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第49話 メラギウス

 あれから2日後。いつものようにルーナの手伝いをしていると突如来客が訪れた。来客対応をするために玄関へ向かうフォルン。だがフォルンは扉を開けるとそのまま固まってしまった。


 一体どうしたのかと玄関へ向かうアリル。するとそこにはバラクの姿があった。


「よう!アリル…だったな。迎えに来たぜ。」


「ありがとうございますバラク様。えっと…ちょっと待ってもらって良いですか?」


 バラクが来たことでようやく動けるアリルはシェムーを呼び、ルーナへ出かけることを告げた。


「夕食はどうするの?」


「えっと…どうなるんだろ。わからないんで今日は食べて来ます。たまには外で食べていろんな味を覚えて来ます。」


「わかったわ。それじゃあいってらっしゃい。」


「いってきます!」


 急いでバラクの元へ向かうアリルたち。そして5人は徒歩でメラギウスの元へと向かった。




「すいませんこんなお願いを。」


「気にするな。しかし…1年前とは別人だな。魔力の流れが実に綺麗だ。そしてそっちの子は…」


「妹のガルです。まあ…そういうことです。」


「そうか。無事でよかった。バラクだ。よろしくな。」


「よ、よろしくお願いします。お会いできて嬉しく思います。」


「それで?そっちの二人は護衛か?」


「フォ、フォルンと申します!鉄級の傭兵です!」


「エラミです。銅級の傭兵です。お会いできて光栄です。」


 ガチガチに固まる3人をよそにアリルはなんともリラックスしている。一度メスティと共に出会っていたおかげだろう。


 そんな一行はメラギウスの屋敷にたどり着いた。そして前と同じ道から入るのかと思いきや、そこではなく門の前へと向かった。


「あそこの横道から入らないんですか?」


「横道?ああ、あんなところから入れるのはメスティくらいだ。俺らが入るには正規の方法しかない。」


 門を無理やり開くバラク。そしてずんずんと進んでいくと突如配置してあった石像が動き出した。


「ゴーレム!?」


「正確にはガーゴイルだな。屋敷の門番だ。」


「あ、あれ…私たちよりはるかに強い……」


 動き出すガーゴイルたち。その数はどこからともなく湧いてくるせいでどんどん増えていく。するとバラクはそのガーゴイルをなぎ払った。


 バラバラに破壊されるガーゴイル。するとガーゴイルたちは怒り、バラクへと群がってくる。


「だ、大丈夫なんですか?」


「ああ、いつものことだ。ここで暴れているとそのうちあの爺さん気がつくからそれまで待ってくれ。」


 談笑しながら暴れまわるバラク。その姿にアリル以外の3人は見惚れている。この国最強の騎士の戦いなどそう見られるものではない。


 ただアリルはこんなことをしていて良いのか心配になる。そして一つ思い出して背中のバックから液体が入ったフラスコを取り出した。


「耳を塞いで!」


 フラスコを投げるアリル。そのフラスコは放物線を描き、一匹のガーゴイルにぶつかると轟音を放った。


 そのあまりの轟音に空気や草花が揺れるほどだ。するとさすがにこの音を無視することはできなかったのか突如何もない空間からメラギウスが現れた。


「轟音液か。やかましい。」


「おお、メラギウス。客だぞ。」


「わかっとるわ。おいお前たち、戻れ。」


 メラギウスの声に従いガーゴイルたちはどこかへと消えていく。これだけのレベルの自律式防衛ゴーレムを無数に作れるのは世界広しといえどもメラギウスだけだろう。


「よく来たな。メスティのやつは…」


「接近禁止令が続いていて…」


「そうか。まあ立ち話もなんだ。上がれ。」


 わずかにだがメスティがいないことを残念がる表情を取るメラギウス。そんなメラギウスを見てバラクはニヤニヤと笑っている。


 そして全員で屋敷に上がらせてもらうと皆を適当な場所に座らせる。


「相変わらず掃除しねぇな。埃だらけじゃねぇか。」


「やかましい。そんなことはどうでも良い。それよりも…アリル。調子はどうだ?」


「えっと……」


 チラチラと周りを見るアリル。それを見てメラギウスは察した。そして異空間から紙を取り出すとそれをアリル以外の全員の元へ飛ばした。


「今から話すことは他言無用。それを理解したら名を刻め。」


「へいへい。」


 バラクがおとなしく従うとそれに習い他の者たちもサインをしていく。シェムーはサインする必要はないのだが、メラギウスはそのことを知らない。


「さて、これで問題ないな?で?」


「メスティさんにはとりあえず基礎を叩き込まれました。えっと…詳しいことはこの手紙に。」


 メスティからの手紙を受け取るメラギウス。そしてわずか数秒でその手紙を速読するとわずかに口角をあげた。


「そうか。さすがはメスティの弟子だ。覚えが早い。それに非常に勤勉だ。」


「いえ、メスティさんの指導が良いんです。学ぶことを苦にならないようにしてくれています。」


「うむ。楽しいことは良いことだ。探求者とは己が欲を満たす者。欲を満たすのは実に愉快だ。例えその過程がどんなに苦難の道であってもな。街にはあと何日ほど滞在する予定だ?」


「えっと…最低でも3日。最大で5日ほどでしょうか。その頃にはメスティさんが街に近付けるだけ近づいて待っていてくれるそうなので。」


「そうか。では4日としよう。その間にお主の実力を一段階ほど引き上げる。それから…シェムーというのは誰だ?」


「わ、私です!」


「そうか。メスティの手紙の中でお主に触れておった。なんでも家宝の杖がダメになってしまったと。」


「そうなんです。あ、そういえば…アリル。」


「あ!そうだった。メスティさんからお二人に渡すものがありまして…」


 アリルはリュックの中から水の入った大瓶を取り出す。それを見たメラギウスは目を丸くして驚く。バラクもまさか…という表情でその瓶の中身を見る。


「…聖水か。」


「はい。実はシェムーの杖がその……聖樹になってしまって…」


「ま、待て待て…聖樹だと?聖樹って…あの聖樹か?」


「はい。メスティさんは十中八九間違いないだろうと考えています。それに…聖果も…」


「聖果だと!?そんなまさか…」


 思わず声を荒げ、立ち上がるメラギウス。こんなに動揺したメラギウスを見るのは初めてなのか、バラクも驚いている。


 メラギウスは思わず立ち上がった自分に驚き、手が震えていることに気がつく。気持ちを落ち着けようと深呼吸して再び座るが、手の震えは止まらない。


「…それはメスティの能力によるものか?」


「……特定の条件はありますが…」


「そうか…やはり魔導の加護にハズレなしか……その聖果はいつ熟す?」


「まだ花びらすら散っていません。ですのでいつになるのか…」


「そうか…それは是非とも見てみたい…」


 探求者としてこれほど興味深いものはない。今すぐにでも見に行きたいところだが、下手にメラギウスが動けばそこからメスティの元にある聖樹の存在がバレかねない。


「とりあえず今日は聖水だけです。メスティさんがお二人なら自分の力に変えられるだろうと言って…」


「おぬしらは飲んでいないのか?」


「聖水を飲むのには私たちはまだ未熟だということで…」


「そうか。実にメスティらしい。そしてその判断は正しい。ふむ…わしは飲む前に少し研究してみるか。」


「ん〜俺は飲んじまうか。他の奴らに見つかっても問題だしな。」


 そういうと蓋を開けてラッパ飲みをするバラク。大量の聖水がバラクの体内にどんどん吸収されていく。そしてものの一分ほどで飲みきったバラクは目を閉じて瞑想をする。


 アリルではまだわからないが、メラギウスにはバラクがさらなる高みに至ったことがわかった。そしてこの事実がこの水が間違いなく聖水であることを示している。


「う〜ん…飲み過ぎ注意だな。こいつは凄すぎる。身体の調整をしないとこの力を制御しきれん。」


 バラクは腕を回しながら自分の力がどの程度上がってしまったのかを確認する。正直聖水を飲んだからと言ってバラクが飛躍的に強くなったわけではない。


 せいぜい100キロのバーベルまでしか持ち上がらなかったのが、105キロまで持ち上がるようになった程度だ。


 しかしこのわずかな差が戦場では大きな差となる。自分の体が想像以上に動いてしまうというのはそれだけ隙に繋がってしまう。


 ましてやそれが聖水を飲んだだけでとなると身体の調節には数ヶ月単位でかかるかもしれない。



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