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第36話 魔術師

「え〜それでは…おいそこ!まだ動かない。収穫方法はさっき伝えた通りだ。それでは今年初キュウリの収穫を始める。作業開始!」


「うひょぉぉ!尻子祭りだぁ!」


 人一倍テンションを上げて作業に取り掛かる河童。その様子を見ながらメスティとアリルたちも収穫作業を開始する。


 今年初物のキュウリの収量自体はまだまだ少ない。だが一度収穫が始まれば毎日2回の収穫が欠かせなくなる。1週間も経つ頃には山のようなキュウリが毎日収穫できるようになるだろう。


 そしてこの日は30分ほどかけて100本ほどのキュウリを収穫した。そのキュウリを前にした河童は目を輝かせて喜んでいる。


「メスティさん。これよく見てみると若干違うのが混ざっていますね。」


「ああ、全部同じ品種というわけではないみたいだな。5〜6種類はあるみたいだ。早速食べ比べてみようか。」


 このキュウリは全てメスティが魔力で生み出した種を用いて栽培したものだ。そして種の時にはわからなかったが、どうやら魔力で生み出した種は品種にばらつきがあるらしい。同じ品種で揃える場合にはキュウリから種を取って保管する必要がありそうだ。


 そして種類の違うキュウリをそれぞれ手に持つと皆でキュウリを味わった。品種によって多少の食感の違いや香りの違いがあるが、そこまで大きなものではない。だが河童にとっては大違いなようで涙を流して感動している。


「最高だ…やっぱり採りたてのキュウリは一味もふた味も違う…」


「俺の魔導ムロも鮮度が落ちにくいとはいってもまあ限度はあるしな。採れたてとは確かに違う。それじゃあこのキュウリを河童の村で売りさばいてきてくれ。そんでもって魚をよろしく頼むな。」


「任せておけ…ああ…最高だ……」


 キュウリをかじりながら感動し続ける河童。その様子を見たメスティはとりあえずこれだけでは物足りないので他の朝食を食べ始める。


「俺はこの後向こうに行ってくる。みんなはこっちで農作業と材料の用意。それから俺たちの家の建築を進めてくれ。」


「任せておいてください。人手が必要になったら俺たちもそっちを手伝います。」


 メスティは朝食をすませると顔を洗いに井戸へと向かう。井戸水を顔につけると目が醒めるような冷たさを感じる。なんとも爽やかな爽快感を感じながら顔を拭く。するとメスティは目の前の田んぼに注目した。


「稲もずいぶん大きくなったな。この稲も美味しかったら田んぼを増やすか。向こうの村に田んぼを作っても良いな。」


 現状ではこれ以上ここに田畑を増やしても管理が間に合わないので、ここで増やす気は無い。だが向こうの村ならばいくらでも田畑を増やすことは可能だ。


 そしてメスティは向こうの村、ワディたちの元へと向かった。メスティがついた頃にはこちらの村で朝食が始まったばかりのようで、皆ゆっくりと食事を楽しんでいる。


「おお、メスティ来たか。今朝最後の一人が回復したからもう心配はいらなくなったぞ。」


「そいつは良かった。それじゃあ飯が食い終わってから仕事を進めよう。冬が来るまでに家と畑は用意しておきたい。ゆっくりしてはいられないからな。」


 全ての病人がいなくなったことでひとまずの問題は片付いた。しかし大変なのはここからだ。冬が来る前に暖かい家と食料を生み出せる田畑を完成させなければならない。


 そんな中、今一番大切なのは家だ。100人がそれぞれ住める家を作らなくてはならない。必要な家の数は30を超えるだろう。だがそれだけ大人数となると冬場の暖房問題も起きて来る。


「独り身は何人くらいいる?」


「半数近くいるな。家族がいるものはなかなか私について来るのは難しい。独り身なら気楽だからな。」


「そうか。それじゃあ…10人くらいをひとまとめにした家を建てて住宅数を削減しよう。それから今の内から薪を集めておいてくれ。ここの冬は厳しいぞ。」


「そうか。手の空いている女子供にやらせよう。それから…シェムー!」


「お呼びでしょうかワディ様!」


 大きな杖を持って大急ぎでやって来たシェムーはまるで犬のようにワディに懐いている。ただメスティのことは警戒している。初めての出会いがあまりよろしくなかったのが原因だろう。


「メスティ。この子は魔術の加護を授かっている。何かと役に立つはずだ。」


「魔術師の加護…面白い加護持ちですね。」


 魔術師の加護。それは一般的な魔法師の加護とは違った珍しい加護だ。主に杖やマジックアイテムと言われる道具を用いて魔法を発動させる。魔法師の加護と比べて魔法の発動に手間がかかる上に時間もかかる。


 だが魔法師と比べて発動される魔法は強力で、多様性がある。だがしかし、ここでは一つだけ問題がある。


「でもうち…錬金術の加護持ちいるんですよね……」


「あ……」


 魔術師の加護は領地に一人いると良いと言われる加護だが、錬金術の加護は魔術師の加護の上位互換と言われている。違うところは錬金術の加護よりも魔術師の加護の方が戦闘能力は高いという点だ。


「だからその…まだ加護を取り立ての子では…」


「いや…シェムーは21歳だ。」


「え?俺より年上?こんなに小さいのに?」


「小さくない!っていうかお前私より年下かよ!」


 メスティはシェムーを見て頭をポンポンと叩く。正直まだ加護を授かっていない子供だと言われても信じられるレベルだ。しかしよく考えてみれば、そんな子供が一人この集団に混ざるというのもおかしな話だ。


「それからシェムーは代々続く魔術師の家系でな。魔法言語に関してはかなり詳しい。」


「へぇ〜そうなんですか。何種類まで扱えるんだ?」


「ふん!驚くなよ。すでに100言語以上は使える。しかも門外不出のオリジナル言語も使える。ちなみに空中投影なら5言語、物に刻み込むのは10言語まで使える。」


 魔法言語は一つの文字で多くの意味を持つ。文字の刻み方で魔法言語の意味を細かく決めていく必要があり、魔法言語が扱える加護でなければ扱えない代物だ。風呂のために用意したヒートストーンは魔法言語を一つでつくることができる。


「アリルはまだ魔法言語覚えている最中なのでこれは助かりますね。でもそれなら…浄化の魔法言語を使って川の水を浄化することができたのでは?」


「お前なぁ…簡単にいうが浄化の魔法言語は上級言語だぞ。そもそもまだ文字覚えてないし。」


「そうなのか?でもあると便利だから使えるようになってくれるか?文字はこれだ。使えるようになれば病気対策もできて便利だ。」


「ちょ、ちょっと待て!お前魔法言語覚えているのか!?」


「加護の性質上扱えはしないが、ほぼ全部覚えているぞ。知りたいものがあったら聞いてくれ。」


「何を馬鹿な…魔法言語は1000種類以上あるんだぞ!ほぼ全部なんて…」


「それがどうかしたのか?」


 不思議そうな表情をするメスティ。そもそも魔法言語は国によって秘匿事項となっており、魔法言語を扱う加護を持たなければ知ることができない。シェムーの親であっても500ほどしか魔法言語を知ることは叶わなかった。それを知ることができるということはつまり…


「お前もしかしてこの国の王族とかか?」


「いや、そんなのじゃないぞ。あ〜でもそうか。普通は教えてもらえないのか。俺はメラギウスの弟子だ。」


「メラギウス?……メラギウ…ス………賢者メラギウス!?!?あの賢者の弟子なのか!?いや…でもそんなのはありえない。あの賢者が弟子を取るなんて…」


「まああの人偏屈だからな。でもそうだな…証拠になるかわからないが、容量拡張とか複数の魔法言語を刻み込まれたリュックなら持っているぞ。」


「…ち、ちなみに使用文字数は?」


「50か60…70まではなかったと思うぞ。」


「こ、国宝級じゃないか!そんなものを与えられる…やっぱりお前この国の王族か何かだろ…」


「ただの一般人…いや、まあ一応貴族か。」


 怪しむシェムー。この会話を聞いていたワディですら怪しんでいる。絶対に只者ではないと。


 なんせシェムーが探知に使用していたあの杖であっても使用魔法言語は30文字もいかない。シェムーの親や祖父であっても一つの物質に魔法言語を40文字刻むのがやっとだ。それが50文字以上のアイテムを持っているとなれば怪しむのが普通。


 しかも空間拡張されたリュックなど使い勝手も非常に良い。誰もが欲しがるようなアイテムを与えられる存在。国の秘匿事項である魔法言語を1000種類以上教えられている存在。そんな存在をなんでもない一般人などと考えるのは不可能。


 そしてこの日以降、メスティはワディたちから敬われるようになっていく。そのことに違和感を覚えるメスティであったが、ワディたちの集団が嫌がらずに指示に従うようになってくれたのでまあ良いかと納得した。



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