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第19話 懐かしの家

「はぁ〜楽ちん…荷車良いですね。」


「異空間収納使えた方が何倍も良いわ。お前も早く覚えてくれよ。錬金術の加護は数少ない異空間収納の魔法が使える加護なんだから。」


 街道を荷車を引きながら走るメスティ。荷車の中には荷物が落ちないように支えているアリルの姿がある。荷車のせいで行きと比べかなり速度が落ちたメスティたちは休む時間を減らして走り続けている。


「だけどまさか入国した時に国民登録していてくれたなんて…これで私やお兄ちゃんたちは流民扱いじゃなくなったんですね。」


「俺の入国許可が下りるのは時間がかかると思っていたからな。どうせならまとめてやった方が楽だ。一応俺も貴族だからな。多少のわがままは通用するんだよ。」


「ありがとうございますお貴族様、メスティ様……あ!メスティさん!森が見えましたよ森!」


「ようやくか。この時間にここにつけたなら…今日中には帰れそうだな。」


 ホッと安心し息を吐くメスティ。そして自分がそんな感情を抱いたことに驚いた。今や街よりもこの森の方が心は落ち着くようになっているとは思っていなかったのだ。ただアリルも同じ感情を抱いたようで、もう街暮らしは難しいなと思う二人であった。


 そして森の中を移動し始めるメスティだが、これが予想以上に困難を極めた。木々の隙間を縫いながら荷車を運ぶのは実に難しい。そして二人が悪戦苦闘しながら家へとたどり着いたのは夕方であった。


「もっと早く着くと思ったのに…」


「た、大変でした…ちゃんと道作りましょう。道。」


「ああ、約束する。道は絶対に必要だ。」


「あ、メスティさんだ!アリルも!おーい!帰って来たぞぉ!」


 出迎えに来てくれたガル、ギッド、ゴラスの3人。メスティたちがいない間なんの問題もなく、畑の管理もしていてくれたようだ。久しぶりの3人を見て嬉しくなったメスティは手を挙げて一人一人ハイタッチをする。


「おかえりなさい。」「ただいま」パンッ


「楽しかったですか?」「慌ただしかったけどそれなりにな」パンッ


「お土産買って来てくれました?」「もちろんだ」パンッ


「おう、邪魔してるぞ。」「ああ…」ヌルッ


 流れでハイタッチをしていったメスティは最後の一人の気持ち悪いハイタッチの感触に思わず動きが止まった。それにここには3人しかいないはずだ。一体4人目にハイタッチしたのは誰か。ゆっくりと顔を向けるメスティ。するとそこにはあの緑の男がいた。


「うわぁぁぁ!緑の禿げたおっさん!!」


「誰が緑のハゲ頭じゃい!河童さんだろうが!」


 そこにはなぜか3人の他に街で会った河童の姿があった。驚きで腰を抜かすメスティ。それを見たアリルを含めた4人は河童に対して警戒する。


「メスティさんの知り合いってことで今まで泊まらせていたのに…」


「キュウリが主食っていうから食べさせていたのに…」


「やっぱりただの知らない緑ハゲ…」


「え…えっと…なぜここにいるんですか?緑ハ……河童さん。」


「おい嬢ちゃん。今ほぼ言ってたからな。緑ハゲはやめろ緑ハゲは。お前ら失礼すぎんだろうが。必ず遊びに行くって約束しただろうが。だから来たんだよ。この尻子玉…じゃなくてキュウリは夏の間しかないんだろ?だから大急ぎで来たぜ。」


「え?あ…そんなに気に入ってくれたんですか。」


 驚きと嬉しさが混ざり合った不思議な気持ちに陥るメスティ。しばらく呼吸を整えるとその場から立ち上がる。


「こんなに早く来るとは思ってもいなかったので…申し訳ない。」


「まあキュウリたらふく食って機嫌が良いから許してやる。普段だったら張り手よ張り手。まあそれよりも飯にしようぜ飯に。」


 上機嫌でその場を仕切る緑ハゲ…ではなく河童。その言葉に従うのも癪だが、実際ここまで走って来たせいで腹は減っている。それに時間も時間だ。夕食の準備をするのにもちょうど良い。


 メスティは久しぶりの畑に目をやる。そこには元気に育つ野菜たちの姿があった。3人が一生懸命育ててくれたおかげだ。あまりの嬉しさに若干涙目になる。


 これから夕食の準備ということなら井戸で水の一杯でも汲んでいこう。野菜を洗うのにも使うし、料理にも使う。それに久しぶりのこの地の水を飲みたい。街の水と比べてもここの水は美味しい。


 そして荷車を家の前に起き、井戸の方へ向かうメスティ。するとそこには井戸から溢れる大量の水と、その水によって水没した畑があった。


「な…な…なに…こ……これ……」


「それが聞いてくださいよ。この緑ハゲ…じゃなくて河童が急に井戸の奥底に現れたと思ったら一晩も経たぬうちに水が溢れ出て…そのまま畑に流れ込んじゃったんです。」


「作物はなんとか全部収穫したので被害はなかったですけど、畑は完全に潰れちゃって…」


「緊急処置としてそこの畑から他の畑に水が流れないように土手を盛り上げて粘土で水が染み込むの抑えて…大変だったんですよ。」


「クァックァックァ。すまん!まあ作物に被害ないから良いだろ?」


「この…ハゲーー!!ざけんじゃねぇぞクソガッパァ!!ぶち殺してやるぅ!!!」


「わぁぁぁ!メスティさん落ち着いて!ちょ…アリル!手伝って!!」


「ちょ…なんで街の時よりも怒っているんですか!河童さん謝ってぇ…」


「クァックァックァ。わりぃわりぃ。」





 翌朝。久しぶりの祈りの時間だ。祭壇の前まで行き、街での出来事を報告していく。


「おかげさまで懐かしい面々と会うことができました。皆元気そうで何よりです。それから様々な道具が買えたのでこれからは農作業も楽になりそうです。これまでと比べてより豊かな暮らしになりました。あとそれから……このクソガッパに天罰を降してください。」


「悪かったって。それにしても毎日祈ってんのか?よくやるわ。めんどくさくね?」


「黙れクソガッパ。その口2度と叩けねぇようにしてやろうか。」


「お前畑とか農作物関連にはブチギレすぎだろ。それよりも戻って飯にしようぜ。さっきこっちに来る前に畑見たら美味そうな尻子玉がなってたんだ。」


「尻子玉じゃなくてキュウリだ。マジでなんなんだよ尻子玉って。というかタダ飯は食わせねぇぞ。メシ食いたきゃ働け。というかここに居座るつもりか?」


「しばらくは居る予定だ。キュウリが欲しいっていう他の河童が多くてな。俺が橋渡ししなくちゃなんねぇ。」


「やっぱり河童は本名じゃなくて種族名か。キュウリが欲しいなら売ってやる。ちゃんと金は払えよ。」


「わかってるよ。ちゃんと用意しているから焦るな焦るな。」


 メスティの頭をポンポンと叩く河童。それに苛立つメスティはその手を払いのける。そして自分の頭に触れると髪の毛が微妙に濡れている。そのことにさらに苛立つメスティだが、河童は笑っている。


 こうして街から帰還したメスティは一時的かもしれないが、住民を一人手に入れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 河童の中の人は小峠かな
[一言] クソガッパが、祭壇に生贄として捧げられそうです!
[良い点] …カッパ再登場!…ハゲとかクソガッパって言われてますが… [気になる点] …水没した畑か…水田になるかな?…上質な水があるなら…米だけでなく…ワサビなんかも良いかも!…苗があればの話…
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