第45話 はじめてのおつかい
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「それじゃあまた行ってくるわ。」
「あ、メスティさん。ポーション持って行きますか?」
今しがたできたばかりのポーションを手渡すアリル。それを受け取るとメスティはワディたちの元へ向かう。
ここ最近、昼の数時間を使ってワディやその護衛に当たるものたちの特訓を行なっている。ただそれに関してガルたちはあまり良く思っていない。
「メスティさんまた行ったのか。かなりスパルタだから最近向こうの村で嫌われているだろ。」
「…前に聖樹の様子を見に行った時、私まで嫌悪の視線受けたよ……でもワディさんたちはいつの日か自分たちの領地に戻ることを夢見ているから、強くなった方が良いのは間違いないんだよね。」
「うちとしては残ってくれた方がありがたいんだけどな。でも…本人たちの意向は尊重しないといけないしな。でも戻れる可能性あるのか?」
「麻薬の証拠を騎士団に渡したから多少は動きあるだろうってメスティさんは言っていたけど…私にはわかんないや。」
ワディが自身の領地に戻るためには今の貴族派の力を削ぐ必要がある。もしも今の状態で無理やり自身の領地に戻ったとしても、医薬品の積み荷を襲った罪で処刑されるのがオチだろう。
そのためワディが自身の領地に戻るには医薬品の積み荷を襲ったのは麻薬の流通を防ぐためだということにする必要がある。そしてそのためには麻薬取引に関わっている貴族を吊るし上げる必要があるのだ。
「まあ数年は戻れないだろうからそこまで心配する必要ないか。それよりも作業に戻ろう。」
未来の心配よりも今の仕事を優先させるガルたちは今日も働く。
そしてワディたちの元へ向かったメスティはというとガルたちの心配をまるで気にしないように厳しい鍛錬をワディたちにつけていた。
「ほらそこ!魔力操作がブレてる!集中切らすな!ワディ!魔力をもっと流せ!ガキじゃねぇんだからそのくらいちゃんとやれ!」
メスティがやらせているのは基本的な魔力操作技術だ。魔力持ちなら誰もがやったことのある訓練。しかしメスティが求めるレベルはあまりにも高い。
だが魔力持ちというのは魔力操作技術と魔力出力さえ上がれば体を鍛えなくても強くなれる。強くなるのに一番有用な訓練なのだが、それを怠るものはかなり多い。
なぜ怠ってしまうかといえば、加護が原因だ。加護の力を授かると加護を鍛えた方がその加護でしかできない魔法や技術を覚えることができるため、加護を鍛えることばかりに注力する。
「シェムー!もっと魔力は繊細に扱え!そんなに雑だといつまでたっても上級魔法言語を扱えないぞ!」
「やってるわよ!だったらあんたは私以上にできるんでしょうね!」
「はぁ…ほれ、このくらいで良いか?」
「うわ……きも………」
目の前で超絶技巧の魔力操作を見せつけてやるメスティ。それを見たシェムーはドン引きしてそれ以上何も言わなくなった。
「魔力出力ももう少し上げてやりたいところだが、魔力操作技術が拙すぎるからもう少しマシになったら魔力供給で出力あげてやる。」
「別に問題ないわよ。ワディ様だって十分すごいんだから。そもそも他人の魔力出力あげられるほど、魔力出力高いの?」
「安心しろ。お前らの数十倍は高いから。というか昔から魔力出力に関しては限界感じたことないんだ。さて、そろそろ集中力持たなくなってきたみたいだから武術稽古始めるか。ほら、武器を持て。」
それを聞いて嫌がる一同。メスティの稽古は立ち上がることができなくなるまで続く。本当にきついシゴキなのだ。
だがそのきついシゴキのおかげでワディは錆び付いていた身体が動きのキレを取り戻してきている。やはりかつて騎士団に所属していただけあってポテンシャルは高いのだ。
「よし、それじゃあまずはワディから…ん?」
上空を見上げるメスティ。すると一羽の鳥がこちらに向かってきていた。メスティはそれに気がつくと腕をまっすぐ横に伸ばす。
その鳥は急降下するとメスティの腕へと止まる。その脚には手紙が結い付けられていた。
「シンガード商会の特急鳥か。ラセックめ、わざわざこんな手紙よこすとは一体何が…」
手紙に目を通すメスティ。するとピタリと動きを止めたまま手紙を凝視している。その様子に戸惑うワディたち。すると突如その日の稽古は終わりになった。
「一体どうしたんだ?その手紙に何が…」
「…簡単にいうと希少な種子が複数手に入ったという知らせだ。さらに…クラウドシープの生体が入手できたともな。どれも喉から手が出るほど欲しい…」
「クラウドシープだと?あの山岳地帯に生息するという雲のごとき毛を纏う…」
「ああ、その体毛から作った製品は貴族たちが争うほど欲しがる逸品だ。生きているクラウドシープが手に入るなんて…ただクラウドシープはストレスに弱い。街の喧騒の中ずっと暮らしていたら弱って死ぬ可能性もある。」
「それを届けてもらうんですか?」
「いや、取りに来て欲しいということだ。しかもアリルを連れてな。これだけの物品は多額の金が動く。ラセックとしては周りにアリルという錬金術の加護持ちとつながりを強めるために送る品ということにしたいんだろう。」
「どうしてわざわざそんなことを…」
「言っただろ?多額の金が動くって。今の俺にはクラウドシープ一匹買う金すらない。俺がここに書いてある全部を入手するにはアリルを出しに使うほかないんだ。」
「でも…ラセックさんには徳はないんじゃ…」
「俺の加護ならここに書いてある種子を全て発芽させ、収穫することができる。そしてその加工はアリルができる。俺らが持つことで莫大な富を産む。ラセックはそこまで考えているさ。」
メスティがこのリストに書いてあるものを全て手に入れることができれば金貨数千枚クラスの莫大な富を生み出すことができるだろう。
ただしラセックもそう簡単に動くことはできない。ラセックはこれまでの功績から商会長に上り詰めることができたが、商会内にはラセックをその地位から引きずり落として我こそが商会長にふさわしいと考えるものが多い。
そのためメスティばかり贔屓していると思われれば、商会内で問題視されその地位から失脚しかねない。
だからこそアリルを出しに使う。錬金術の加護持ちとお近づきになれるのであればこの程度の貢物は安いものだ。周りのものにもそれを周知させれば何の問題もない。
「だけど…アリルは戦闘はからきしだからな……護衛をどうするか…」
「あんたがついて行けば良いじゃない。」
「俺は魔導農家の加護の影響で国への接近禁止令が出ているんだ。秋まで待ってくれれば何とかするんだが…それまでクラウドシープが持たない。ワディ。お前らの中で戦えるやつを貸してくれないか?」
「無理だな。私含め皆顔が知られている。顔の知られていない戦闘員なんて…」
「そうだよなぁ…」
アリルを一人で行かせるのは流石に問題だ。それなりの護衛がいなければ万が一の際に対応できない。ワディたちも逃亡中の身であるため、人の多い場所に行くのは余計な問題を生む。
「なら私行こうか?」
「お前が?魔法学校に通って顔は知られていないのか?」
「うちの家系は一子相伝の技術を代々伝えて来たから魔法学校に通っていないわよ。基本遊ぶの禁止で勉強ばっかりだったから私の顔を知っている人は少ないわ。」
「確かにそうだ。シェムーのことを知るのは我が領地でも指の数より少ないだろう。戦いの心得もあるし適任だろう。」
「マジか…ナイスだ引きこもり。」
「引きこもりちゃうわ!!」
そうと決まれば早速準備をする。アリルとシェムーの初めてのおつかいの始まりだ。
 




