第25話 河童の稽古と発案
「ほれいくぞぉ河童上手投!」「のわっ!」
「河童張り手ぇ!」「ぐえっ!」
「河童突き落としぃ!」「ぐふっ!」
「クァックァックァ!まだやるか?」
「まだまだ…もう一本。」
「良い根性だ!よし来い!!」
メスティと河童による相撲の稽古は日課となった。ガル、ギッド、ゴラスの3人も相撲を学んでいるが、まだ基礎稽古ばかりだ。まあメスティと河童との取り組みを見ているとあそこには混ざりたくないと思ってしまう。
しかしメスティがこれほど簡単にやられてしまうのは見たことがない。もう何日も相撲を学んでいるが、まるで強くなっているような実感がない。だがそれでもメスティは何度も河童にぶつかって行く。
「そろそろご飯にしますよぉ。河童さんも冷やしキュウリ用意できましたよ。」
「お!そうか。よしメスティ。今日はここまでだ。とっとと起きて飯食いに来い。」
「くそ…ありがとう……ございました………」
真冬だというのに身体の中から汗が噴き出してくる。こんなに疲れるのはそうないのだが、ここ最近は毎日こんなふうに疲れ果てている。
そして食事も驚くほど食べる。メスティ一人分だけ別で用意しておかなければ他の者達が食事にありつけないほどだ。今日も一人で大鍋一つ平らげてしまった。
「よく飯を食べるのは良いことだ。じゃあ昼からは用事があるから帰るぜ。」
「また明日もお願いします。」
「おう!それじゃあな。」
河童による相撲の稽古は半日だけだ。午後からはメスティは一人で自主訓練を行い、他の者達は板材作りに励む。すでに100枚以上の板材ができているが、家を建てるのにはまだまだ足りない。
「それじゃあ丸太取ってくるから頼んだ。」
メスティは今年の冬はほとんど外へ出ている。これまでの冬とはまるで生活が違う。それもこれもあの河童による影響だ。この程度の寒さで動けないなどと弱音は吐けないと気合いを入れ直しているのだ。
そんなメスティの移動方法はすり足だ。これが相撲の基本ということでこの基本を徹底的に身体に覚えさせている。そして移動時の体勢は中腰だ。中腰のすり足。これを徹底的に身体に叩き込む。
そんなメスティの通った後の雪は荷車の轍の跡ができているようだ。そしてその体勢のまま移動すると木の伐採を始める。
メスティの今年の冬の目標は相撲を覚える。そして街へ続く街道を作ることだ。作業自体は順調でこの調子なら春までに街道は完成する予定だ。
「強くなるぞ。あの河童から一本取れるくらい…そのくらい強く!」
ギラギラと闘志を燃やすメスティ。そして翌日も河童に何度も投げられるのであった。
そんな日々が何日も続いたある日のこと。いつものように相撲を取っているメスティの耳にアリルの悲鳴が聞こえた。一体何事かと皆で慌て、急いで家の中へ入るといつもよりも蒸し暑くなっていた。
「一体何が…」
「ご、ごめんなさい。失敗しちゃっただけです…」
球状の石をバケツへと移すアリル。それを見たメスティはああなんだと納得した。
「ヒートストーンを温めすぎたんだな?」
「あぅ…ほどほどにって言われていたのに…ごめんなさい……」
「なんですかヒートストーンって。」
「物体の温度を一定状態に保つ練習の一環で作る魔道具の一種だ。球体状にした石に魔法言語を刻み込んで暖かい石を作るんだよ。魔法薬の加熱の基礎練習にもなるし、鉱石を加熱、溶解して鉱物を取り出す基礎にもなる。ただ調整を間違えるとアッツアツになって火傷するから気をつけないといけない。何度まであげちゃったんだ?」
「80度ほどです。30度くらいのヒートストーンを使って暖房がわりに使えるかと思ったんですけど…」
「ヒートストーンは雪国とかだと重宝する。まあ魔力のある人間にしか使えないけどな。ここでも役立つから作れたのはありがたい。ちょっと見せてみな。」
メスティは失敗したというヒートストーンを手に取る。80度はあるので本来は危ないのだが、魔力で手を保護すればこの程度なら問題ない。
「魔法言語のここの部分が少し荒れたな。ここで魔力回路が崩れて異常発熱を起こしたんだ。」
「毎回そこのところで躓くんです。はぁ…もう一度頑張ります。」
「ああ頑張ってみろ。これは破棄しておいた方が良いな。」
メスティはそのヒートストーンを持って外で破壊しようとする。このようにミスを犯したヒートストーンは異常発熱を起こし、場合によっては石が爆発して怪我をすることがあるため、破壊するのが基本だ。その様子を見ていた河童は口を出した。
「それ使ってお湯沸かせば風呂に入れるんじゃないか?」
その言葉に反応する一同。風呂。それは一部の貴族などが持っている贅沢品だ。人が入れるほどのお湯を大量の薪で沸かし、入浴するという身体を清潔に保つ方法。
「ヒートストーンは案外冷えやすいから風呂を沸かすほどとなると大量のヒートストーンが必要になるんだ。それに高温度のヒートストーンは作る際は気をつけないと火傷して危険だ。だから…」
「雪の中入る風呂は最高だぞぉ。体の芯まで温まる。それにここには井戸から水があふれているから掛け流しの露天風呂が作れるぞ。」
河童による甘い誘惑。だがヒートストーンは基礎ということで甘く見られるが、火傷する確率が非常に高い。生産系の加護を持つものがヒートストーンで火傷した古傷を笑い話として見せるのはよくある話。
女性であるアリルにそんな一生残る怪我をさせられない。させられないのだが、メスティは頭の中で風呂を作るためにヒートストーンが幾つ必要になるのか計算してしまう。
「相撲かいた汗を流せる場所ができるのは良いと思いますよ。それに私も…お風呂に入ってみたいです。肌も綺麗になりそうだし…」
「…80度ヒートストーン20個。60度ヒートストーン40個。50度ヒートストーン40個。これでなんとかいけるはずだ。60度なら大丈夫だと思うが、80度ヒートストーンは危ないから気をつけろよ。いいか?絶対だぞ。」
「わかりました。気をつけて頑張ります。」
「それから河童は防水用の泥を頼む。お前たちは風呂に使う木材の準備。桶とかもあったら良いな。」
「わかりました!」
「そして俺は穴を掘る。よしやるぞ。娯楽の無いこの場所に入浴施設を作るんだ。」




