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第34話 移動

「皆急ぐぞ。我らが早く行かねば彼が撤退できん。急がねば彼の身が危うくなる。」


 ワディの指示のもと大急ぎで移動を開始する一同。しかし生まれたばかりの赤子もいるのでそれほど早く移動はできない。だがそれでも最大限急いでいる。


「この方角に向かって進むのだ。おい、荷車は私が引く。お前はあちらを手伝ってやれ。さあ急がねば…」


「お!順調に進んでいるようだね。よかったよかった。俺も手伝うよ。」


「メスティ!もう戻ってきたのか!追っ手はどうした!」


「ああ、もう大丈夫。何人か気絶させたから残った奴らが回収してそのまま帰るでしょ。あ、服と槍返すね。」


 メスティは服を脱ぎ、槍を返した。そして大きなため息を吐くと荷車を引くのを手伝う。その様子を見たワディは心配と焦りを見せる。


「ほ、本当に大丈夫なのか?気絶させたと言っていたが…それで大丈夫なのか?」


「下手に殺せばあの手のやつらは復讐にくる。気絶させておけば助けて回収し、そのまま帰還するさ。しっかしなかなかの奴らだったな。襲撃部隊以外にも何人かいたし、魔力持ちも10人近くいた。人材豊富で羨ましい。」


「そんな奴らが……しかしその割には怪我も何もないようだが…」


「こっちは槍使ってんのに短剣使ってくる奴らの攻撃なんてくらわないよ。下手に怪我でもしたら団長とアーネストさんに笑われる。」


「…お二人と随分と親しいようだな。しかも槍術もなかなかのようだ。アーネスト様から教わったのか?」


「そりゃもう手取り足取りな。あの人優しそうで案外スパルタなんだよな。よく遊ばれたもんだよ。」


「ああ…それはよくわかる。第3部隊の訓練が一番辛いとまで言われていたくらいだからな。」


「……ごめんそれ俺のせいだ。アーネストさん俺を実験台に使っていたからな。というかあの時期に騎士団にいたのか。騎士団上層部に出入りしている子供の話聞いたことない?」


「…そういえば団長か誰かの子供が出入りしているという噂を聞いたような……それがお前か?」


「どういう噂かわからないけど多分そうかな?」


 お互いに一時期騎士団にいたということもあり、メスティとワディの会話は弾む。途中赤子が泣くのであやしたりなど多少慌ただしいこともあったが、何の問題もなく一行は進んでいく。


 だがこの地からメスティの領地まではかなり距離がある。休み無しでメスティレベルの身体強化を使って丸一日以上かかるのだ。生まれたばかりの赤子を連れてとなると10日以上かかる。いや、途中疲れを取るために丸一日の休息も必要になるだろう。


 だがメスティは加護の性質上あまり畑から長く離れてはいられない。何か対策を打つ必要があるだろう。


「ワディ。俺は加護の問題であまり長い間ここに留まることができない。食料を提供するから人目につかないように移動することは可能か?」


「可能だが…この大所帯だ。痕跡を消し切ることは難しい。追っ手が来た時に対処しきれるかどうか…」


「あれだけやってやったから数日は大丈夫だと思いたい。だが念には念を入れるか。痕跡を偽装しておく。この方角に向かって進んでくれ。俺は偽装した後一度領地に戻る。1週間後にもう一度戻ってくる。下手に道を逸れなければちゃんと合流できるはずだ。」


「わかった。…気をつけろよ。」


 メスティはその場から離脱し、丸一日かけて痕跡の偽装を行う。これだけ徹底的に偽装したのだからよほどの人員を使って追わない限りは追いつくことはできないだろう。そして再び不眠不休で家へと帰るメスティ。


 この数日間まるで休みを取らずに動き回っているが、疲れた様子は一切見せない。そして家に帰る前に祭壇にて祈りと報告をすませる。まだ彼らの安全は確保しきれていないが、祭壇で祈る限り彼らの身に危険が迫っているようなお告げはない。


「あの時もしも俺が急がなかったらあの暗殺集団によって最悪の事態になっていたかもしれないな。狙いはおそらく…あの赤ん坊か、もしくは他の何か…。だがまあ闇ギルドもしばらくは動かないだろ。」


 闇ギルド。表向きは非公認の犯罪ギルドということになっているが、闇ギルドを利用する貴族や権力者は多い。闇ギルドを敵に回せば死ぬまで追われることとなるだろう。だが逆に闇ギルドが躊躇するような敵となれば、追っ手はそうそうやって来ない。


 だからこそメスティはワディの変装をして誰一人殺さずに相手を圧倒したのだ。殺さないというのは殺すことよりもはるかに難しい。誰一人殺さずに一人で数十人の敵をなぎ倒す者が相手となれば闇ギルドといえども慎重にならざるを得ない。


 それにあれだけ念入りに移動経路を偽装したのだから数日間は追って来られない。これでメスティも安心して農作業に当たれるというものだ。


 そして家に帰るとアリル達が温かい食事とともに出迎えてくれた。メスティが留守の間も何の問題なく過ごしていたようだ。


「メスティさん!今帰ってきたんですか!?」


「ちょ…夕食自分たちの分しか用意してない…」


「タイミング悪い…今からメスティさんの分も作るのか…」


「お腹すいたな…」


「なんか…すまん。いや、自分の分は自分で作るから食べてて良いよ。ほんとごめん…」





 数日後、農作と休息で疲れを癒したメスティは再び出発の準備をする。前回は大慌てで出発したため特に何も用意することもなかったが、今回は必要になりそうな物資をいくつか用意していった方が得策だ。


「アリルの失敗作ポーションといくつかの香辛料。…香辛料も育てないと在庫なくなるな。でも基本的に香辛料系は種子が出回らないんだよなぁ…ハーブで代用するしかないかぁ…」


 香辛料や一部高価な作物は価格維持と品種保護のために種子が出回らないように管理されている。だが絶対に出回らないわけではない。裏ルートを使ってなんとか手に入れられればわざわざ街に買いに行く必要がなくなる。


「メスティさん!他に何か必要なものありますか?」


「もう大丈夫だ。それじゃあそろそろ行ってくるな。しばらく居なくなるから頼んだ。」


「念のために今できた成功作のポーションも持って行ってください。念には念を入れてです。それじゃあいってらっしゃい。」


「ん、ありがとう。それじゃあいってきます。」


 メスティは再びワディたちの元へと向かう。あれから1週間は経過したのでだいぶ近くまではきているはずだ。メスティはある程度の目測を立て、その周辺を探してみる。そして夜が更けた頃、メスティはようやくワディたちを見つけることに成功した。


「この魔力…メスティか?」


「そうだ。…まだこんなところにいたのか。俺が教えた方角から少し逸れているぞ。それに…俺の考えた予定よりもだいぶ遅れている。襲撃でもあったか?」


「いや、それは大丈夫なんだが…皆疲労が溜まっている。熱を出して寝込むものが増えてきたんだ。」


「長期間の逃亡生活にボロが出始めたのか。ポーションを持ってきた。こっちの低級ポーションは足の裏のマメにでも使ってくれ。病人の診察もしよう。案内してくれ。」


「わかった。こっちだ。」


 夜間でも灯りは最小限に抑え、誰にも気がつかれないようにしている。しかし毎日こんな暗闇の中では気が滅入るし、ストレスも溜まる。精神状態はギリギリだろう。


 そしてメスティが案内された先には10人以上の病人がいた。いや、病状の軽微なものも合わせれば30人近いだろう。非常にまずい状況だ。このまま歩き続ければ何人か死ぬ可能性がある。


「アリルのポーションが役に立ちそうだな。お湯を沸かしてくれ。簡易的にだが治療する。」


 メスティは持ちうる物資で診察と治療を開始する。彼らがメスティの領地に来るのにはまだまだ時間がかかるようだ。



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