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第37話 水道と来客

「アリルっちイェーイ!」


「シェムちゃんイェーイ!」


 ハイタッチをする二人。そんな二人の目の前には地中に埋められて行く大きな銅の箱があった。その様子を家を建てながら見ているとアリルとシェムーの二人がこちらへと駆け寄ってきた。


「メスティさんメスティさん!シェムちゃんすごいんですよ!あんな難しい魔法言語を簡単に使って…」


「アリルっちだってすごいわよ。加護を授かってから2年も経ってないのにこれだけのものが作れるんだもの。このおかげでみんな井戸から水を引かなくて済むわ。」


「二人とも本当にお手柄だよ。まさかこの地に水道設備ができるなんてね。」


 少し前にこの村のためにと完成させた井戸。しかしもっと便利にした方が、時間を有効に使えるとアリルとシェムーは共同開発で水道設備を完成させたのだ。このおかげで家で蛇口をひねれば水が好きなだけ使えるようになった。


「ただ冬場は気をつけろよ。凍結防止の魔法がかけられているんだから水を使わなくても魔力を消費する。こまめな魔力供給を怠らないこと。」


「問題はそこなのよね。アリルっち、魔力貯蔵タンクを作るわよ。」


「メスティさんに教えてもらったので作り方はわかるんですけど、どうしても材料が足りないんです。」


「そうなのね。というか作り方がわかるところもおかしいんだけど…まあいいわ。代わりのものがあるから大丈夫。あれを使うのよ。」


「あれって…シェムちゃんの杖?」


 シェムは井戸の近くに立てかけられている杖を持ってくる。それを見たメスティはすでにそういうことかと理解した。どういうわけか理解できないアリルはメスティに助けを求める。


「あの杖の素材となっている木は魔力との親和性が非常に高い木だ。マジックアイテムの媒体にしては一級品と言えるだろう。そしてあれだけ魔力と親和性があれば魔力を保持する能力もそれなりのものだ。魔力タンクとして水道設備につなげば…よっぽどな使い方をしない限りは丸一日持つだろう。」


「そんなにすごいものなんですか!?」


「そうじゃなかったら魔法言語を30文字も刻めないさ。おそらく元はトレントと呼ばれる樹木系モンスターだな?」


「本当にあんた詳しいわね…ええ、その通りよ。100年以上も前に討伐されたものだという風に伝えられているわ。」


 基本的に上級のマジックアイテムはモンスターの素材から作られるものだ。その中でもトレントのような樹木系のモンスターは利便性が良いため、非常に価値が高い。


 モンスターがはびこる魔大陸と接する国々などではモンスター素材がよく流通するらしいが、この辺りでは滅多にお目にかかれない存在だ。


「だけどそんなにすごいものをこんなことに使って良いんですか?」


「構わないわ。別にこれの本来の能力が使えなくなるわけじゃないから。みんなの役に立つのが一番よ。」


 笑顔で答えるシェムー。それを見たメスティは非常に感心した。あの杖は家宝と言えるだけの代物だ。それを皆のためならば好きに使って構わないというのは賞賛に値する。そしてものの数分で杖は水道設備の魔力タンクへと早変わりした。


「さあこれで完璧ね!1日一回周囲の探知と一緒に魔力を補充すれば十分よ。」


 シェムーが杖に魔力を送り込むと魔力の波動が広がっていく。やはりマジックアイテムを利用した場合の魔法というのは強力だ。これだけの探知結界をこれだけの魔力で発動できるのは利便性が非常に高い。


「範囲は祠のあたりまでね。」


「祭壇な。…ちょっと貸して。」


 メスティは杖へ触れる。するとシェムーよりもはるかに広い探知結界が形成される。それを見たシェムーは怒りでプルプルと震えている。


「なんで…私より…効果が…あるのよ!」


「こういうのはあくまで補助器具だ。魔力だけを注ぎ込んで道具の力だけ引き出しても最低限のことしかできない。魔術師の加護なんだから道具に扱われるだけの使い方をするな。道具は使いこなしてなんぼだ。」


「う…うぐぅ……」


 若干涙目になりながらプルプルと震えるシェムー。メスティの言うことが最もすぎて反論できないのだ。するとメスティはこの杖の扱い方を見せつけるかのようにどんどん探知結界の範囲を広げ、精度を上げる。


 その様子を怒りで震えながら見るシェムー。だがメスティはそんなシェムーよりも重要なことに気がついた。そしてそれを調べるようにさらに探知結界の精度を上げている。


「誰か何者かが来ている。5人…まだいるな。8人……これ以上はわからないか。」


「お兄ちゃんたちは大丈夫ですか!?」


「安心しろ。戦いに来たわけじゃなさそうだ……ああ!そういうことか!」


 メスティは作業を中断し、アリルとともに家へと戻る。そして家へとたどり着いたメスティたちの視線の先には幾台もの荷馬車から荷物を下ろすガルたちと客人たちの姿があった。


「やっぱりそうか。アーネストさんたちに頼んでおいた荷物が来たんだよ。ただ感知妨害のマジックアイテムを使ってるな。そんなのが使えるなんてそれなりの商人のようだけど…ん?あの姿…」


 メスティはずんずんと突き進む。すると向こうもメスティに気がついたようで荷物をその場に下ろした。


「久しぶりだな。しかしまさかお前が来るなんて思いもしなかった。」


「この取引のことを黙っているだけで余分に金が貰えますから。商人において情報の秘匿は当たり前のことです。それに騎士団にも伝手ができました。断る理由がありませんよ。…お久しぶりですメスティ。しかし今はこんなところで暮らしているんですか?」


「案外悪くないぞ。風呂もあるし、新鮮な野菜が食べ放題だ。なんならお前もここで暮らすか?」


「いえ結構です。私はもう商会の長ですから。」


「マジか!あの爺さんがお前を認めたんだな…そうか…おめでとうラセック。」


「ありがとうございます。それでは荷物の確認をしてもらっても?」


「ああ、もちろんだ。」


 運ばれた荷物の一覧表を確認するメスティ。その内容を見て驚きのあまり思わず声を漏らした。ここに運ばれて来た荷物はメスティがアーネストに頼んでおいた荷物一覧表の9割近くを達成しているのだ。


 正直5割も持って来てくれれば万々歳だったのだが、それをはるかに上回る成果だ。そしてどの荷物もなんの異常もない完品だ。


「想像以上だな。これは実に助かる。ありがとうラセック。」


「いえ、仕事ですので。」


 さらりと言い切るラセックにメスティは思わず笑みをこぼす。そして荷物一覧表をパラパラとめくった最後のページに書かれている料金を見てメスティの表情は固まった。


「こ、この金額は…」


「この荷物全ての値段と護衛費用、輸送費諸々を考えれば適正価格です。何か問題が?」


「い、いや…何も問題はないよ。」


 そう言い張るメスティの内心は穏やかではなかった。正直アーネストに頼んだ荷物の半分くらいでしか考えていなかったので、金銭が足りるかどうかがわからない。


 どんどん降ろされていく荷物を眺めるメスティ。その数が増えるたびに冷や汗が止まらなくなりそうだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] よかった、アリルに素敵な友達が出来て。 [気になる点] …商人達への支援物資の支払いか… …メスティ!騎士団の内密の依頼を大成功で達成したし、支払いは騎士団と割り勘にすればいいのでは?……
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