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第51話 シンガード商会

「ふむ…今日が予定の日だったな。」


「はい。ありがとうございました。」


 メラギウスによる4日間の稽古が今日終わった。4日間という短い時間での稽古であったが、アリルもメラギウスも満足げだ。


 間違いなく4日前とは別人。そう言えるだけの成長をアリルはして見せた。ここまで成長できればメスティの元に戻っても一人で成長できるだろう。


「それでは…今度はメスティさんと一緒に来ますね。師匠。」


「ああ、その時わしを驚かせてみろ。我が二人目の弟子よ。」


 アリルはメラギウスの元を後にする。そしてその隣には同じく成長したシェムーと護衛のフォルンとエラミの姿がある。


「それじゃあシンガード商会にいこうか。」


「当初の予定なんて忘れてたわよ。もう帰っても良いくらいね。」


「そういうわけにはいかないよ。今後の暮らしのためには大事なんだから。」


「私たちは護衛の仕事なんてまるでしてなかったけど…」


「…むしろ私たちがお金を払うべき……」


 フォルンとエラミは護衛という仕事に就いたのに仕事はまるでしていない。それどころかこの国最高峰の訓練を受けることができた。これで金をもらってはバチが当たりそうだ。


 しかしアリルとシェムーとしては護衛が強い方が良いので、全く気にしていない。それにバラクも自分がやりたくてやっただけなのでそのあたりは全く気にしていない。


 そんな4人は大通りを闊歩し、目的地であるシンガード商会へたどり着いた。アリルとシェムーはある程度大きな商会だと理解して来たのだが、その予想の倍は大きな商会であった。


「こ、こんな商会の商会長と…メスティさん友達なの?」


「…だから本当に何者なのよあいつ……」


「す、すごいっすね。シンガード商会のラセック商会長といえばこの国随一のやり手だって話っすよ。」


「そこらの貴族よりも権力が上という話もある…」


 二人はこの国に住んで長いため、シンガード商会についてよく知っている。そしてそんな商会の商会長と対談するなんて一体どういうことなのかと若干の混乱を見せる。


「それじゃあ行こっか。」


 店内へと入るアリルたち。店内は賑わっており、飛ぶように商品が売れている。思わずアリルたちも商品に目がいってしまうが、今はラセックに会うのが先決だ。


 店内できょろきょろとしていると一人の店員がこちらに近寄ってくる。


「何かお困りでしょうか?」


「あ…えっと…商会長のラセックさんにお会いしたいんですけど。」


「商会長にですか?…どのようなご用件でしょうか?」


「一応…商談です。ラセックさんから手紙を受けて代理で来たものです。」


「そうですか…では奥の部屋にどうぞ。ちなみに…お名前は…?」


「メスティさんの代理で来たアリル…といえばわかると思います。」


 奥の応接間に通されたアリルたちはそこに座って待つ。話は通してもらえるだろうが、正直いきなり来てなんなのだと怪しまれているだろう。


 もしかしたらこのまま1時間くらいは待たされる可能性もあると考えながら待っているとものの数分で先ほどの店員の女性が戻って来た。


「商会長がお会いになるそうです。こちらへどうぞ。」


 案内されるアリルたちは上階へと行き、一番装飾の美しい部屋へ通された。そこにはラセックと3人の見知らぬ男女が待っていた。


「ようこそアリルさん。どうぞこちらへ。」


「ありがとうございますラセックさん。すみませんこんな急に…」


「いえいえ、暇なので構いませんよ。」


 アリルだけ椅子に座り、他の3人は後ろに立つ。シェムーも元々アリルの護衛という話でここに来たので、アリル一人に3人の護衛ということになる。


 そしてアリルは目の前の4人を観察する。ラセックはまあ良いとして残りの3人は少し問題だ。明らかにこちらを観察しているし、何か良からぬことを考えているようにも見える。


「メスティさんはお元気ですか?今日は一緒では?」


「接近禁止令が続いていまして…」


「そうでしたか…」


 若干まずいという表情を取るラセック。ラセックはメスティの国への接近禁止令が残っていることを知らなかったようだ。するとラセックの隣にいる太った男がヒゲを触りながらニヤついた。


「メスティ…というと確か商会長の古いお知り合いでしたな?確か恩があるとか…」


「ええ、それが何か?」


「いえいえ…何でもありませんよ。」


 ラセックはそれを聞くと席から立ち上がり、金庫の中から書類を取り出した。そしてそれをアリルに手渡す。


「これが今回の取引の目録になります。確認を。」


「ありがとうございます。」


 目録に目を通すアリル。一応本などによる知識のおかげでその商品がどういうものなのかは理解できる。だがそれがいかほどの価値があるのかはわからない。


「お手紙でいただいた内容よりも少し増えているような…」


「失礼。商会長、私も確認させてもらってよろしいですか?」


 そういうとアリルから半ば強引に目録を奪い取る男は内容を確認するとプルプルと震えだした。


「な、何なのだこれは!あまりにも度が過ぎている!これだけで我が商会の1月…いや2月の売上に匹敵する価値がありますぞ!」


「な、何ですって!」


 粗探しをしてやろうと考えていた男だが、その想像をはるかに超える目録に怒声が上がる。それを見た他の二人も同様の反応を示している。


 これはどういうことなのかと声を荒立てる3人に対し、ラセックはなんとも涼しい表情だ。するとその時、アリルたちが入って来た扉が開いた。


 そしてそこから現れた人物を見るとすぐに声はピタリと止まり、慌てて立ち上がり深々と頭を下げる。


 ラセックも同様の反応を示しているが、アリルはどういう事か分からず座ったままだ。


「商人が簡単に声を荒げるものではない。外まで聞こえて来たぞまったく…」


「申し訳ありません。シンガード様。」


 シンガードと呼ばれた老人。この老人こそがこのシンガード商会を生み出し、ここまで成長させた張本人である。


 今では商会長の座をラセックに譲ったが、間違いなく今でもこのシンガード商会のトップである。そしてそんなシンガードの元へ男は目録を持って近づく。


「シンガード様!これを見てください!この男は我が商会を我が物にし、このような真似をしているのです!」


「落ち着きなさい副商会長。……ふむ。なかなか豪勢な目録ですな。」


「ラセックはこれをこの小娘に与えようとしているのです!タダで!」


「ほう?それは確かですかな?…ふむ、立ち会わせていただきますよ?」


 一見物腰柔らかそうな老人。しかしそのうちに秘めた力を感じ取ったアリルは思わずたじろいだ。そして再び話が始める。


「まずは…はじめましてお嬢さん。シンガードと申します。」


「はじめまして…アリルと言います。今回はメスティさんの代理で来ました。」


「メスティ…ほう?あのメスティの……ラセックが随分世話になったと聞いていますよ。」


 すっと視線をラセックに向けるシンガード。その瞬間ラセックの背中に冷や汗が浮かぶ。ただの老人が放てるプレッシャーではない。


「それで…この目録にある品々をお嬢さんが受け取るということになっていると聞きましたが…それはなぜですかな?」


「えっと…」


 焦るアリルは目が泳ぎ始める。アリルは交渉ごとには向いていない。こういった緊張する場面ではうまく言葉が出てこないのだ。そこへラセックが割って入る。


「シンガード様。これはできれば内密にしておきたいのですが…」


「私にも言えないと?」


「……今後の取引に大きく関わります。」


「ほう……今の状態で君に今後があると?」


「……わかりました。」


 観念するラセック。するとアリルへとラセックは頭を下げて謝る。その表情はアリルにしか見えなかったが、わずかに笑みを見せたように見えた。


「彼女は…このアリル様は…野良の錬金術の加護持ちです。」


「…ほう?それは事実ですかな?」


「シンガード様、そんなことはありえません。錬金術の加護は国の要となります。国に所属していない野良の錬金術の加護持ちなど存在するわけが…」


「はい。多少ではありますが、メラギウス様を師事しております。」


「そ、そんなわけがあるはずない!娘!これ以上の嘘は承知せんぞ!」


 声をさらに荒げる副将会長。しかしアリルは錬金術の加護持ちであることを証明するために目の前で錬金術の技を使って見せた。


 そしてシンガードの目の前でポーションと銀のインゴットを作るとそれをシンガードへ手渡した。


「まだ錬金術の加護を授かって間もないのであまり多くのことはできませんが…」


「…国へ話は通してあるのですか?」


「えっと…メスティさんがやってくれたらしいのですが、私には細かいことはわかりません。」


「なるほど…疑ってしまい申し訳ありません。お許しください。」


 深々と頭を下げるシンガード。それを見た副商会長はあわてふためき、すぐに自分も頭を下げた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 錬金術師との商売独占するチャンスなんで他に言いふらすことは無いと思うけれども… アリルの錬金術の加護ですらカモフラージュで、本当に隠して置きたいのはメスティの加護とは思うまい 大きな秘密を隠…
[気になる点] …ラセックが今回の…何かことを成す為に、アリルの加護のカミングアウトを?…まだメスティ達のメリットが見えないし、デメリットが大きいような…やっぱり時期尚早なのでは?
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