俺とアリルの二人でやってるわ。」


 メスティは実と葉などが混ざったものを手に持ち次の工程に入る。そこでも同じようにペダルがあり、それを踏むと箱の中から風をきる音が聞こえてくる。


 その箱の中にメスティが手に持つ稲の実や葉などが混ざったものを入れると、中の風に吹かれて空中に全て舞い散った。


「…風強すぎだな。調整頼む。」


「わかりました。」


 アリルが調整する中、メスティは風に乗って散らばった実を集めていく。そして何度か同じようなことをしていくとついにメスティの考えた通りのことが起きた。


「ようやくできた。葉っぱだけが風で飛ばされ、実は綺麗に箱の中に残る。」


「もう調整は必要ないですね。それじゃあどんどんやりましょうか。」


 メスティたちが調整している間に稲から大量の米が脱穀されている。すぐにそれを集めて葉と実を分別させる。そして1時間後、大量の米が用意できた。


「それでこの後は?」


「こいつを使う。杵と臼だ。この中にこの米を入れて杵でつく。そうするとこの外側の籾殻って部分が外れるらしい。」


「そうなんですか。それはじゃあガンガン行きますね。」


「待て、優しくやるんだぞ。この米は粉にして食べるんじゃない。中の実をそのまま食べるんだ。」


「や、優しくってどのくらい…」


「…とりあえず俺がやってみよう。」


 恐る恐る杵で米をつくメスティ。だがそんな優しくでは意味がない。少しずつ力を入れて行き、ようやく力加減がわかる頃には米から籾殻が分離していた。


「おお、綺麗に取れましたね。これを食べるんですか?」


「そうなんだが…これを杵でつくと米の表面の茶色い部分が粉になって剥がれるらしい。白くなった米を白米って呼んでいて、それは贅沢品らしい。その方が味も良いと。…どうせならなぁ?」


「美味しく食べたいですね。」


 初めての米は美味しく食べたいと皆の心が一つになり、ここから白米にする作業が始まる。すぐに終わるとたかをくくって開始したメスティたちであったが、その作業は想像以上に長く、過酷であった。


 ただひたすらに杵をついていく。少しずつ玄米となった米から米ぬかが取れていくが、なかなか白くならない。


 満足いく白さになったのは作業を開始してから三十分ほどが経過してからであった。杵でついていた臼の中の米が茶色い粉と白い米に綺麗に分かれたのだ。


「おお!これで完成だ。あ、その前にふるいにかけて米ぬかを取り除いて…完成だ!」


「これで完成ですか。……ちなみにこの量はどのくらいなんですか?」


「…コップ一杯くらいが1合って呼ばれているらしくて……これは3合分くらい。」


「それは何人分?」


「本によると…1合が一人分。つまり…3人分。」


「この作業もう一回…いや2回はやらないとみんな食べられないんですか?」


「な、慣れたから時間は短くなるし、まとめてできるはずだ。…20分は待ってくれ。」


「それくらいなら良いですけど…あっちにまだまだ大量に…」


 山のようになった大量の米を見たメスティは血の気を引かせる。あの米を全て白米にするとなったら1日がかりだろう。確かに白米が贅沢品という意味がよくわかる。


「は、白米を食べるのは今日だけにして…残りは玄米で食べよう。」


 メスティは何も見なかったことにして米をつく。これで不味かったらどうしようという焦りを隠して…



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― 新着の感想 ―
[一言] 玄米の方が美味しいのに、と思えるのは 技術が進歩したお陰でしょうか。
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