第48話 護衛とルーナ
アリルとシェムーがギルド内で雑談をしながらまったりと待っていると、そこへ二人の傭兵が近づいてきた。その手にはアリルたちの護衛依頼の用紙が握られている。
「どもども!初めまして。護衛依頼を出された方で間違いないっすか?」
「はいそうです。」
「ではうちら二人が護衛を務めさせていただきますね。はいこれ、ギルドからの依頼許可証。問題なければここにサインして。そしたら受付に出してくるから。そしたら正式に護衛につくっすよ。」
「ではその前にお二人のことについて教えてください。とりあえず、座って話をしましょうか。」
「そっすね。」
アリルとシェムーの前に座る二人。一人はよく喋るが、もう一人は口数が少なくかなりおとなしい。おとなしい方は一見頼りなさげに見えるが、実力でいうとおとなしい方が強いとアリルは見ている。
「では自己紹介を。あたしはフォルン。傭兵ランクは鉄の2級。で、こっちが…」
「エラミ。ランクは銅の4級。」
「私はアリル。こっちは妹のガルです。エラミさんの方がランクは2級上なんですね。お二人はよく組まれるんですか?護衛依頼の経験は?」
「護衛依頼は少人数のものから大人数のものまで経験あるっすよ。二人だけで組むのは数回程度っすね。普段はもう少し人数多めでやるんで。でも普段から仲良いんで、連携とかはバッチリっす。ね?」
「問題ない。」
アリルはシェムーへと目をやる。するとシェムーは相手に気がつかれないようにアリルへと合図を送る。それを見たアリルは書類にサインをした。
「それではしばらくの間よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いするっすよ。それじゃあ依頼許可を出してくるっすね。」
「ああ、その時にこれもお願いします。」
そう言って2通の手紙をフォルンに手渡す。一体何の手紙か解らないフォルンは自然と宛先を確認する。
「…騎士団団長バラク・メルトーファ様……こっちは銀級傭兵ハドウィック様……ふ、二人は…一体何者っすか?」
「えっと…その二人の友人…の友人みたいなものです。」
「そ、そっすか…そうですか……」
小娘2人の楽な護衛依頼だと思っていたフォルンは急に焦り出す。仲間のエラミも表情こそ変えていないが、付き合いの長いフォルンには動揺しているのがよくわかる。
急にこの依頼を受けても良いものかと悩みだすフォルン。しかしすでにサインは貰ってしまった。今から断るわけにはいかない。
受付にて依頼の受注を知らせ、手紙の発送を頼むとフォルンは深呼吸して気持ちを落ち着ける。今回の依頼は当初予想していた楽な依頼ではない。
「それじゃあ依頼の受注を済ませたんで、よろしくお願いするっすよ!」
「はい、よろしくお願いしますね。」
フォルンとエラミは気合いを入れ直す。今回の依頼は決して楽なものではないと。それこそうまくやりきれば昇級できるかもしれないほどの高難度かもしれないと。
そんな二人の気持ちを知らないアリルはギルドから出る。するとすでに日は傾いている。随分と長い時間ギルド内にいたようだ。
「えっと…手紙を出したからしばらくの間はやることなくなっちゃったね。」
「返事待ち?」
「うん。とりあえずルーナさんのところに行こうか。しばらくはルーナさんのところにお世話になるから。」
アリルの記憶を頼りに歩く4人。途中数度道を間違えながらも何とか夕方前にはルーナの家にたどり着いた。
「こ、ここって…もしかして……ハドウィック様の家の辺りような…」
「そうです。有名なんですか?」
「有名って…そりゃそうですよ!依頼達成率90%越え、この国で5本の指に入る傭兵の一人ですよ!」
「そ、そんなに凄かったんだハドさん…」
ハドウィックの凄さを喋り続けるフォルン。その横でエラミもこくこくと頷いている。シェムーまでもが何でそんなすごい人と繋がりがあるのかと疑問に思うほどだ。
「ま、まあおしゃべりは後にしてとりあえず着きましたから入りましょうか。」
ドアをノックするアリル。その後ろでは身だしなみを整える3人の姿がある。そこまで緊張する必要はないのにと思うアリルの耳に子供の声が聞こえてきた。
「誰ですか〜?あ!アリルお姉ちゃんだ!」
「久しぶりハードナーくん。お母さんいる?」
「うん!入って入って!お母さーん!アリルお姉ちゃん来たよー!」
バタバタと走り出すハドウィックの息子のハードナー。するとその声につられて他の子達も集まって来た。
そしてあっという間に子供達がアリルに群がるとそれをシェムーは羨ましそうに見ている。すると奥から赤子を抱いたルーナが現れた。
「あらアリルちゃん。来てくれたの?」
「ルーナさん!あ!!赤ちゃん生まれたんですね!かわいい!!!」
「ええ、かわいい女の子よ。今日はまた違う子たちがいるわね。メスティくんはいないの?」
「メスティさんは1年間、国への接近禁止令が出ているせいで来られなかったんです。それでですね…」
事情を説明するアリル。それを聞いたルーナは二つ返事で泊まることを許可してくれた。さらに護衛であるフォルンたちもしばらく泊まれることになった。
「わ、私たちまで良いんですか?」
「ええ、問題ないわよ。それにもう2〜3日あの人帰って来ないから護衛は必要でしょ。」
「あ、ありがとうございます!やったね!」
飛び上がるほど喜ぶフォルンの横で嬉しそうに頷くエラミ。しかしタダで泊まるのは悪いので部屋の掃除や子供達の面倒を買って出た。
「アリルちゃんたちの用事は大丈夫なの?」
「しばらくは待機みたいなんです。なのでやって欲しいことがあったら何でも言ってください!」
満面の笑みを浮かべるアリル。メスティの元にいた時は毎日毎日やることだらけだったが、ここでは十分に羽根を伸ばすことができそうだ。




