第17話 買い物と懐かしの
「これ4つとこれ7つ。それからこれも頂戴。後これも買うから少しまけて。」
「ええ、もちろんですよ。お値段勉強させていただきます。このくらいでどうですか?」
「ん〜…その値段にこいつもつけてくれたら買おうかな?」
「いやぁ…それは参った。ですがまあ…よろしいでしょう!」
爆買いするメスティはほどほどの値引きをしながらどんどん買い物を続ける。本当はもっと値段をまけたいところだが、値段を下げることに時間を食うわけにもいかない。買い物時間を考えながらの値引きを考えると今ぐらいがちょうど良いのだ。
「よし、次に行くぞ。」
「め、メスティさん!リュックの中がもう…」
「マジか…食料か農機具系なら時空ムロの中に入れられるけど、それ以外は無理だぞ。」
元々かなりの量が入っていたリュックサックの中はもう限界だ。しかしまだまだ欲しいものは山ほどある。メスティは今後必要なものとそれがどれだけの量になるかを考え、一つの結論を出した。
「荷車を買おう。痛い出費だが、今後も使う機会はあるはずだ。」
「馬車じゃなくて荷車ですか?そうなると帰りって…」
「安心しろ。俺が引いて帰るから。荷車はあっちの方で売っていたはずだ。」
予想以上の荷物の量に荷車も買うこととなったメスティたち。余計な出費になったが、作物が想定よりかは高めに売れたのでまだ懐に余裕はある。それに先生からもらったお小遣いもある。それも考えればこの程度の出費はたいしたことない。
そして荷車を買ったメスティたちはさらに買い物を続ける。そして徐々に店が閉まり始める夕方頃、メスティたちは予定していた買い物を終えた。
「なんとか間に合ったな。金も多少残ったし…何か欲しいものはあるか?」
「わ、私ですか?別にそんな……あ、でも服とかは欲しいかも。」
「服?」
アリルの現在の服装を見るメスティ。アリルの洋服は現在メスティのお下がりを裁縫し直したものだ。ただそれもかなり使い込んでいるので所々ほつれが見える。
よくよく考えればアリルに限らず、他の兄弟たちもメスティのお下がりだ。そしてメスティ自身着替えを渡してしまったため、着替えが少ない。それに冬場のことを考えれば毛皮の服だけでなく、街で売っている性能の高い冬服も欲しいところだ。
「田舎暮らしが長くて俺も服のことは忘れたてたわ。急いで服を買い集めよう。多くても無駄になることはないはずだ。アリル、お前自分の分を買ってこい。俺は自分の分とガルたちの分を買っておく。服屋はこの時間じゃ閉まり始めるはずだ。急ぐぞ!」
「わかりました!」
再び慌ただしい買い物が始まる。残りの金は全て服に費やしても良いと思う覚悟で買い物を始める。ただし新品の服を買う余裕はないため、全て中古だ。しかしそれでも辺境の村育ちのアリルにとってはどの服もおしゃれに見える。
どれが良いのか迷ってしまいそうになるが、メスティの言う通り服屋はもう閉まる時間のようだ。そこでアリルはとりあえず服を数着手に取り、いっぱい買うよアピールをする。こうすれば追い出されることはないはずだ。
その後30分ほどかけて10着ほどの服を選んで購入したアリル。少し買いすぎかとも思ったが、冬場に重ね着する用の服もあるのできっと問題ないはずだと信じる。そしてアリルの購入と同時に閉められた店から出た。そして周囲を見渡すがメスティの姿はない。
「お兄ちゃんたちの分もあるから時間かかっているのかな?探しに行くと迷いそうだからここで待ってた方が良いよね?」
今購入した服を見ながら笑みを見せるアリル。これを着た時にメスティが喜んでくれるか楽しみなのだ。そしてただ待っているのも暇なので魔力操作の練習をする。
街にいている間はメスティが付きっきりで魔力について教えてくれるので随分と上達した。これならば家に戻った時にすぐに薬品開発ができるはずだ。そして夢中になって魔力操作しているアリルの近くに何者かがやってきた。
「ちょっと良いかしら?随分高い魔力を持っているようだけど…魔法学校の生徒じゃないわよね?」
「え?」
バッと振り向くアリルの視線の先には数人の同年齢ほどの者達がいた。そして反射的に眼を魔力強化したアリルは先頭に立つ女の高い魔力量に驚く。
「え…えっと…あの……」
「モゴモゴしてないで答えてくれる?魔法学校の生徒じゃないわよね?」
「あの…どちら様ですか?」
アリルはとっさに何者なのか聞いた。まあ当たり前の行動といえばそうなのかもしれない。しかしアリルが一番重要なのは魔法学校の人間でないことがバレることだ。そして怯えるアリルを見た女はハッと気がついた。
「ごめんなさい。確かに大人数で急に詰め寄ったら怖かったわね。安心して。私たちはこの国の騎士見習いよ。今は街の巡回中なの。怪しい人がいないか見回っていたんだけど、あなたが魔力を操作しているのがわかってね。勤勉な魔法学校の学生かと思ったんだけど、あなたのこと見たことがなくて。さすがにその魔力量と魔力操作技術を持つ子がいたら知らないはずないから。」
「そ、そうなんですか。実は今、人を待っているんです。迷わないようにここから動かないようにしているんですけど、まだかなぁなんて思ったりして。お腹も空いたから早くきてくれないかなぁ。あ、どこか美味しいお店とか知って…」
「話をはぐらかそうとしても無駄よ。あなたは魔法学校の生徒なのか否か。魔法学校の生徒でない場合は他国から来た留学生とかなのかしら?」
「え…あ!実はそうなんです。この国のことは勝手が知らなくて…」
「嘘ね。他国の魔法学校から留学生が来た話は聞いてないわ。こんな簡単な引っ掛けにハマるなんてね。あなたのことを拘束します。抵抗しても無駄よ。この人数相手に逃げることも戦って勝つことも無理よ。」
アリルの腕を掴む女。アリルは恐怖で持っていた服を落としてしまった。ここからどうすれば良いのかわからない。このままではメスティに迷惑をかける。なんとかしてこの窮地から抜け出さなくてはならない。
しかしアリルの加護は戦闘向きではない。対する相手は騎士見習いということだから戦闘に関しては圧倒的に上だ。心臓が激しく脈打つ。するとそこへ荷車の音が聞こえた。
「ポーラ。その子を放してやってくれないか?俺の連れなんだ。」
「め、メスティさん…」
「メスティ?」
振り向く女。他の者達も声のした方を向き、驚きで声を失う。そしてメスティがポーラと呼んだ女も驚きで言葉も出ない。
ポーラはまさかいつも自分より上にいた魔法学校始まって以来の天才と呼ばれた男、メスティがこんなところにいるとは思いもしなかった。しかもその服装は小汚く、なぜか荷車を自分で引いている有様だ。
そしてその姿を見た他の騎士見習いたちは笑い始めた。中には笑いすぎて地面を転げ回っているものすらいる。だがポーラは笑わなかった。笑いよりも悔しさが圧倒したのだ。
「…久しぶりね。だけどなぜあなたがここに?魔導の加護を得たあなたはこの国へ入国することは許されないはず…」
「王に報告書を提出しに来たんだ。そのついでに必要なものを買い出しに来た。そこにいるアリルはうちの村の住民だ。なんの問題もない。」
「問題はあるわ。魔力を持つものは国へ報告の義務が…」
「だから王に報告書を出しに来たって言っただろ?だからなんの問題もないはずだ。」
「あ…」
動揺しているポーラは簡単なミスを犯した。王へ報告されているのならばポーラたちが出る幕はない。ポーラがアリルをつかんでいる手を離すとアリルは服を拾い、急いでメスティの隣へと移動した。
「大丈夫だったか?」
「は…はい。」
「よかった。ポーラ、手数をかけてすまなかったな。今や騎士見習い筆頭ってところだな。おめでとう。」
「…あんたは今どうしてんのよ……」
「森の奥を開拓して暮らしているよ。この子、アリルとその兄弟が移住して来てくれたから今は住民が俺を合わせて5人だ。順調な暮らしだよ。こういう暮らしも悪くない。」
笑顔で答えるメスティ。その表情は対照的だ。辺境に追いやられたメスティが笑顔を見せ、今や騎士見習い筆頭として将来も約束されたポーラが苦虫を嚙みつぶしたような表情をしている。するとそこへ一人の騎士見習いが割り込んで来た。
「メスティ!あの天才メスティ様が落ちたもんだな!アッハッハッハ!!あ〜腹が痛い。あの頃はお前より下だったかもしれないけど、今じゃ俺の方が圧倒的に上だな!落ちぶれたもんだ!アーハッハッハ!」
「そうだなゲストルニー。戦士の加護を得て、騎士見習いになったお前には敵わないよ。」
「そうだろ?アーハッハッハ!」
ここにいる騎士見習いは全員メスティと同学年だったものたちだ。騎士見習いは最低でも3年、長くても5年で騎士へと昇格する。来年の今頃にはポーラや他数名は騎士になっていることだろう。




