第62話 久しぶりの我が家
魔大陸。それは世界中に人間たちが分布する中で、唯一人間の住めぬ場所。大陸全てが膨大な魔力に覆われており、数万種ものモンスターが生息していると言われている。
そんな非常に危険な土地だが、稀少な資源が溢れているということで年間数万人もの人々が訪れる。そしてそのほとんどが死んでいる。
しかし生きて帰ってきたものたちは魔大陸で生き残ったという名誉と、魔大陸で得た資源で一生遊んで暮らせる富を得る。
「魔大陸じゃミスリルはよく取れるっていう噂だ。それにこの辺りでこんなにミスリルの含有量のある鉱石なんてあるはずがない。」
「そうですよね。それで…どうしますか?」
「あの河童のことか?今まで通りだ。特に変わりはない。多分魔大陸から来たのかと聞けばああそうだよとでも返してくれるだろうさ。まあそんな必要もないし、俺たちは今まで通り接して、キュウリと交換に魔大陸の資源を得る。それだけだ。」
「それは……そうですね。」
「まあ一つ驚きなのは魔大陸で生きている奴がこっちに簡単に来られる事実だな。魔大陸よりもこっちの方が土地は貧弱だからわざわざ攻めては来ないと思うが、もしも魔大陸の生物がこっちの大陸を攻撃したらほとんどの国は焦土と化すだろうな。」
魔大陸の生物とこちらの普通の大陸の生物では全てが違う。強さだけで言えば格がいくつも違う。そんな魔大陸から人類を守るために帝国や聖国などの世界屈指の大国が魔大陸を監視している。
「まあ魔大陸のモンスターが攻めてくるようなありえないことを杞憂するより、人類を守るためと言って魔大陸の資源を独占している大国どもにここのことがバレるのを心配するべきだな。もしもバレたら俺でもどうすることもできん。」
「それじゃあ…このミスリルはどうしますか?」
「秘密裏に使え。ミスリルは俺たちの生活も力も大きく引き上げる。バレたくないからと言って捨てるのはあまりにももったいない。そうだな…ひとまずは農機具に使っちまえ。表面を鉄で覆えば農機具にミスリルを使っているなんて誰も思わない。」
「ミスリルの農機具ですか……とんでもなく贅沢ですね。」
「贅沢だが、農機具のような大きな金属の塊にしておけばいざという時に加工しやすい。カモフラージュと再利用の面から考えても最適解だと思うぞ。」
「わかりました。戻り次第秘密裏に始めますね。」
その後もアリルの成長を話で聞きながら、今後の仕事内容を決めていく。そしてその日の夕方頃、ついに家へとたどり着いた。
「うわぁ…そんなに長く空けたわけじゃないのに懐かしく感じる……」
「まあこれまでそんなに長くここに居なかったのはないからな。去年俺と一緒に街行った時よりも長いし。さて、懐かしんでいる暇はないぞ。そこのところにクラウドシープ用の家畜小屋を作っておいたからそこに連れて行ってくれ。」
「わかりました!ほらみんな行くよ〜」
「メェ〜」
アリルに随分と懐いているクラウドシープたちはアリルの後ろをついて行きながらメスティたちが用意しておいた小屋へと向かう。
そこには床材となる藁がふんだんに敷き詰められており、小屋の隣には柵に囲われた牧草地が広がっていた。
「水もご飯も十分に用意してある。これなら問題ないね。よかったね。」
「メェ〜」
クラウドシープたちが小屋という新しい環境に慣れるまで付き添うアリル。そして一匹のクラウドシープが眠りにつき、他のクラウドシープもそれにつられて眠り始めた。
これならもう安心できると小屋を後にするとそこでは夕食の準備が始まっていた。
「なんだよメスティ。野菜ばっかりだな。」
「馬鹿野郎!うちの野菜は世界一美味いぞ!肉は後で出してやるから今は野菜くえ野菜!」
「すみませんハドウィックさん。最近メスティさんがアリルを迎えに行っていたので、狩ができていなかったんです。とりあえず干し肉どうぞ。あとうちの妹がお世話になりました。」
「お前アリルの兄貴か。ちょっと似てるな…礼儀正しいやつじゃんか。こいつと一緒にいるのによくまともに…」
「はっ倒すぞハド!俺の野菜を…くえぇぇ!」
「もがっ!…なにすん……美味いな。」
「新鮮採れたてだからな。お!アリル。ひつじちゃんたちは大丈夫か?」
「もうぐっすり眠ってます。牧草も準備してくれたんですね。」
「ああ、そこは春から秋まで用の牧草だ。本来ならもっと広くないと足りないんだが、俺の加護のおかげでその面積でなんとかなる。冬用の収穫牧草はワディたちの村の方に任せてある。」
春から秋までは生の牧草で十分だが、冬の間は一面が雪に覆われるため牧草を刈り取っておかなくてはならない。
さらに贅沢を言うならば牧草を発酵させ、より消化吸収しやすい状態にしておきたい。そしてその方法を知っている者がワディたちの元にいたので、その作業を任せてある。
冬の間もクラウドシープたちは満足に生活できることだろう。そして来年の夏前には最初の毛刈りができることだろう。
「そういえばシェムちゃんは?」
「ワディと一緒に向こうの村に戻ったよ。向こうでもシェムーのために食事を用意しているみたいだからな。」
「そうですか。…なんかちょっとさみしいですね。」
「まあ仕方ない。でも今回襲撃者を一斉検挙したからこれで麻薬取引のことが少し動くはずだ。麻薬関連が解決したらもう少し交流しやすくなるよ。」
「でもその時にはシェムちゃんたちは国に帰っちゃいませんか?」
「そう簡単に行けばいいけど…ワディ弱いから、麻薬問題が解決しても私怨とかですぐ暗殺されそう。それに他にも問題ありそうだし…まあすぐに帰ることにはならないと思うぞ。それよりも夕食にしよう。今日はバーベキューだ。肉は少ないが、魚はたくさんあるぞ。」
「やった!いただきます!」
アリルはメスティたちの元に駆け寄る。これから楽しい夕食だ。




