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第47話 入国と護衛

「大丈夫ですか?本当に大丈夫ですよね?」


「大丈夫よアリルっち。…覚悟はできたわ。」


 心配そうにシェムーを見つめるアリル。シェムーは呼吸を整える。そんな二人は入国審査待ちの列に並んでいる。そして列は進み、アリルたちは衛兵の前に立つ。


「よし次。身分証明書を。」


 アリルは身分証明に当たる国民権の証明書を提出する。それに目を通して行く衛兵。そしてシェムーの国民権の証明書を見た衛兵は動きを止めた。


「二人の関係性は?それから入国の目的は?」


「し、姉妹なんです。お父さんお母さんからおつかいを頼まれて。ね?」


「うん、そうなの。」


「ふむ…少し待っていなさい。」


 衛兵は書類を検査する。そしてしばらく待つと入国許可証を二人に手渡した。


「確かに4人兄弟がいると言う書類を預かっている。アリルと…ガル、で良いのかな?」


「そうです。ね、ガルちゃん?」


「はい!ガルです!」


「そうか。街中では気をつけるんだよ。」


 許可を得た二人は無事入国を済ませる。だが二人の表情は疲れ果てている。それもその筈だ。シェムーをガルということで無理やり入国したのだから。


「…ねえ、私そんなに幼く見えるの?怪しまれると思ったんだけど…怪しんで欲しかったんだけど…」


「妹設定の方が怪しまれないってメスティさん言ってたけど本当だったね。でも今度お兄ちゃん来た時どうしよう…」


 シェムーはシェムーとして国民権を持っているのだが、今は逃亡の身。そこでアリルの兄弟の中で一番女としても名前が通じそうなガルの名前を使って入国することにした。


 そこらの村の村人の国民権の登録なんてものは金さえ払えば文章が適当でも作れてしまう。だからこその荒技だ。一応違法なのだが、この程度なら年に何度かあることなのでなんとかなるとのことだ。


 そして無事入国を済ませた二人はひとまずギルドへと向かう。そしてそこで街に滞在する間の護衛を雇う必要がある。


 すでに一度来たことのあるアリルは記憶を頼りに街をスタスタと歩いて行き、すぐにギルドへとたどり着いた。


 今日もギルドは大賑わいだ。アリルたちはその人混みに紛れてギルドの二階へと上がる。するとそこにいる屈強な男たちがアリルたちの方を見る。


 その視線にシェムーは若干怯えるが、アリルは堂々と歩いて行き受付へたどり着く。


「ようこそ冒険者ギルドへ。あなたは確か…メスティ様の所の…」


「アリルです。こっちは妹のガル。護衛依頼をお願いしたいんです。詳しい内容は…この手紙の中に。」


「確認しますね。…しばらくお時間がかかるようなので席についてお待ちください。お飲み物も用意しますね。」


 言われるがまま席について待つアリルとシェムー。そんな二人を周囲の男たちは観察している。だがそれ以上は決して動きを見せない。


「…今日はハドウィックさんいないんだ。護衛頼もうと思ったのに。」


「……ねぇ、メスティって何者なの?」


「メスティさん?私もまだまだ知らないことばかりだけど…どうして?」


「………飲み物が出たわ。」


「…飲み物くらいでるでしょ。」


 何を訳のわからないことを言うのかと思うアリル。だがシェムーはいたって真面目だ。不思議そうにしているアリルに対してシェムーは一方の壁を指差す。


「ギルドだって商売よ。飲み物はタダじゃない。ほとんどの依頼者は何か飲みたかったらお金を払って飲み物を飲むの。飲み物がタダで出る場合は大口の取引の時か…そのくらいのサービスをしなくちゃいけない相手の時だけ。」


「…私その辺りはよくわからないんだけど……傭兵としてどのくらいのランクがあれば待遇良くなるの?」


「最低でも金級ね。それからギルドへの貢献度の高さ。高難度の依頼を多く達成すればそれだけギルドから認められる。」


「金級で良いの?」


「良いのって…金級は実質最高ランクよ。それより上のランクに行くには超高難度の依頼の達成及び国からの叙勲でもないと無理よ。それだけの依頼自体10年に1度あるかどうか……ある種の伝説よ伝説。」


「へぇ…でも多分……」


「お待たせいたしました。手紙の内容を確認させていただきました。書類も作成したので確認のほどよろしくお願いします。」


「ありがとうございます。」


 書類に目を通すアリルとシェムー。その内容は街での滞在中の護衛。それから街を出た際に所定の場所までの護衛。この二つだ。


 ただし街中での護衛は目立たないようにするため、高ランクの傭兵は雇わず、なるべく同性で鉄級から銅級の傭兵を雇うとある。


 しかしその書類に目を通したアリルはしばらく考え込んでしまう。アリルたちの護衛にはこの程度は必要だと思うのだが、アリルは一つ問題を見つけてしまった。


「あの…費用などはどうなっているのでしょうか?その…いまお金を持っていなくて…」


 単純な問題にして重大な問題。それは金がないということだ。これだけの期間、護衛を雇うとなるとそれなりの金がかかる。


 しかも帰りの際には銀級の傭兵を雇うとある。今のアリルたちにそんな金はない。アリルはその辺りをメスティから一切聞かされていない。


「その辺りは問題ありません。貢献度払いをするということですので、費用はギルドで持たせていただきます。」


「貢献度払い?それってなんですか?」


「ギルド加盟者がギルドへ貢献したことを貢献度と言います。例えば地位の高い依頼者の護衛や納品依頼を達成したことでギルドとその地位の高い方との繋がりを得られるようになればそれはギルドへの貢献度となります。高ランク帯のギルド員が時折利用しますね。」


「えっと…それを使っても問題ないんですか?」


「本来ならば貢献度が下がるので、降格措置をとります。ですがメスティ様の貢献度はこの程度では降格するほど下がりませんので心配はありませんよ。」


 それを聞いてホッとするアリル。だがシェムーは今回の護衛依頼の用紙を見て頭の中で計算する。


 アリルに対する護衛はそれなりのものだ。費用としてもかなり高い。貢献度払いをすればまず間違いなく降格するレベルだろう。


「あの…メスティの…今のランクって…」


「あら、知らないんですか?メスティ様はこの国の傭兵の中で最高位である金の特級です。本来ならばその上のミスリルでも良いのですが、学生でしたので特例として特級を上限とさせていただきました。」


「ミ、ミスリ…ル……」


「メスティさんそんなに上だったんだ…」


「お二人とも知らなかったんですか?」


「メスティさんあまり自分のことは話さなくて…喋るときはちょっとした雑談とか、勉強の話で。」


「そうでしたか。まあ自慢話とかあまりしない子ですからね。ふふふ、じゃあまだまだ驚くような話は山ほどあるわよ。あの子の話なんて1日語り尽くしても語り尽くせないから。それじゃあ依頼出してくるわね。」


 話はまとまったということで早速新規の依頼として掲示板に張り出される。新規の依頼ということで大勢の目に止まる。


 依頼が決まるまでの間、ギルドから動けないアリルとシェムーであったが、この調子ならすぐにでも依頼は決まりそうだ。



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