第6話 加護の儀式と
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「それじゃあいくぞ。せーの!」
「「「「よいしょー!」」」」
4人が祭壇を肩に担ぎ持ち上げた。メスティはご神体である女神像を持って指示を出す。傾いて祭壇を壊さぬよう、足を滑らせて誰かが転ばぬように最新の注意を放つ。
「みんな声出して連携取れ〜。はいせーのっ…」
「「「「よいしょ!よいしょ!よいしょ!よいしょ!」」」」
気分はお祭りだ。春が来て気分が高揚しているのもある。そして楽しげなまま祭壇を大樹の元まで運び終えた。
そこからの設置には入念な下準備を要した。祭壇が傾かぬように下地をしっかりと整える。そして1時間がかりで設置された祭壇は厳かな雰囲気を醸し出していた。
「なんか…すごく良いです。」
「そうだな。じゃあご神体置こうか。」
祭壇に女神像を鎮座させる。これで祭壇は完成だ。しかしこれで終わりというわけにはいかない。
「お供え物が必要だな。加護の儀を執り行うのは次の次の満月の晩だ。供え物に作物を急いで育てるぞ。他にも何かあれば良いんだけどな…」
「今のうちに色々探してみましょう!」
そしてその日から祭壇に備えるものを準備する日々が始まった。せっかく一生懸命作った祭壇に生半可なものは置きたくない。今できる最高のものをお供えしたいのだ。
「メスティさん!この土動物たちが食べていたんですけど、ちょっとしょっぱいです!」
「岩塩みたいなものだな。泥を取り除いて塩を取り出そう。」
「木のウロの中にお酒見つけました!」
「猿酒だな。蒸留して酒を作ろう。」
「作物が育って来ました!」
「収穫は当日にするぞ。初物をお供えするんだ。」
まるで神がかったように供え物が揃っていく。酒に塩に作物。今用意できる最高のものだ。酒も塩もお供え分しか用意できなかったが、それだけで十分だ。
そして迎えた春の満月の晩。今日加護の儀式を執り行う。メスティはそれらしい文言を口にして神事を執り行う。そしてその時はやって来た。
「アリル。ここへ。」
仲間唯一の女性にして魔力持ちのアリルが祭壇の前にいるメスティの前に座る。ここからは全てメスティにかかっている。きちんと加護の儀を執り行えないと力の弱い加護しか授けられない。メスティは逸る鼓動を押さえつけ、儀式を始めた。
するとアリルの体をうっすらと光が覆う。そしてその瞬間、メスティは悟った。加護の儀が十分にできていないことを。
本来ならどんな加護でもこの倍以上は発光する。この光り方は加護の儀が満足にできていないから起こる現象だ。メスティは自身の魔力を放出させ、加護の儀に必要な神聖な場所という条件を整えようとする。
しかしそれでも今のままでは足りない。このままでは本来与えられる加護よりも数段弱くなってしまう。加護は一度与えられたらリセットすることはできない。アリルの加護が弱いまま終わる。
「仕方ない…ガル、ギッド、ゴラス!俺はしばらく使い物にならなくなると思うから当面は頼んだぞ!」
メスティはこれまで抑え込んでいた全ての魔力を解放する。メスティの全魔力解放などこの数年間一度もなかった。これをやるとひどく疲弊する。だが今はそれが必要な時だ。
「す、すごい魔力量…私の10倍…いや100倍以上ある…」
「我らが神に願い奉る。彼の者に汝の加護を授けたまえ。」
周辺を魔力で覆い、無理やり聖域を完成させようとする。しかし本来聖域とはそれ専用の加護を持った人間にしか作ることはできない。メスティは天才的な魔力コントロールでそれに似た場所を無理やり作ろうとしているのだ。
だがそれはあくまでまがい物。本物には遠く及ばない。アリルの加護は中途半端なまま形になろうとする。ここまでかと諦めかけたその時、メスティの視界は突如真っ白になり、1人の女性がこちらを微笑んだように見えた。
「え…今のは…」
その瞬間、メスティの魔力量が跳ね上がった。メスティでさえ知らない魔力量に抑えが効かなくなる。しかも魔力の純度がまるで違う。まるで自分のものでないような魔力。しかしそれは間違いなくメスティの魔力だ。
そして膨大な魔力は半端なまま完成しようとしていたアリルの加護を組み替え始めた。アリルを新たな光が覆う。これが本来アリルが得るはずだった加護の光。その光は一般的な加護の光よりも数段強かった。
そしてメスティの魔力の放出が落ち着いた頃、アリルの加護の光も消え去った。問題なく加護の儀式を終えたのだ。しばしの放心状態ののちにメスティはアリルの加護を確認する。
「アリル胸を出せ。」
「え…ええ!!こ、ここでですか?心の準備が…」
「何バカなこと言ってんだ。胸に浮き出る魔紋の確認だ。魔紋と今の光り方を見ればなんの加護かあらかたの見当はつく。」
「…そういうことですか。はいどうぞ。……ちぇ。」
胸に浮き出た魔紋の形状を確認。さらに先ほどの光り方から上位の加護だと推測。その情報を元にメスティは膨大な知識から一つの加護を推測した。
「錬金術の加護…でもまさか……いや、この魔紋の形状からして間違いない。生産系上位加護、錬金術。戦闘能力は低いが、サポートや生産に関していえば国の重役レベルの当たり加護だ。すごいぞアリル!」
「そ、そうなんですか!?でも…なんか刺青みたいで好きになれないかもです…」
「ハハハ、贅沢な悩みだな。安心しろ。魔紋はコントロールすれば見えなくすることもできる。というより相手にどんな加護か知られないためにも必須の技術だ。」
「なるほど!だからメスティさんも普段は消しているんですね。」
「いや…俺の場合はまた特殊で…」
「そうなんですか?でも…今は魔紋出てますよね?」
「え?」
慌てて服を脱ぎ、魔紋を確認するメスティ。すると確かにこれまで存在しなかった魔紋が発現している。なぜ魔紋が発現したのか、いつ発現したのか考察するメスティ。そしてその答えはすぐに出た。
「信仰系の魔導加護?そんなの超特殊型の超希少加護じゃん…そんなの普通じゃ発現方法わからんよぉ…名前からしてただの生産系の加護だと勘違いしてたぁ……」
信仰系魔導加護。これまで世界で確認されているのはおよそ4つ。そのうち2つは廃れてしまい今はもうないとされる。つまりこの今の世界に存在する3つ目の信仰系魔導加護。それがメスティの魔導農家の加護だ。
信仰系魔導加護の特徴は崇拝する対象から力を授けられることだ。その力は戦闘系も生産系も支援系もできるオールラウンダー。しかも与えられる力も大きい。代わりに崇拝する対象から力を使用する際に特定の条件がつけられる。
とある信仰系魔導加護の条件には相手の殺害を禁ずるというものがある。戦時中などはかなり厳しい条件だが、代わりに魔導の加護を授かったものですら力を封じることのできる封印アイテムを生み出せる。
「信仰系魔導加護は神を崇拝する。つまり俺は魔導農家教の教祖ってことになるのか?うわぁ…めんどくせぇ…」
信仰系魔導加護は世界規模で影響を与える宗教組織になることが多い。メスティもその1人になることだろう。しかしこんな人のろくに居ない地から世界に影響を与えられるとはまるで考えられない。