第59話 尋問
「お〜い、終わったぞ。縛り上げるの手伝ってくれ。」
「…10分もかかってないぞ。お前変な加護のせいで弱体化したんじゃないのか?」
「弱体化は特にないな。ただ魔力量が増えたから基本性能は上がってる。それよりも手伝ってくれよ。数が多くて面倒なんだ。」
メスティに言われ仕方なく手伝う一同。そして縛り上げながらメスティの強さに恐る。相手は確実に歴戦の戦士だ。それを赤子の手を捻るようにいともたやすく全滅させた。
「こ、これ…全員生きているんですか?」
「殺したら誰の差し金かわからないからな。それにむやみな殺生は気分がよくない。殺さずに済むなら殺さずに終わらせるよ。」
殺すと殺さないなら確実に殺さない方が数段難しい。しかしそれをいともたやすく行う。フォルンとエラミはメスティの実力をまじまじと認識させられた。
そして縛り上げられ、ひとまとめにされた襲撃者たちの数は200に上る。もしもこの数が一斉に襲いかかって来ていたらハドウィックたちはたちまち壊滅していたかもしれない。
「よくもまあ俺ら相手にここまで揃えたもんだよ。急いで移動してよかったぜ。」
「数は多いが、魔力持ちは十数人。しかもほとんど大したことのない奴らだ。お前らだけでもなんとかなったはずだよ。」
「買い被るな。これだけの数が相手じゃこっちは半壊してたぞ。」
並みの傭兵では半壊では済まないのだが、メスティはわざわざそのことを突っ込まない。ただ笑みを浮かべて終わらせる。
「さて、アリル。気付け薬はあるか?」
「気付けですか?ちょっと待ってくださいね。」
アリルは馬たちに近づく。そんな馬たちのところには少しばかりの糞尿がある。アリルはそれを材料にし、気付け薬を生成する。
「あまり量はありませんけど…」
「おお!すぐにできたな。すごいじゃん。じゃあ貰うな。」
メスティは一人の襲撃者に目星をつけ、そいつに気付け薬を嗅がせる。すると気絶していた襲撃者はたちまち目を覚まし、周囲を見回した。
「くそ…全滅したのか……」
「おい、雇い主は誰だ。」
「ひっ!く、くそが!殺すなら殺せ!!」
「答えろ。雇い主は誰だ。」
「し、しらねぇよ。知ってたとしても誰が言うか!」
「ありゃ?本当に知らないのか。一番強かったから知っているかと思ったけど…じゃああいつだな。」
なんともあっけなく襲撃者の言うことを信じたメスティは次の人物をターゲットにする。だがそいつは魔力も持たないただの小男だ。そしてそいつも気付け薬で目を覚ますと、錯乱したように暴れ出した。
「おい、雇い主は誰だ。」
「た、助けてくれ!いやだ!死にたくない!殺さないで!頼む!お願いだぁ!」
「答えろ。雇い主は誰だ。」
「し、知らねぇ!俺はただの使い走りで……」
「ビンゴだ。答えて貰うぞ。雇い主は誰か。」
メスティはその男を引きずり、他の襲撃者たちから少し離れた場所に運んだ。そして腰を下ろすとその小男と目線の高さを合わせる。
「さあ答えろ。雇い主を…襲撃を依頼した貴族の名を…」
「何言ってんだ!俺は知らねぇ!本当に何も知らねぇ!神に誓う!本当に何も知らねぇんだ!」
あまりの恐怖に泣き出し、失禁してしまう小男。その光景はあまりに哀れだ。他にいくらでも屈強な襲撃者がいるのに、その中から一番弱そうな男を吊るし上げ恐喝するなんて。
その光景を見たフォルンはあまりのいたたまれなさにメスティを止めようとする。しかしそれをハドウィックがさえぎった。
「は、ハドウィック様…」
「よく見ておけルーキー。あいつの前じゃ生半可な嘘は通じねぇ…どんな隠し事も明らかにする。」
険しい表情のハドウィックを見たフォルンはメスティをもう一度見る。そしてメスティの小男への尋問は続く。
「麻薬取引の邪魔になるラセックへの脅しを行うためにこんな馬鹿げた数の闇ギルドの人員を集めたんだ。なかなか大物だ。子爵…いや男爵か?」
「ほ、本当に何も知らないんです…信じてください……お願いです…」
「へぇ……もっと上か。辺境伯……もしかして国の大臣か?」
「もう…もう許して……」
歯を打ち鳴らしながら恐怖し怯える小男。そんな小男を見ながらメスティにしばし考えに耽る。
「大臣のハイデル・ラシモント……いや違うか。フーゲッチ・ベーシャーナ。」
「わ、わからないです…俺…バカだから何言ってるか全然わからなくて……」
「決まりだな。大臣のフーゲッチだ。あいつの領地は北方だからな。あの辺りはここよりも雪深い。視察もなかなかされないから秘密裏に麻薬栽培もしやすい。それに以前、疫病で何人か薬師の加護持ちが派遣されてた。麻薬作るのにはちょうど良い。」
「本当に…何が何だか…誰か…この人を止めてください。」
「また聞きたいことができたら聞くからゆっくりしていて良いぞ。わざわざ失禁までしてごまかそうとしたのは偉いが、服の替えは無くてな。我慢してくれ。」
「何を言って…」
「お前は嘘をつく時、右のまぶたが若干動く。それから心拍数がわずかに早くなるんだ。あとは足の小指が動く。結構わかりやすかったぞ。わざわざ弱い小男のふりをして自分に注意が向かないようにするのはよかったが、襲撃者のくせに戦線から引きすぎだ。あれでは何かあると勘ぐられる。」
小男は固まったまま動かない。だがわずかに背中に冷や汗をかいている。そしてこの男にはどんな秘密も通用しないと悟った。
「はぁ…団長前に大臣のポストくれるとか言ってたけど、本当に大臣のポスト一つあいちゃうじゃん。お願いだから俺以外にちゃんと大臣の代わりいてくれよ〜…」




