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第39話 取引完了

「錬成領域を展開…混合開始……ふう、とりあえずもう100本できましたよ〜」


「お〜!うん、質の良いポーションだな。それじゃあもう一踏ん張り頼んだ。」


「は〜い。でもこんなに作って売りさばけるんですか?」


 アリルは背後をちらりと見る。そこには1000本近いポーションがずらりと並べられている。これら全てを出荷する予定なのだが、こんなに作っても売れるか心配になる。だがメスティは笑って答えた。


「シンガード商会はこの国でも指折りの商会だ。それに数が出回ると騎士団が大量購入するからポーションが売れ残ることはない。」


「騎士団が買い占めるんですか?有事の際に向けて?」


「いや、ポーションが必要なほどきつい訓練ができるようにだ。」


 表情を引きつらせるアリル。騎士団で大規模訓練を行う際には毎回数千単位でポーションを使用する。それだけきつい訓練をしているおかげでこの国の騎士団は他の貴族の私兵などと比べても頭一つ飛び抜けている。


「けど頑張ればポーションなんて私でも1日で1000本作れるから商売にしている人たちは余計に余るんじゃないですか?」


「…普通はポーションの原料となる薬草が手に入らないんだよ。街単位で考えてもせいぜい1日100本ってところだ。」


 メスティは薬草畑へ目を向ける。そこではラセックが薬草を一つ一つ観察している。ラセックとしても非常に興味深いだろう。なんせ薬効成分を減少させることなくこれだけの薬草を育てられるのは世界広しといえど、魔道農家の加護を持つメスティだけだろうから。


「…このこと国に言えばもっと良い領地もらえるんじゃないですか?」


「貰えるだろうな。でももう遅い。俺はこの畑を放棄することができない。」


「残念でしたね。うまく流通できれば医療と食の最先端の国になれたのに。」


 今ではもうありもしない話をして盛り上がる二人。そして途中途中休みながら朝までに2000本のポーションを完成させた。それを荷馬車に詰め込むとさらに銅や銀のインゴットを積み込んで行く。


「…こんなに詰め込んで問題ないんですか?」


「ああ、全く問題ない。銅はまだしも銀はここじゃ使い道ないからな。ポーションも薬草が育てばまた作れる。ただインゴットは重いからあまり量は運べないな。」


「そうですか…」


 呆れた表情をしながら積み荷の総額を計算するラセック。そして算出が終わったところでその金額をメスティに渡そうとするとメスティはそれを断った。


「ここじゃあその金は使い物にならん。だからそれを前金にして役立ちそうなものを持ってきてくれ。」


「…私が持ち逃げする可能性もありますよ?」


「その程度の小額でか?ここには錬金術の加護持ちがいる。下手に裏切るよりも友好的な方がより富を築けるだろ?」


 ズバリと言い切るメスティ。それを見たラセックはわずかな笑みを見せる。その笑みが珍しかったのかメスティがいじろうとするとすぐに表情を戻した。


「わかりました。しかし言っておきますが、積み荷の半分は輸送費で消えるので金になるのは半分だけです。大きな取引をしたかったらもっと高値で売れる軽いものを用意してください。」


「こいつは手厳しい…あ、一応近くにもう一つ村があるからそこでもちょっとした取引はできると思うぞ。年に一度街まで買い出しに行っていたから、もしかしたら良い取引ができるかもしれない。」


「そうですか。ですがこの辺りの村ではたかが知れていますので。…まあ試しに立ち寄ってみます。」


「ぜひそうしてやってくれ。ここに来るときにあの村長には助けられたから。」


「わかりました。…それでは。」


「ああ、じゃあな。次来るときは寝泊まりできるところ用意しておく。」


 別れとともにすぐに去っていくラセック。その様子を見たアリルは親しそうに見えたのにあんなさらりとした別れ方なのかと思う。だがそれよりも今は徹夜でのポーション作りで疲れたから眠りたい。


「それじゃあメスティさん。私お昼まで寝てますね…」


「ああ、ゆっくり休んでくれ。…ありがとうな。おかげであいつに多少は良い思いをさせられた。」


「多少は?騎士団からの依頼でたっぷりお金もらっているんじゃないんですか?」


「まあな。でも…これだけの種類をこの短期間に揃えるのは並大抵じゃない。しかも品質が非常に良い。俺や騎士団からの報酬全て合わせてもトントンいくかいかないかだろうな。全く…商人なら金になることをしなくちゃダメだって教えたんだけどな。」


「…どういうお知り合いなんですか?」


「あいつが商人見習いの時からだな。ギルドで採取依頼をいくつかしていた時に取引していた。あいつはよく泣きべそかいていたよ。ミスをしちゃって材料が間に合わないって俺に泣きついて大変だった。今回のはその時の恩義ってやつだな。気にするなって言っているのに…」


 それだけ話すとメスティは農作業に戻っていく。アリルとしてはメスティの過去の話など珍しいのでもう少し聞きたかったのだが、どうやらここまでのようだ。それにアリルとしてももう眠たくて仕方がない。そしてそのまま昼過ぎまで眠るのであった。





 朝から昼前まで農作業をしたメスティはワディたちの元へと向かう。ワディたちは今日も家の建設作業に追われている。ただこの調子ならば冬前にはちゃんとした家が完成することだろう。


 だが建設ばかりに気を取られて作物を育てることが全くできていない。しかし今農地を作ったところでそこに割く人員がいないという問題もある。そこでメスティはあるものを植え始めた。


「それは…プルーの苗か?」


「ん?ああ、そうだよ。果樹園を作ろうと計画していたんだけど、向こうじゃもう人出が足りないからな。こっちで管理してくれ。剪定方法とかは教えるけど、まあしばらくは放っておいて大丈夫だ。」


 今年の春から密かに育ててきたプルーの苗30本。すでにメスティの魔道農家の加護の影響で背丈は1mほどまで成長している。早いところ育てる場所を決めておきたかったので実にちょうど良い。


 本来は収穫まで5年以上かかると言われるプルーの苗木だが、この調子ならば来年か再来年には収穫できるようになるだろう。そして果物が生産できるようになれば酒も作れるようになる。酒は良い金になるのでできるだけ早く収穫にこぎつけたい。


「来年には赤ん坊も大きくなっている頃だからな。プルージュースも飲めるようになるんじゃないか?」


「そうか……1歳になればジュースは飲んでも良いのか?」


「大丈夫だ。友人の子供の世話をしたこともあるから多少はわかる。」


 それを聞いたワディは翌日からプルーの苗の周辺の除草や肥料のための腐葉土を森からせっせと運んできた。どうやら父親として子供に美味しいプルージュースを飲ませたいらしい。


 この調子ならばほとんど世話を任せても問題ないだろう。その他の農作は来年から始めれば良い。それまでの間はメスティたちの元で育てた作物で事足りるだろう。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アリルは成長してんな~千本のポーションを作るって聞くだけで、凄いことだと、その世界のことや作る平均数を知らなくても思いますよ! 商人との取引は無事一段落!…んで、例の村長に助け船ですか!…
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