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第28話 再び冬が終わる

「お、雪解けが始まったぞ。今年の冬ももう終わるな。」


「本当ですか!もう家の中が板材でいっぱいになっていたので良かったです。」


「もう雪降らないなら炭を撒いて雪を溶かしやすくするか。」


「良かったなアリル。春が近いぞ。」


「よ…良かったですね…私が立てる日はいつになるかわかりませんけど…」


 まだまともに動けないアリルは寝たままだ。少しやりすぎたかと思うメスティであったが、アリルの体から溢れ出る魔力を見れば正しい判断だったと納得できる。


 そして完全に雪が溶けきる前からメスティたちは新しい家のための準備を始める。まずは家を建てる場所の選定。そして掘削を始める。


 今回建てる家は基礎もしっかりとしたものなので2階建にする予定だ。どうせ作るならでかい家が良いと全員一致で決まったのだが、その分しっかりと考えて作らなければならない。


「風呂に入りに行きやすいように風呂までの道も作ろう。明かりを取り込むために窓も欲しいな。」


「アリル〜メスティさんが窓欲しいって。」


「うぅ…頑張ります〜」


「窓から家の中は冷えるから二重窓にしよう。それから暖炉の位置はこの辺りだな。この辺りから出入りできるようなガラス扉とかも欲しいな。それから灯りも欲しいな。光源になるものはいくつか種類があるけど、その辺はアリルに任せよう。」


「照明も作れってさ〜」


「うぅ…おに〜…きちく〜…」


「よし、そうと決まれば穴掘るぞ。」


 アリルに散々仕事の予定を立てさせたのちに穴掘りを開始する。ここに強化石を流し込み、家の基礎を磐石なものにするのだ。


 そして慎重に話し合いながら穴掘りを進めること2日。ようやく起き上がれるようになったアリルは家の基礎を作るための強化石待ちだと言われてしまう。だがまだアリルの魔力回路が復活していないので強化石造りはできない。


「そんなに次の仕事をしたいならお風呂を沸かして私を労って!ずっとお風呂は入れてないから入りたい!」


 さすがに怒るアリルを落ち着けるためにすぐに風呂を用意する4人。そしてアリル待ちで暇になってしまったため、畑の開墾作業に移る。そして1週間かけてアリルが復活する間に畑をこれまでの倍の量まで増やした。


「この人数だと管理することを考えればこれが限界だな。増やした分の畑は全てキュウリにして河童と取引する。残りはいつも通りだな。」


「この畑はどうしますか?」


 ガルが指差す先は河童が増水させた井戸によって池となってしまった畑だ。すでに井戸からの水は止めてあるが、雪解け水がたまりぐちゃぐちゃだ。


「周囲を盛り土して水が抜けないようにしてあるからな…いっそのことここも池にしちゃって魚の養殖量増やすのもありだな。まあとりあえず…放置で良いかな。家建てるのもあるし。」


「そうですか?まあ…メスティさんがそう言うなら……」


 メスティは他の作業に当たろうとする。しかしガルはぐちゃぐちゃの畑をちらりと見て少し考える。


「別にこれなら横の土手崩せば水はけ改善すると思うんだけどなぁ…」


 そんな疑問を抱くガル。しかしそんな疑問も建築作業が始まれば頭の中から消え去った。アリルが用意した強化石を流し込む作業が予想以上に大変なのだ。


 強化石を流し込む場所に材料を次々と運んでいく4人。それをひたすら錬成するアリル。これまでのアリルならば結構休む時間があったのだが、メスティによって魔力回路を強化された今では作業がどんどん捗っている。


「次の材料お願いしまーす!」


「ほらみんな。次の材料だってよ。急いだ急いだ。」


「こ、こんなに大変だなんて…」


「あ、アリル…もっとゆっくりやっても良いんだぞ。」


「魔力の消耗がキツイだろ。一回休んでも…」


「私が寝込んでいる間楽しそうにしてた罰です。どんどんやるから覚悟しておいてください。」


 張り切るアリル。あまり張り切りすぎて魔力切れを起こさないように常に見張っているメスティはガルたちにあと数十分もしたらバテると教えてやる。だが逆にそれまでは休めそうにない。


「あ、アリルが何か大きなものを作るとき…毎回こんな感じなんですか?」


「いや、アリルが空間収納魔法覚えてくれれば何の手間もいらないぞ。魔力量と技術的にもうすぐ覚えられると思うんだけど…まあそれまでは頑張ろう。」


 笑顔を見せるメスティ。それを見て諦めたガル達は再び材料運びを行う。そしてアリルがバテたところでその日の作業は終わった。


 そしてそんな日が2〜3日続き、ようやく新しい家の基礎作りが完了した。だがここから強化石が乾燥するまで待たなくてはならない。1週間か2週間はこのまま放置する必要があるだろう。


「その間何しますか?」


「畑もまだ作付けできるような状態じゃないからな。とりあえず…風呂場を改装するか?」


 特にやることがなくなってしまい、とりあえず手が出せそうなところから手当たり次第にやっていく。その間にもアリルは見違えるほど成長していき、ついに鉱石に手を出し始めた。


「鉱石をやるときは融点を考えてやるんだぞ。その融点に到達する前に溶けたものは不純物。融点で溶けたものがその物質だ。こまめな分離作業を忘れないように。」


「わかりました。でも…面倒ですね。その物質だけ抜き出すこととかできないんですか?」


「できるよ。ただ今のお前じゃ無理。井戸水を純水に変える原理だけどそれを固形物にすると一気に難易度が上がる。」


「試してみても良いですか?」


「ああ、それくらいは好きにやったら良い。錬金術の加護持ちで金属の分離ができるようになれば一人前だからな。」


 試しに挑戦してみるアリル。するとポロポロと一部の金属成分が分離しだした。想像以上にうまくいっているかもしれない。そこからさらにやっていく。すると


「も、もう無理です…」


「破砕させるまではできるのかもしれないが、鉱石の状態の金属は色々な物質と混ざり合っているからな。銅だけを取り出そうとしても金属化合した物質を切り離すのはかなりきつい。その過程を魔力で無理やりやるよりも、熱を加えて分離させた方が楽だ。。」


 諦めて熱での分離を開始するアリル。すると今度はあっという間に銀や銅を取り出すことに成功した。予想以上にあっさりいくので目を丸くして驚いている。


「加熱に関して言えば石灰石と変わらないくらいでできるからな。問題は純度だ。銅の方は良い感じだが、銀は結構不純物が混ざっているな。まあとりあえず今の内はこのくらいの純度で構わないから頑張れ。」


「低温帯で溶けるやつをもっと分離させた方が良いんですね。もうちょっと時間かけてやってみます。」


「それが良い。ちなみにその溶けたやつも錫だったり鉛だったりするから大切にとっておいた方が良い。ちなみに金属の熱分離は低温の方が難しいぞ。微妙な調節が必要になるからな。」


「わかりました。けどこの調子なら鉄もいけそうです!」


「鉄は少し待ってくれ。今は銅が欲しい。鉄の方は高熱が必要だからより魔力が必要になる。この調子だと一日1〜2キロが限界だろ?」


「それは…確かに。」


 1キロほどの銅鉱石から取れる銅の量は取れる銅の量は10gほどしかない。一日100キロの銅鉱石を溶かしてようやく1キロの銅が取れるのだ。今、山のようにある鉱石も溶かしてしまえばほとんどただの砂利だ。


 ちなみにその砂利はメスティが冬の間に完成させていた街への街道に敷き詰める予定だ。決して無駄にはさせない。というか捨てる場所がないので有効活用せざるをえない。


 そして雪解けが終わるまでの間、砂利運びと風呂小屋の改築を行った。そして季節は再び春を迎える。


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