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第57話 地形が味方した

 休憩中、アリルは自身が考えた仮説をハドウィックに伝える。それを聞いたハドウィックは何も言わずにしばらく考えた。


「さすがにそれはありえない…と、言いたいが常に最悪の想定はしておくべきでもある。さらなる襲撃が起こる可能性は十分ありそうだからな。」


 ハドウィックは丘の向こうに視線をやる。そこには目には見えないがこちらを監視しているものたちが幾人もいる。


 監視している以上、まだ何か行動してくる可能性は高い。このまま何事もなく済むというのは流石に早計だ。


「だが幸いなことにもう馬の疲労も取れた。ここからは馬が引いてくれる。そしてさらに今日の夕方にはメスティと合流できるだろう。そうすりゃなんの問題もない。」


「…ねぇ、ずっと思ってたんだけど、メスティと合流できれば全てが解決するっていうのは流石に違うんじゃない?メスティがいたところで敵に何人も魔力持ちがいたら…」


 不安なシェムーがそう呟いた。確かに今までメスティと合流できれば全て解決すると言い続けてきたが、メスティだって人間だ。全てができるわけではない。


 しかしそれを聞いたハドウィックは非常に驚いた表情をとった。そしてそれは他の銀級傭兵たちも同じだ。


「それは考えてなかったが…でもなぁ……」


「メスティにどうしようもできないんじゃ俺たちが全員束になってもどうしようもないからな。その時は諦めるか死に物狂いで逃げるだけだからな。」


 悩み出す傭兵たち。メスティをよく知るものたちにとってはメスティがどうしようもできないのでは、自分たちがどんなに集まってもどうしようもないと確信している。


 それだけの信頼をメスティは得ているのだ。そしてアリルもメスティを信頼している。だからこの場でそんな考えをしているのはシェムーとフォルンとエラミの3人だけだ。


「まあどちらにしろやれることは移動するだけだ。さて、休憩は終わりだ。また行くぞ。」


 ハドウィックの号令のもと再び出発する一同。そして何事もなく昼過ぎまで順調に移動することができた。


 しかし何事もなく移動でいたのは昼過ぎまでだ。ハドウィックだけでなく、その場の全員がその気配に気がついた。丘の向こうに控えている猛者のオーラを。


「アリルの予想が当たったか?…上玉揃えやがったな。」


「わかりやすく威嚇してきましたね。今なら荷物置いて逃げれば許してくれるんじゃないですか?」


「全員は逃がしてくれないだろ。それに…俺たちの信用も落ちることになるぞ。」


 魔力持ちの戦闘系加護を持ったものたちが複数人いる。まともにやりあったら全滅する可能性もある。こうなるとハドウィックたちではアリルたちを守りながら戦うのは非常に厳しい。


「メスティのとこまであと何キロくらいだ?」


「20は確実に切ってる。15…もないとは思う。2時間守りきれば俺らの勝ちだ。」


「あのレベル相手に2時間か…こいつが持たなくなるな。みんなのストックはどのくらいだ?」


 傭兵たちは携帯型吸気式魔力強化装置に使用する液体のストックを確認し合う。そしてその量から考えて2時間戦い続けるのは不可能だと悟る。


「戦うなら確実に殺らないとこっちが持たないな。逃げながら戦うか、止まって戦うか決めるか?」


「ここで仮に勝ったとしても俺らは帰る事も考えないといけないんだぞ。帰りにこいつが使い物にならなくなってたら…」


「万が一を考えたら逃げ一択か。」


 残り2時間逃げに徹することを決める。しかしそれから数十分後、襲撃者たちは一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 敵の魔力持ちの数は十数人。そして魔力なしが100人余り。見た所、闇ギルドに所属するいくつものグループが手を組んで襲ってきているのだろう


「大元は随分金持ちだな。アリルちゃんのいうこと当たってたんじゃないか?」


「当たっていようがいまいがやることは一つだけだ。死ぬ気で逃げるぞ!」


 ハドウィックの号令のもと、荷馬車は速度を上げて逃げる。ただ相手は背後から迫ってきている。魔力持ちならともかく、魔力なしの人間では追いつくことすら不可能だろう。


 だがハドウィックはすぐに嫌な予感がして、荷馬車の先頭に乗っている傭兵に声をかける。


「道路上に何かあるぞ!排除しろ!」


「俺たちは追い立てられる獣かよ。仕方ねぇ…少し使うか。」


 そういうと荷馬車の先頭にいた傭兵は携帯型吸気式魔力強化装置を用いて魔力による身体強化を行う。


 そして荷馬車の先の道へとかけて行くとそこには荷馬車の動きを止めるための別働隊が待ち構えていた。


「くそっ!」


「何してんだよてめえらは!」


 即座に脅威を排除する傭兵。そして道路上の障害をすべて取り除いた時、ちょうどやってきた荷馬車飛び乗った。


 襲撃側としたら本来はここで荷馬車が動きを止めて、一気に襲撃する算段だったのが崩れてしまった。


 そうなったらここからは荷馬車に追いつくことのできる魔力持ちが荷馬車を止めるしかない。しかし相手はハドウィックたちだ。


 すでに魔力持ちが一人ハドウィックたちにより負傷させられている。むやみな攻撃によって魔力持ちが戦闘不能になるのは避けたい。


 先回りしていた荷馬車を止める予定であった別働隊がやられた今、相手としても下手な手は打てない。すると襲撃者たちはゆっくりと引いて行った。


「とりあえずは良かったですね。」


「ああ、ここの地形のおかげだろうな。」


「地形の?」


 疑問に思うアリル。ここの地形が襲撃者にとって隠れる場がないせいで不利になるのはわかるが、それ以上のデメリットはわからない。


「奴ら馬に乗っていないだろ?この辺り一帯は無理な伐採のせいで広範囲にわたって草原になっている。もしも奴らが全員馬に乗っていたら目立つからな。国から憲兵隊か騎士団が飛び出してくる。」


「そっか、馬を隠すことができないから全員徒歩なんだ。もしも全員分の馬を用意していたら…」


「あいつら全員が今も襲ってきているさ。奴らの戦力が徐々に徐々に増えて行ったのもこれが理由だな。普段誰も使わない道を何十人も利用したら不審に思う。他の出口から出て、人目につかないようにぐるっと回ってきたんだろうな。」


「人気のない道だからこその襲撃者ということなんですね。」


「そういうことだ。ただ奴らだって馬を用意しているだろう。ただここまで馬がやってくるのはもう何日か、かかるだろうな。」


「その頃には私たちはメスティさんと合流できているっていうことですね。でもこの調子ならもう問題ないですね。私たちは休憩せずにただ走っていけば良いだけですから。」


「ああ、奴らとしては本命は今日の夜だろうな。俺らが寝ている間に囲んで襲う気だろ。その頃には一安心だな。」



 次回お休みします。

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[気になる点] “ああ、敵としては本命は今日の夜だろうな。” “2時間守りきれば俺らの勝ちだ。” …敵が襲い掛かってきてアリル達が出発したのは早朝で、時間が経って…少なくともまだ昼ぐらい?…つまり…
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