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第32話 啓示とともに

 早朝。いつものように皆がまだ寝静まっている間にメスティは祭壇へと祈りに来ていた。そしていつもと変わらぬ祈りと報告をする。それから騎士団から受けた元貴族の保護の話も。


 その報告をした時に頭の片隅にもしも彼らが悪人だったらという嫌な考えがよぎる。その時は全て片付け、住民の獲得もできぬままこの地に戻ることになる。正直そんなことになればただ気分が暗く沈むだけだ。


 しかしその時、ふと何かを感じた。何かの声が聞こえたわけでもない。何かが見えたわけでもない。だが強烈な何かを感じ取ったのだ。そしてそれを感じ取ったメスティは笑みを浮かべて祭壇へ感謝の言葉を述べると急いで家へと戻った。


 家へと戻るとすでにアーネストたちは起きて朝食を取っており、アリルたちは朝の農作業を始めている。


「おお、メスティ。すまんが先に朝食を貰っているぞ。あまりゆっくりはしていられないのでな。」


「そうなんですか。実は俺もゆっくりしていられないようなので、もう出ます。朝食ご一緒させてもらいますね。」


 メスティもガツガツと朝食を勢いよく食べていく。その様子を見たガルはすぐにこちらに近づいて来る。それを感じ取ったメスティは食事を水で流し込んだ。


「啓示が来た。俺はしばらく留守にする。その間の仕事を頼むな。それからアリルにはポーションを大量に用意するように伝えてくれ。あと煮炊き用の薪も集めておいてくれ。それから仮設の住居が作れるように大量の板材も必要だな。」


「わかりました。ここはお任せください。…お気をつけて。」


「ああ。よし、ご馳走になりました。飯も食い終わったから行ってくる。それからアーネストさん。これが必要な物品リストです。信用のできる人間に届けさせてください。それから…金は先払いにしておきます。これだけの物資が後払いでは心配でしょうから。」


「随分と量があるな。全部は無理だぞ。」


「もちろんわかっています。優先的に運んで欲しいものには印がついているので、最悪印のあるものだけで十分です。夏ごろに運んでもらえれば十分なので。…遅くても年内にはお願いしますよ。」


「わかった。団長と相談して手を打っておこう。それじゃあメスティ…頼んだぞ。」


「ええ、それでは失礼します。」


 瞬く間にその場から消え去るメスティ。それを見送る騎士達からは思わず声が漏れる。アーネストも笑みが溢れている。


「団長も言ってたがまた腕上げたなメスティ坊は。若いっていうのは伸び代が多くて羨ましい。」


「坊?メスティさんとそんなに昔からのお知り合いなんですか?」


「おお、知ってるぞ。悪童だったあの頃からな。あの頃は本当に手がつけられなかった……おっと、これ以上はいつか本人から聞かせてもらいな。俺たちももう行くぞ。」


 アーネスト達も馬にまたがるとすぐにその場を去っていった。そして客人が去ればいつもの日常だ。ただメスティがいないとなるとまた少し違う日々になりそうだ。するとそこへ収穫物を持ったアリルがやって来た。


「お客さんもう帰ったんだ。あれ?メスティさんは?」


「昨日言ってた奴らを迎えにいくんだとさ。啓示が来たとかで大慌てで向かったぞ。お前にはポーション用意しておけってさ。」


「えぇ〜!!メスティさんいないの!しかもあの距離だと何日もいないよね!?」


「お前は本当にメスティさん大好きだな。ただ寂しがっている時間はないぞ。色々仕事任されたんだから。ほら、俺たちはもう少し仕事してから朝飯だぞ。」


「えぇ…メスティさんいないんじゃやる気が…はぁ……」


 だらけようとするアリル。しかしその言葉とは裏腹にちゃんと仕事はこなしている。何を言おうが根は真面目なため、メスティがいなくてもサボることはなさそうだ。





 静かな森の中。小鳥達が綺麗な音色を奏でているとその横を突風が吹くかの如く過ぎ去る人影があった。あまりの早さに小鳥達も一度は奏でるのを中断したが、すぐに再開しだした。


「この調子なら目的地には明日の昼過ぎには着くけど…もう少しペース上げておくか。」


 さらに速度を上げるメスティ。こんな森の中だというのにそんなことはまるで関係ないようにどんどん進んでいく。だがかなり速度を上げているせいか、わずかに呼吸に乱れが出て来た。


 しかしそれでも一向に速度を落とさない。それどころか水分補給も食事も走りながらすませている。立ち止まって休憩せずに走り続けているのだ。


 なるべく人目につかぬように、それでいて最短距離で、最速で現地へと向かっている。そんな無理矢理な行軍は夜間も続いた。月明かりを頼りにひたすら突き進んでいく。


 そしてこれだけ急いだおかげで翌日の昼前に現地にたどり着くことに成功した。しかし具体的な場所はわかっていないため、この先はしらみつぶしに探していく他ない。


「話によると最終確認地点はこの辺りらしいけど…他に情報もないし、地形もまるでわからんから適当に動き回るしかないなぁ……水の音が聞こえる。川があるな。」


 メスティはすぐに水の音がした方へと向かう。すると小さな小川だが確かに川があった。さっきの場所からかなり離れていたが、魔力で強化した耳ならばギリギリ聞こえるレベルであった。


「運が良いな。大所帯なら飲み水は必須だ。…上流側を見てみるか。」


 川を登り上流を調べていくメスティ。綺麗な水、それなりに豊富な水量。こんな川が自分のところにもあったらなと昔なら憧れただろう。ただ今は河童のおかげで水源は豊富だ。そんなことを考えながら周囲を観察するとメスティは笑みを浮かべた。


「とりあえず上流きたけど、ビンゴだな。」


 川側の雑草にわずかだが踏まれた跡がある。野生動物にしては踏まれ方が違う。おそらく大人が数人がかりでここから水を運んでいるのだろう。ここが例のやつらの大切な水源…ではない。


「ダミーの給水所だな。ここから下手に後を追えば拠点から離れたトラップゾーンに誘い込まれる。多少は頭が回るらしいな。」


 森の中に視線を向ければ隠されているようで隠しきれていない足跡がいくつも残っている。あまりにわざとらしい。足跡を消そうとした後もそれっぽく残っている。


「ただこんな形跡があるということは…誰かに追われているな。だが騎士団に討伐命令が出たのだからわざわざ他の奴らが消そうとする意味があるのか?…騎士団が秘密裏に保護するのを防ごうとしているっていう感じかな?まあだけど…こんなダミーがあるっていうことは川側を探せば他にも出て来そうだな。」


 メスティはさらに上流へと登り痕跡を探す。するといくつものダミーの給水所が見つかった。しかしダミーが多すぎる。


「こういう時はダミーに紛れて本物があるってことが多い。ん〜……いやこの感じは違うな。全部ダミーで全部本物だ。給水するたびに後を追われないように迂回して罠を張っているのか。じゃあ適当に追ってもいけそうだな。」


 適当に一つの痕跡を決めて後を追う。その道中はやはり罠だらけであったが、その全てを発動させることなく通り過ぎていく。


 そしてしばらく追っているとメスティの魔力感知がわずかに反応した。その感知したものをしばらく追っていくと大勢の人間の反応がある。どうやらここが奴らの拠点らしい。


 ただメスティはそこで困ったこととなってしまった。相手がかなり警戒しているのだ。というよりもピリついた空気を感じる。これではメスティが出て行ったら間違いなく戦闘になってしまう。


 メスティは魔力を放出させ、相手が何をしようとしているのか感知する。そして相手の人数、魔力保有者の数、そしてこのピリついた空気の原因がわかったところで目を見開いた。


「やべ…バレちゃった……でも優秀だな。」


 一瞬動揺したメスティの魔力の揺らぎに反応した魔力持ちが一人いる。そいつは元々周囲に敵がいないか探知結界を張っていた。メスティはその隙間をうまく入り込んで感知していたのだがバレてしまった。


「あ〜…臨戦態勢入っちゃった。どうしようかこれ……まあ仕方ない。なるようになるだけだな。」


 諦めたメスティは彼らの元へ行く。できる限り戦闘を避ける方法を模索するが、近づくほどに彼らの警戒は強くなっていく。そして全てを諦めたメスティは開き直って隠密を諦める。どうやら戦闘は避けられぬらしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 水源は豊富で綺麗な水だけど、出たり入ったりしてる緑ハゲのおっさんのダシが効いた水です
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