第68話 稲刈り
「え〜それでは諸君。本日はお日柄もよく…」
「メスティさん案外形から入るの好きですよね。」
「だってその方が楽しいもん。気持ちも乗るっていうかさ。まあ人生楽しんだもん勝ちだから。」
「でも聞くの面倒なので、作業開始しませんか?」
「ちぇ、わかったよ。それじゃあ鎌は持ったな?紐もあるな?それじゃあ作業開始!」
若干はしゃぐメスティに続く一同。今日は待ちに待った稲刈りの日である。ここ数日は天気も良く、絶好の稲刈り日和となった。
今日という日を楽しみにしてきたメスティは早速稲の束を鷲掴みにし、根元から鎌で切り取る。ザクザクと気持ち良い感触とともに刈り取られた稲の束を持ち上げるメスティはその感触を確かめる。
「良い感じですか?」
「いや…まだまだだな。うまく成長すればこの束がもっと大きくなるっていうことらしい。今は4つか5つ切り取らないと程よい量の束にならない。稲穂ももっと垂れるのが理想だな。水を入れるタイミングや、肥料でもう少しカバーできると思うが…まだまだ勉強だな。」
「どのくらい取れるか楽しみですね。」
一番にメスティが刈り取ったのを確認したのちに皆も作業を始める。刈り取られた稲はある程度の束になると紐で結わえられ、地面に置かれる。
そして反面ほど刈り取り、一度休憩を挟もうとした時、問題が発生した。メスティとアリル以外のものたちが体の痒みを訴え出したのだ。
「なんか無性に痒いといいますか…痛いといいますか…」
「ちょっと見せてみろ。ん〜…これは……」
痒みを訴えている患部を見たのちにメスティは刈り取られた稲を確認する。そして両方を見た結果その原因が判明した。
「稲についている細かい毛みたいのが刺さっているんだ。暑いから薄着で作業していたのがあまり良くなかったか。一度身体洗い流してこい。」
「でも…そうすると残りの作業が…」
「大丈夫だよ。もう半分は終わっているんだ。…そうだ。あいつに手伝ってもらおう。アリル、檻を開けてくれ。」
「え〜…わかりました…」
いやそうな表情を浮かべるアリルだったが、メスティからのお願いを断るわけにもいかず、あの暗殺者を檻から出した。
「稲刈りを手伝ってくれ。お前にも米食わせるからさ。ほらこれ、お前の鎖鎌。」
「……ああ…」
なんの躊躇もなく暗殺者のメイン武器である鎖鎌を渡したメスティ。檻から出て、メイン武器まで手元にある。この状況は最高の脱獄の状況だ。もしかしたら作業中に逃げられるかもしれない。
そのためにはまず従順に作業に従うふりをしなければならない。チャンスをうかがいつつ田んぼに移動する暗殺者。
「ガル!洗い流したらアリルのポーション塗っておけ。そのあとに長袖着てから稲架がけやっといてくれ。」
「わかりました。」
「よし、それじゃあ俺たちは稲刈り再開するぞ。あ、暗殺者くん。身体は魔力で覆っておいた方が痒くならずに済むよ。」
「問題ない。」
そう言うと鎖鎌を回し始める暗殺者。そして振り回された鎖鎌は根元から稲を刈り取ると、刈り取った稲をそのまま鎖で縛り付けた。あとはそれを紐で結べば一つ完成だ。
「やっぱ優秀だなぁ…なんとしてでもうちに欲しい。」
「これは…正直すごいですね。」
「よし、俺も本気出すか。」
暗殺者の鎖鎌の手さばきに闘志を燃やしたのかメスティも手持ちの鎌でどんどん刈り取っていく。アリルはそんなペースについていけないとマイペースに着々と作業を進める。
結果として残り反面を人数が減ったにも関わらず、前半の稲刈りの半分以下の時間で終わらせてみせた。
「稲刈り楽しいな!来年はこの倍…いや四倍は田んぼを増やそう。」
「稲刈りだけで判断しないでください。収量や加工のしやすさ、それに味が一番大切なんですから。美味しくなかったら来年は作りませんよ。それよりも稲架掛けしますよ。」
ひと休憩しようとしていたメスティはアリルに言われて次の作業を思い出した。そして足元に転がる稲の束をいくつも抱きかかえ、ガルたちの元へと向かう。
そこではまるで稲を布団を干すかのように木の棒に引っ掛けて干している。大量に引っ掛けられている稲をみたメスティは満足そうにうなづく。すると稲架がけをしているエラミがメスティに近づいてきた。
「これ…何?」
「稲架がけだ。刈り取られた稲はまだ余分な水分が残っているから天日干しでその水分を抜く作業をするんだ。水分が残ったままだと保管している間にカビが生えるからな。味も良くなるらしいぞ。穀物を乾燥させるのはよくあることだ。見たことないか?」
「私たち都会っこ。」
「あ〜…よくある都会育ちがスリル求めて傭兵になったパターンか。傭兵業はまとめて金が入るから遊べるしな。まあこういう経験も面白いもんだろ。来年には街に帰れるように手配するから今はこう言うのも学んでおけ。」
その後も稲架がけを続ける一同はどんどん稲を運んでいく。そしてすべての稲が稲架掛けし終えると自然と拍手が始まった。
「みんなご苦労様。とはいえこのあとはまた他の作業があるからそっちに移ってくれ」
「この稲架掛けはいつまでやるんですか?」
「半月くらいだな。その間雨が降ったりしたら濡れないように屋内に運ばないといけない。それから鳥に食われないようにもしないとな。だから食べられるのは半月先だ。」
「さ、先が長いですね…」
「まあ気長に待とう。それよりも稲刈りに人割きすぎたせいで他の作業が滞っている。のんびりする暇はないぞ〜」
「うへぇ…」
「それから暗殺者くん。君も良くやってくれた。とはいえ他の仕事をやって欲しいからもう少し手伝え。うちに人を牢屋に閉じ込めている余裕はない。」
笑みを浮かべて暗殺者の肩をたたくメスティ。暗殺者の方も逃げるタイミングを伺っていたが、メスティの監視の目が緩むこともなく、結局その日も散々仕事をさせられた後に牢屋へと戻ることになった。




