第38話 秘密の取引
「と、いうことなんだワディ。」
「戻って来たと思ったらそういうことか。つまり…金が足りないんだな?」
メスティはワディたちのいる村へ金の無心にやって来た。メスティは現状の手持ちでは金が足りなくなったことに気がつき、慌てて金を持っているであろうワディに助けを求めたのだ。
「まあ荷物の中には我々が必要とするものも多い。足りない分はなんとかしよう。」
「そうか!それは良かった…いやぁヒヤヒヤしたわ。」
「だが…そいつは信用できるのか?突如どこからともなく金を持って来て我らの存在に気がつかれる可能性もある。」
「騎士団が仲介に入っている。それに…俺もよく知っているやつだ。問題ない。」
なんの心配もないと言い張るメスティを見たワディはメスティを見つめてじっくりと考える。そしてしばらく考えたのちに大きく深呼吸した。
「それだけ信頼できるというのであれば一つ頼みたいことがある。」
そういうとワディはメスティを連れ、歩き出した。向かった先はワディたちの荷物置き場である。まだ家が完成していないので何から何までここにおいてある状態だ。その荷物の中からワディは医薬品の入っている木箱に触れた。
「これは輸送中の荷馬車を襲って入手した医薬品だ。」
「ああ。まあ正直アホなことしたなとは思っている。だが子供が生まれるのなら仕方がないな。」
通常医薬品は重要物資だ。それが襲われるような事態になれば大事となり、襲ったものを討伐するために多くの討伐隊が組まれる。騎士団がワディたちを討伐するように命じられたのもこの医薬品が大きな原因だ。
するとワディは医薬品の入っている木箱を開ける。そこには包帯や消毒液、ほかにも細々とした医療品が入っている。これが街に届かないせいで助からなかった命があるかもしれない。するとそんな医療品を全て掻き出すワディ。すると木箱の底が見えた。
「ん?底が浅すぎないか?」
「ああ、上のはあくまでカモフラージュだ。奴らにとっての本命は…これだ。」
木箱の底を外し、その下から袋を取り出すワディ。それをメスティに投げ渡す。嫌な予感がするメスティは袋を開けて中身を確認する。
「…麻薬か。なるほどな、騎士団に討伐命令が出されたのに襲撃があったのはこういうわけか。」
「ああ、医薬品は国や貴族が取り扱う国営事業の一つだ。そこに麻薬が隠されているということは…」
「国や貴族が関わっている、ということだな。量はどの程度ある?」
「100キロ以上はあるだろう。そんなものを定期的にやり取りしている。莫大な麻薬事業が成り立っている可能性がある。」
「可能性…というよりまず間違いないだろうな。この純度…薬師の加護持ちが何人も関わっているな。」
加護持ちの作る麻薬は非常に純度が高いため、少量でも高額で取引される。ただしそれは各国で問題視されており、発覚すれば死罪になるほどだ。このことが表沙汰になれば大問題になるだろう。
「このことをアーネスト様に知らせておきたい。放っておけば国が傾く可能性もある。」
「そういうことなら頼んでおこう。しかし100キロもの麻薬がここにあるのか。」
「ああ、証拠として提出できたら残りは土にでも埋めて処分しよう。」
「ん〜それはもったいないからアリルに医薬品の材料にしてもらおうか。」
「麻薬をか?」
「麻薬だって使い方次第では人を救う薬になるんだよ。」
もしも麻薬人に害だけしか与えないのであれば、その原料を根絶やしにした方が良いだろう。しかし麻薬の原料は使い方によっては食料にもなれば、重病の治療薬にもなる。この精製された麻薬もうまく成分を抽出すれば重病の治療薬になることだろう。
「そういうことなら全て任せよう。ただ…」
「安心しろ。悪事は働かないよ。」
メスティは麻薬を二袋、そして足りない貨幣を受け取ると急いでその場を後にした。そして家に戻るとそこではガルたちがラセックたちに振る舞う夕食の準備をしていた。
「遅かったですね。用意はできましたか?」
「ああ、もちろんだ。ついでに一つ頼まれて欲しい。」
待っていたラセックに今回の取引の満額を支払い、麻薬の件を頼む。すると表情一つ変えずにラセックはそれを請け負った。
「もしかして…アーネストさんから聞いてた?」
「ええ、おそらく何かあるだろうということは。それに関しても口止め料はもらっていますので。」
「まあ騎士団が気がつかないわけないもんな。…しかしそれでも撲滅のために動かないとなると…背後には大物がいるか。厄介だな。」
「以前ウチにも一枚噛まないかと誘いが来ましたよ。おそらくいくつもの商会が関わっているでしょうね。そいつらを検挙してくれれば上がいなくなるのでうちの商会が一気に伸びるんですけどね。」
「はぁ…大きな戦闘がないだけで戦争が起こる可能性は十分にあるっていうのに…内部崩壊してどうするんだよ。一度貴族連中の大入れ替えしたいくらいだ。」
「…今のは聞かなかったことにしておきます。不敬罪で殺されますよ。」
「あはは。今は俺も貴族だからいいんだよ。まあ最底辺だけどな。それに…俺の首が欲しければ騎士団連れてこないと。」
ヘラヘラと笑うメスティ。それを見たラセックは今回の取引の完了書類を手渡す。これで問題なく仕事は完了だ。
「今日は泊まっていけよ。まあまだその家は建築中だから寝泊まりするのは無理だから野営してくれ。その代わりに風呂と食事はちゃんと用意するからさ。それからいろいろ買取もしない?金属とポーション系なら運ぶ日数がかかっても問題ないでしょ?」
「金属…そこに山になっていましたね。ただ鉱石の買取はしませんよ。重いだけで金になりませんので。ポーションはあなたが作ったものですか?」
「いや、俺じゃない。実はな、あの女の子…うちの錬金術師。インゴットとポーションならそれなりに用意できるぞ。」
「錬金術師?まさか…錬金術の加護持ちが?」
メスティは笑みをうかべて頷く。それを見たラセックはアリルに注目する。まさかこんな野良の錬金術の加護持ちがいるとは普通思いもしない。ラセックは頭の中で計算を始める。
錬金術の加護持ちは莫大な金を生む。こんな若い時から繋がりを持てれば将来ラセックの商会、シンガード商会は国一番の商会になれる可能性が十分にある。
「メスティさん。どうやらこれからもお世話になりそうですね。」
「それは助かる。こんなところに行商人なんて来ないからな。ついでに高値で売れるものの一覧を作ってくれないか?」
「ええ、もちろんです。これからもよろしくお願いしますね。」
メスティとラセックは握手を交わす。これでメスティは街に行かなくても大抵の物品は手に入るようになった。そして河童との取引で得た鉱石の山もこれでようやくお金に変わる。
ストックもほとんどないし、きりも良いので明日から隔日投稿にします。
今後も頑張っていくのでブックマーク登録、評価のほどよろしくお願いします。次回更新は11月2日です。
 




