第30話 発展の始まり
第2章始まりです。
ガルたちが大量の枝を抱え畑へと運ぶ。運ばれてきた枝はメスティが一本一本丁寧に植物のツタを使って結び合わせていく。そんな結ばれていく枝は畑にいくつものアーチを作っている。ただまだまだこれでは足りないのか次から次へとどんどん枝が運び込まれてくる。
「ものすごい数ですね。正直これだけの量をこの森の中で探すのは一苦労になりましたよ。」
「キュウリのためならあの河童も我先にと働くからな。しかしこれだけ柔軟でしっかりと強度のある若木の枝なんて…本当にちょうど良いものがあったな。」
このアーチに使っている枝は河童が都合の良さそうなものがあると言って大量に運び込んでくれたものだ。この枝が無かったらはかなりの重労働になったはずだ。これのおかげで随分楽をさせて貰っている。
このアーチが完成しキュウリの苗が育てば、キュウリのトンネルがいくつも完成することとなるだろう。収穫のしやすさと見栄えの良さを併せ持ったキュウリトンネルを楽しみにしながら3日かけて全てのアーチを完成させた。
「さて、これでキュウリはしばらくそのままで大丈夫だな。米の方もそのままで大丈夫そうだな。」
「なんだか独特な匂いがしますけど、それ以外に変化はないですね。雑草も抜いておきました。問題はあれじゃないですか?」
「あれか…」
メスティが目を向ける先にはふさふさとした植物の葉らしきものが鬱蒼としている。あれは例の黒い種から生えてきたものだ。威勢良く育っているが、まだ可食部と思われるところはできていない。
一体あれがどうなったら食べられるようになるのかまるでわからない。一つ言えることはあれに関しては当面手を出す必要がなさそうだということだ。
そしてそれからの日々はいつもと変わりない。雑草抜きと作物の余分な枝葉を剪定。そして収穫と作物の作付け。
単純な仕事かもしれない。だが作物一つ一つに目を配り何か問題が起きていないかを確認しなくてはならない。多少放っておいても育つには育つかもしれないが、こまめに手を加えてやればそれだけ良いものが作れる。
ただ作物ばかりに構っていられるような状態でもない。メスティたちの新たな家づくりも本格的に始動しているのだ。すでに一階部分の家の枠組みは完成しており、二階部分と屋根もほとんど完成しようとしている。
「よーし、声揃えろ。いくぞ。せーのっ!」
「「おいしょ…おいしょ」」
揃った動きで木槌を振り下ろすガルとギッド。それによって家の骨組みにはめ込まれていく丸太。そして何度か木槌を振り下ろしたのちにメスティから止めの合図が出る。
「よし、これで大枠は完成だ。一階部分の補強は終わっているから二階部分の補強をするぞ。」
「わかりました。それにしても…村でもこんなに頑丈に作る家は見たことないですよ。」
「所詮は素人作りだからな。頑丈に作っても職人から見ればオンボロかもしれない。やれることはやれるだけやっておきたいんだよ。」
そしてメスティの指示のもとどんどんと作られていく家。かなりハイペースな家づくりは、冬が来るまでにはなんとかこの家に住めるかもしれないと思わせてくれる。
そんな中アリルは大仕事に取り掛かっている。巨大なガラス板を作っているのだ。二、三人が寝転べそうなほど巨大なガラス板にアリルはいくつもの魔法を重ねがけしていく。
「強化…撥水…修復…強化はもっと重ねがけしても良いかも。ゴー兄、そこの液体取ってくれる?」
「これか?ほらよ。休まなくて大丈夫か?」
「ありがと。でもメスティさんに確認してもらえるくらいのところまではやっておきたいの。」
アリルは錬成空間を形成し、薬液をガラス面全体に塗布する。そして再び魔法の重ねがけの作業だ。徹底的に魔法を重ねがけしていく。そしてメスティたちが一旦休憩に戻ってくるとアリルはその出来をメスティに確認してもらう。
「ん〜魔力の流れの滞りがいくつか見られるな。四隅や端が特に滞りが見られる。でもまあ…ここは割れやすい部分だからこれでも良いな。ただ割れやすいと思ってガラスの中心を強化しまくっただろ。端と中心の間、この辺りの強化が弱い。もっと均一に全面を強化できるようにならないと。」
「あぅ…失敗か…」
「でもまあ何度も強化を重ねがけしているから必要強度は確保できている。あとはこれを二重窓にするためにもう一枚同じ大きさのを頼んだぞ。」
「わかりました…頑張ります……」
しょんぼりとするアリル。しかしその後ろ姿を見たメスティは非常に満足そうだ。1年でここまで錬金術をものにできればメスティもメラギウス先生にどんなもんだと自慢できる。
アリルは非常に勉強熱心だ。メスティの当初の予定よりもはるかに早く様々なことをできるようになっている。ただこうなってくるとより上を目指すために様々な薬品の材料を揃えてやりたいところだ。
「頑張ってもこの辺じゃ手に入らないものもあるからな。高山地帯の植物に水生植物…ギルドに採取依頼出したいところだな。先生に頼めば多少は融通してくれるかな。高山地帯のやつもここで育てられれば良いんだけどな。」
メスティは畑へと目を向ける。そこには小さな薬草畑があった。アリルの予想通りメスティの魔導農家の加護が作用し、品質の良い薬草がいくつも育っている。これのおかげでわざわざ森の中へ探しにいく手間が省けた。
ただまだまだ数が少ないので、森に薬草の苗探しにいくこともある。薬草畑はまだまだ拡張途中なのだ。
するとメスティは突如街道の方を向いた。そして手近にあった棒を掴むと臨戦態勢に入る。それを見た他の者達も慌てて近くにある武器になりそうなものを掴んだ。
「て、敵ですか?」
「ん〜…敵意はないと思う。というかこの魔力の感じは…知っているやつだな。俺が応対するが、少し離れておいてくれ。いや…普通に仕事してくれて良いかも。」
メスティは棒から手を離すと街道の方へ歩いて行った。それを見た他の者達は一安心したのか休憩を終えて作業へと戻り始めた。
それから数分後、馬の駆ける音が聞こえてくると数人の鎧を身にまとった騎士たちが現れた。騎士の登場にアリルたちは驚くが、メスティはなんの驚きもないようにその場に立っている。
「おおメスティ。出迎えてくれたのか。」
「お久しぶりですアーネストさん。それに皆さんもお久しぶりです。どうしたんですか急に。休暇ですか?」
笑い声をあげる騎士達。するとすぐに馬から降りてメスティと挨拶を交わしている。どうやら敵などではなく、メスティとよく見知った者達らしい。
「休暇で来られたらよかったのだがな。一応今の名目は治安維持のための外域調査だ。だが本題は団長からお前に手紙を届けに来た。」
「手紙ですか?あの人こういうの苦手なのに…普段から書類仕事逃げているじゃないですか。」
「こっちとしてもあの人には書類仕事をして欲しくないんだがな。字が下手くそで読めたもんじゃない。」
アーネストは懐から手紙を取り出すとメスティはその手紙を受け取った。そして手紙の裏を確認すると確かにバラクの紋章の封蝋がしてある。そしてメスティはアーネストが持ってきたことと、バラクからの手紙ということで重要な書類なのだと理解する。
すぐにその場で手紙の内容を確認するメスティ。ただ手紙を見た瞬間嫌そうな顔をした。それもそのはずだ。バラクの文字は独特すぎて一般人では読むことができないのだ。
正直文字を書く練習をして欲しいのだが、逆に汚すぎてバラクのことをよく知っているもの以外はこの文字を読めない。そのおかげで昔重要書類の流出があったのだが、解読される前に回収することができたという。
それから数分かけて手紙の内容を確認するメスティ。そして手紙を読み終えるとその場で手紙を燃やして処分した。
「話の内容はわかりました。アーネストさんが届けにきた理由も。この依頼を請け負います。」




