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第5話 2度目の冬は辛くない

「ほらそこ!きびきび働け!冬を越すための準備はいくらあっても足りないぞ!」


「「「「はい!」」」」


 もう直ぐ冬がやってくる。今年は5人分の冬越しの食料が必要になる。それに冬が明けて春が来れば加護の儀式が執り行われる。それまでにどれだけ魔力を増やせるかが勝負だ。有用な加護を授けられればこの場所での暮らしが良くなるはずだ。


 だから魔力訓練のためにも食料はできるだけ多く確保したい。メスティもここ最近は狩りに精を出している。食肉の量はなかなかなものだ。それに肉をとったおかげで毛皮も用意できた。寒さ対策もバッチリだ。


「さて…俺ももう一度狩りに出るかな。…まずい。もう降ってきたか。」


 今朝は馬鹿に寒いと思ったが、雪まで降ってくるとは思わなかった。そしてそこからは早かった。翌日には雪は辺り一面に降り積もり、1週間もすれば落ち葉溢れる森が白銀の世界へと変わった。


 ここから来年の春まで耐え抜かねばならない。ふと去年の恐怖が襲いかかる。しかし隣を見れば今は仲間がいる。それにやりたいこともある。


「さて、冬が始まった。今後は外に出られる機会が大きく減る。だがやることはあるぞ。俺たちはここで祭壇を作り、春が来るまでに完成させる。」


 祭壇作りは冬が来るまでとっておいた。どうせ冬場はやることがない。そして祭壇も春まで必要ないものだ。だから材料だけ用意して、今日までずっと待っていた。


 そしてこの祭壇作りが予想以上に楽しかった。祭壇のパーツをナイフで一本一本丁寧に削り、手がかじかんだら火に手をかざしながら談笑する。そして手が温まったら再び作業を再開する。


 普通に考えれば別になんてことない日々だ。しかし去年の冬の孤独を知っているメスティにとってこの日々がなんとも楽しかった。そして冬の間に多くの話をしたことで彼らとの信頼関係もより深まった。


 それから時折勉強会も開いた。誰かから勉学を学んだことのない4人にとってメスティの知識は宝の宝庫であった。この冬の間に教えた知識はきっと彼らの今後の人生を大きく変えることだろう。


 そして魔力訓練も少しずつだが進歩してきた。魔力総量はメスティが初めて魔力を持っていると気がついたゴミのような量からそれなりの量になっている。最近では身体強化魔法も使えるようになった。


 ただし強化した身体を動かすことに慣れていないため、力加減ができない。細かい作業が必要な祭壇作りの際には身体強化は禁止だ。


「身体強化の一環で感覚強化というのがある。一番簡単なのは視力強化だ。目が良くなるという単純な効果から、相手が魔力を保有しているかしていないかがわかる。試しに俺を見てみろ。」


「んっ…」


「魔力コントロールがぶれている。力を抜いてリラックスして見るんだ。」


「…あっ!何か見えます!ぼやぼやっとしたのが…」


「それが俺の魔力だ。訓練を重ねればもっとはっきり見えるようになる。だが一定レベルの魔力持ちは体から放出される魔力を隠せる。視力強化じゃ絶対に見えない。そこで必要になるのが六感強化だ。人間が持つ五感ではない。魔力感知という第六感を鍛える。ただしこれは一朝一夕で得られるものじゃない。数年がかりでしっかりと鍛えろ。」


「わかりました。」


「それから部分強化もちゃんと覚えた方が良いな。今も全身強化してる。」


「え!あ…本当だ……」


「身体強化は魔力で行う技の初歩中の初歩だが、一生使える一番重要な技だ。徹底的に鍛え上げな。」


「はい!」


 この調子ならば春が来る頃には見違えるように変わっているだろう。しかし仲間がいてやることがあるというのはこんなにも暮らしを変えてくれるのかと実感する。


 ただ祭壇作りはもう少し呆気なく終わると思っていたが、予想以上に難航している。というのもこの場所での道具不足によって作業の難易度が高くなっているのだ。


「こことここを組み合わせる時どうやれば良いですか?」


「ああ、そこはこことここを削ってやれば…」


「こっちもお願いします!」


「はいはい。」


 逐一メスティのチェックを要求される。だがそれも仕方がないだろう。なんせこの祭壇は一切の釘を使わず、木々を組み合わせることと樹脂で貼り付けることによって作られている。


 釘などの材料が何もないのだから仕方がない。来年には一度街に行って道具を揃えたいところだ。だが、基本的に街に近づくのは禁止されている。許されるのは魔導の加護の力に目覚めた時だ。王への報告を兼ねてならば街に近づくのが許される。


 だがもうすぐこの地に来て2年が経過するがこの魔導農家の加護は何の反応も示さない。せめて何かの反応を示してくれれば良いのだが、何も感じられない。もしかしたらこのまま一生なんの反応も示さずに、メスティは死ぬのかもしれない。


 だがそんなことを考えても今は悲観的にならない。その時はその時だと思うだけだ。やはり誰かがいるというのは心強い。


 そしてまだ雪解けも始まらぬ頃に祭壇は完成した。見る人が見ればなんて粗雑な作りだと言うかもしれない。しかしこれは5人で一生懸命作ったものだ。皆にとっては満足のいく最高のものができた。しかしここで問題が起きた。


「ご神体とかは良いんですか?」


「……あ…」


 完全に失念していた。確かに祭壇を作るのならばご神体は必要だろう。しかし本来ご神体は何か聖なるものを鎮座させる場合が多い。魔導の加護を授かった者が愛用していた武器をご神体にすることもあるが、メスティの持ち物ではご神体にふさわしくないだろう。


「冬が終わるまで時間があるし、彫ってみるか。」


 祭壇作りで余った木材を片手に木彫りのご神体作りが始まる。だがご神体などどうやって作ったら良いかわからない。とりあえず女神のようなものを作っているがそれで良いのだろうか。


「女神像を彫るなら意味も必要か。戦の勝利、疫病退散…ここなら五穀豊穣か。食は大切だからな。」


 五穀豊穣の女神。その具体的な案ができたことで木を彫る手にも力が入る。こういった木彫りの経験は皆無だが、思った以上に手が進む。そして掘っていくうちにちゃんと女神の姿らしくなって来た。


「おお…すごいですね。」


「わぁ…すごいです!」


「なんか神がかってるな。俺こんな才能あったんだ。うまくいきすぎてなんか怖いな。」


 そこから多少細部を整えてやれば女神像の完成だ。祭壇に飾るのは祭壇を運び終えてからにしよう。すると外からポタポタと水滴が落ちる音が聞こえた。


「もう冬が終わったか。今年の冬は楽しかったな。」


「俺らも食い物に困らなくてありがたいです。」


「こんな冬ならもう怖くないな。」


「むしろ今日からまた大仕事の日々だ。」


「来年の冬は何をしましょうか。」


「今から来年の冬の話か。でもそうだな…防寒着を作って冬の間ももう少し活動できるようにしようか。」


 また一年が始まる。今年の一年はどんな一年になるだろうか。畑を増やして家を増築するのも良いかもしれない。それからやろうと思っていた街道作りに取り掛かっても良いかもしれない。やりたいことはたくさんある。


 でもその前に一番大事なことをやらなくては。祭壇を設置し、加護の儀式を行う。こんな場所でどこまでできるかわからないが、ベストを尽くしてより良い加護を授けられるようにしよう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 数話前の独りぼっちの冬の話と読み比べる事で…もっと面白いと思いました!
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