第46話 街へ向かう2人と
「私とシェムちゃんの二人だけで行くんですか?」
「ああ、悪いが頼む。一応万が一に備えて色々用意しておくから出発は明後日だ。」
シンガード商会に赴きラセックから商品を回収するように言われたアリルは微妙そうな表情をしている。メスティの役に立てるのは間違い無いのだが、メスティはついてこられない。
数日間アリルとシェムーの二人旅。それはそれで楽しそうであるのも間違いない。ただメスティはいない。喜ぶにも喜べない微妙なラインである。
「向こうに着いたらとりあえず先生に会う…のは俺がいないとキツイか。団長とコンタクトを取ろう。団長経由で先生に会ってくれ。先生なら今のアリルに必要なものがわかるだろうから、色々用意してくれるだろう。それから…先生と団長に聖水を渡してほしい。」
「良いんですか?聖水は好きじゃ無いって…」
「あの二人は別だ。もう加護を極めているからな。聖水を摂取することで何か変わったとしてもあの二人なら本当の意味で自分の力に変えられる。それから泊まるのはハドウィックのところだ。あそこが一番安心できる。それから帰りのことを考えて帰りの護衛を雇おう。」
メスティは頭をフル回転させアリルたちの街での行動を決めていく。そのために必要な手紙をいくつも書き上げる。
「それからさすがに手ぶらはマズイだろうから色々とポーションを作っておいてくれ。それから…あの河童の焼物も持って行くか。」
それから1日半かけてラセックの元へ届ける商品をいくつも用意するメスティとアリル。そして出発日の当日は日が登った直後に出発することになった。
移動方法はもちろん身体強化を加えた上で走るという単純な移動。だが出発の段階でシェムーは疲弊しきっている。そんなシェムーとアリルの二人にくわえ、なぜかメスティの姿もある。
「身体中が痛い…魔力もほとんどないんだから回復するまでおぶってよね。」
「はいはい。わかったよ。」
「シェムちゃん大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ…こいつがしごきにしごくから疲れきっているわよ。どうすんのよこれ…」
「最低限の実力をつけさせるために必要な訓練をしただけだ。まあ街に向かう数日間でなんとかなるから安心しろ。」
アリルの護衛のためのシェムーだが、メスティが求める戦力の水準に全く達していなかったため、急ごしらえで鍛え上げた。
もちろんまだまだ戦力としては不安が残るが、それでもやれることはやった。残りの戦力として足りない部分は護衛を雇って補うしかない。
そんな3人の移動はしばらく続き、ある日突然メスティはピタリと止まった。
「俺が着いていけるのはここまでだ。ここが街からギリギリ100キロ離れているくらいの場所だ。」
メスティは足で地面に線を引く。そして背中からシェムーを下ろすと懐からいくつもの手紙を取り出した。
「この手紙を誰にいつ渡せば良いかは書いてある。必要な時に使え。それから…そのリュックは失くすなよ?」
「もちろんです!大事なものがいくつも入っていますしね。」
「それからラセックのところでおそらく錬金術の加護持ちだとバラすことになる可能性が高い。いいか?それまでは決して錬金術の加護持ちだということを人に知られるなよ。そしてそのことがバレたら…」
「この線のところに戻ってこい…ですね?」
「そうだ。このラインを超えたら俺が必ず守ってやる。だがラインを超えることができなかったら…」
「どうすることもできない…ですか。」
「いや、ちゃんと守ってやるさ。ただその時には規則を破ったということで国と揉めることになる。そうならないように頑張ってくれ。」
優しく微笑むメスティ。アリルに万が一のことがあれば国と揉めることになっても必ず助けるという言葉にアリルは嬉しくなる。
だがそれと同じくらい責任の重大さを知り、唾を飲み込む。もしも自分の身に何かあればメスティが助けに来てくれる。だがその時は大問題に発展しかねない。
シェムーもそのことを知って手汗をかいている。シェムーの護衛の役割も責任重大だ。
「それからラセックの所にはすぐ行く必要はない。もしかしたら数日間暇になるかもしれないが、その時はゆっくり遊んでくれ。」
メスティはそう言うとポケットの中からわずかばかりの貨幣を取り出してアリルに握らせた。これはメスティが持つ全財産だ。
「前回の時はあわただしかったからな。もう少し余裕があればよかったんだが…まあ足りない分は先生からお小遣いでも貰って遊んでくれ。」
「でも……」
「俺は一度家に戻る。ここに来るのは5〜6日先のことだ。それ以前にここに来たとしても俺はいないから気をつけろよ。」
「わかり…ました。」
「よし!それじゃあ…いってこい!!」
背中を押して檄を飛ばす。そしてアリルとシェムーは街へと向かって一目散に走って行った。




