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第54話 見られている

「ねぇアリルっち…私も……」


「ごめんねシェムちゃん。まだ私にしか懐いていないから。」


 もふもふに囲まれたアリルはとろけそうな笑みを浮かべている。それをなんとも羨ましそうに見つめるシェムー。


 そんな荷馬車を護衛するハドウィックたちは等間隔に並んで守っている。そんなハドウィックたちの一挙手一投足を見逃さぬようにフォルンとエラミは観察し、学んでいる。


 そしてその日の夕方。野営の準備を始める皆を尻目にアリルは街道傍の草原を見つめ魔力を流す。すると草原の中から特定の植物だけが浮かび上がりアリルの目の前に集まった。


「それって採取魔法?」


「うん。まだ慣れてないけど便利だね。師匠のところで覚えておいてよかった。はい、どーぞ。」


 アリルは採取した植物をクラウドシープたちに食べさせる。本当は放牧して自由に食べさせてやりたいところだが、この辺りには毒草があるためそれはできない。


 嬉しそうに食べるクラウドシープを見たアリルはさらに採取を続ける。そしてクラウドシープたちがお腹いっぱいになり眠ってしまった頃、ハドウィックたちが夕食の準備を済ませてくれた。


「すみませんありがとうございます。うわ!美味しそう…」


「こんな仕事してると自炊は上達するからな。飯を作る能力はあった方が間違いなく有利に働く。…まあそっちの嬢ちゃんたちもこれから頑張ってもらいたいもんだ。」


 ハドウィックが指差す先では必死になって料理の仕方を教えている他の銀級傭兵の姿がある。教えてもらっているのはフォルンとエラミだ。


「二人とも料理できなかったんだ…」


「べ、別に女らしくする必要ないし…傭兵業で生きていくし…」


「…料理人は男性の方が多いよ。それに料理は生きていくのにも必要だと思うよ。」


「うぐぅ…え、エラミ…何か言い返して……」


「…無理……」


 早々に諦めるエラミ。エラミはフォルンよりも上の階級のため、今後は傭兵として長期の護衛任務が増えることだろう。その時に美味い飯を作れるかは他の傭兵とのコミュニケーションをとるのにも有利に働く。


 諦めて必死に料理を覚えるフォルンとエラミを横目にアリルとシェムーは夕食を食べ始める。全員で夕食は一度に食べるのではなく、周辺の警戒をするために2組に分ける。


 ただ護衛対象であるアリルとシェムーは好きな時に食べて問題ない。村で食べる食事と比べると質素なものだが、それでも十分な満腹感がある。


「この食材からこれだけのものを作れるなら、傭兵やめても料理店で働けそうですね!」


「傭兵をやめる気はねぇよ。だがまあ…人生何があるかわからないからな。」


「何があってもルーナさんを不幸にさせないでくださいよ?」


「わかってるよ。メスティにも釘刺されてんだ。」


「お?ハドの惚気が始まるか?」


「始まらねぇよ!」


 なんとも賑やかに笑いながら食事を食べる。その輪にフォルンやエラミも入りたさそうだ。すると地面を触りながら指遊びを始めた。


「今メスティさんのところも随分人が増えて来たんですよね。まだまだ増えそうだなぁ…」


「ああ、そうだな。まあ問題ないだろ。なんとかなる。」


「でもですよ。もっともーっと増えて、ご飯いっぱい食べるような人が増えたら大変ですよ。さすがに足りなくなっちゃいます。一人で何人分も食べられたらどうしましょうか。私やシェムーちゃんも頑張りますけど…」


「まあいざという時はメスティを頼れば良いさ。それにそんなことにはすぐにはならない。1〜2年はかかるんじゃないか?」


「う〜ん…メスティさんでもこの調子なら2〜3年はかかるんじゃないですか?」


「そういう時は早め早めの行動でなんとかするんだよ。とりあえず飯食ったら寝ておけ。俺らも周囲の警戒はするが、疲れるしたっぷり休んでおく。」


「そうですね。わかりました。それじゃあご馳走様。フォルンとエラミちゃんは私たちと一緒に羊ちゃんのところで寝ようね。」


「え〜…今日は色々お話を聞かせてもらおうかなって…」


「ダ〜メ。お仕事なんだから。二人もご飯食べたら邪魔にならないように早く寝るよ。見張りはハドさんたちがやってくれるから。」


「おいおい俺ら任せかよ。まあ仕方ないな。嬢ちゃんたちの護衛も任せておきな。」


 その後、フォルンとエラミも夕食を済ませるとアリルたちと一緒にクラウドシープを布団にして寝床に入った。


 しかし一つの荷台にクラウドシープと女4人というのはさすがに狭い。これでは寝付けないと他の場所に移動しようとするフォルンだが、それをアリルは止めた。


「いや…私たちも一応護衛っすから、見張りをしないとだし…」


「いいからいいから。ほらこっちこっち。」


 フォルンを引き寄せるアリル。外から聞こえるハドウィックたちの楽しげな声を聞くと余計こんなところに居たくないフォルンだが、アリルに抱きしめられそのままクラウドシープに頭を預けた。


「あの…アリル。狭いしキツイしその…」


「もう私たち見張られてるの。」


「…え?」


「二人とも気がついていないけど、10人以上の集団に見張られてる。多分まだまだ増えるよ。襲ってくるなら明日の夜か明後日の陽が昇る前かな。だから今日はしっかり休んでおく。明日の出発は早いよ。陽が昇ると同時に出発するから。」


 フォルンは衝撃の事実に驚愕する。ただエラミはなんとなく感じ取っていたらしい。虫の知らせ的なものだろう。ただ2人以外は正確に把握している。


「わ、私たちにできることは…」


「絶対に表情に出さないこと。相手はこっちを監視してる。向こうにこっちが気がついていることを知らせちゃ絶対にダメ。手練れが多いから下手に戦闘になると大変。私たちの目標はとにかくメスティさんのところに行くこと。ただメスティさんのところには頑張っても明日にはつかない。」


 すでにアリルはハドウィックとお互いに監視者がいることを確認しあっている。メスティに以前聞いた地面をいじる指遊びを合図として行う簡易暗号。


 この簡易暗号には特に打ち合わせなどはない。普通の会話にそれっぽいことを混ぜ合わせて相手に察してもらうだけだ。


「でも…なんでそんな手練ればかり……」


「私のことがバレて…っていう予定だったんだけど、これは単純に積み荷狙いだね。これだけの積み荷、襲えば間違いなく大金になる。ただ戦闘になれば私とシェムちゃんのこともバレるから…ますます大変だね。だから私とシェムちゃんは最悪の場合以外は手を出せない。」


 相手は確実に積み荷狙い。しかしそれにアリルという錬金術の加護持ちの存在がいることも知られれば相手は全戦力で襲いかかってくることだろう。


 それにシェムーがメラギウスから貰った腕輪もある。これほど襲って美味しい荷馬車はないだろう。とにかく今はメスティの場所まで急ぐ。メスティさえいればきっと安全になると信じて。


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