第14話 想定外が続く
「あ!メスティさん。もう用事は良いんですか?」
「ああ、タイミングが良かったみたいでな。すぐに済んだ。俺も一杯飲んだらそのままギルドに…飲む金ないのか…」
「ここだと一杯が限界でした…」
手持ちの金が完全に尽きたところでメスティとアリルは店を後にする。そろそろギルドの方で昨日の出荷分の金が貰えるはずだ。そう思いギルドに向かった2人だが、そこで思いもよらぬ出来事が起きた。
「え!?まだ納品料の査定が終わってないどころか出荷すら終わってないの!」
「申し訳ありません。実は今日商人の方が臨時で買い付けを行いまして…そちらの方に時間がかかってしまいメスティ様の分はまだなんです。」
「これは…予想外だったなぁ…」
本来今日終わるはずだった査定が急遽入って来た商人によって予定がずれ込み、今日中の査定すら困難になってしまった。査定が終わるのは早くても明日の朝になるという。
「遅くなってしまいますが、その分査定の方には色をつけさせていただきますので。」
「それはまあ…嬉しいですけど……まあ明日1日あるからなんとかなるか。」
今日中に金が入り、ゆったりとした買い物ができる予定であったが、その予定が全て崩れた。まあどこで何を買うかはすでに決まっているため、買い物時間を短く済ませるのは可能だろう。
そしてギルドを後にする2人はこの後の予定が完全に無くなってしまった。
「どうしますかこの後…食事するお金もないですよ?」
「そうだな…まあ書類も渡したし…先生のところに行くか。あの人なら多分大丈夫だろ。」
「先生?もしかして魔法学校に在籍していた時の先生ですか?」
「いや、それ以前からお世話になっている人だ。世間一般には変人として知られているから気をつけろよ。飯も奢ってくれないかな?」
案内するメスティについて行くアリル。今いる場所から随分離れているようで小走りでズンズンと進んで行く。そして30分ほど経った頃、柵に囲まれた鬱蒼とした森の横にたどり着いた。
「相変わらず庭の手入れなんて全然してないな。ああ、ここから入るぞ。」
「ここって…ただの穴じゃないですか……」
柵が壊れたのか人が潜り込める穴が空いている。そこから手慣れているように潜り込み、森の中をズンズンと進んで行く。アリルも逸れないように必死について行く。すると突如森が開け、寂れた噴水の前に出た。
「綺麗な噴水ですね。」
「ああ。俺も気に入ってる。ただ先生はただの水生薬草を育てる場所にしている。見た目とかそういうのは気にしない人だから。そこら辺のものに触れないようにしながらついて来てくれ。」
ふらりふらりとあっちへ行ったりこっちへ行ったりするメスティにぴったりとくっついて行くアリル。するとメスティは一つの石碑の前に立ち、急に石碑を殴り壊した。
「め、メスティさん何を!」
「大丈夫大丈夫。ほら、見てごらん。」
メスティが指差す方向を見るアリル。するとそこには立派な屋敷が紙をめくるように現れ出していた。そしてものの1分も経たぬうちに目の前を巨大な屋敷が覆い尽くす。
「こ、これって…」
「隠匿魔法の一種だ。適切な手順を踏むことで姿を表す館。錬金術の奥義の一つだ。」
「錬金術ですか!錬金術の加護を使えばこんなことが…ということはつまり…」
「ああ、先生はこの国唯一の錬金術の加護の使い手だ。隠匿結界破ったから俺が来たことに気がついたと思うけど…」
屋敷に目を向けると一人でに屋敷の扉が開いた。まるでこちらを招いているようだ。メスティもすぐにそのことに気がつき、その開いた扉から屋敷の中に入る。
屋敷の中はそこら中に怪しげな置物や薬品が散乱している。まるで物取りにでもあったかのようだ。しかしメスティはいつものことだと言わんばかりにズンズン進む。そんなメスティについて行くアリルは一つの部屋へと入った。
「やっぱりここでしたか。お久しぶりです先生。」
「……」
無言のままなんの返事もしない一人の老人。これがメスティの先生らしい。しかし明らかに機嫌が悪そうな表情をしている。そしてそれはただの見かけだけではなく、何かを書き綴っている書類の文字の乱雑さを見れば間違いなく機嫌が悪いのだとわかる。
するとメスティは慣れた手つきでその辺に置いてある書類を手に取りパラパラとめくる。アリルもメスティの後ろからその書類に目を通してみるが、そもそも何が書いてあるかすらわからない。
そんな時間が1分ほど経った頃、再びメスティは口を開いた。
「またポーションの改良研究しているんですか?このアプローチは斬新で画期的とは言えますが、これまでの最高値を叩き出したポーション開発と組み合わせるのは無理でしょうに。しかも結果は散々じゃないですか。まあどうせどっかの貴族にたまには役に立つ研究しろとか言われてやっつけでやったんでしょ。でもまあアホな貴族ならこれで満足するでしょ。」
メスティの言葉にピクリと反応し、一瞬動きを止める老人。だが未だに機嫌悪そうに書類を作成している。ただ書いている文字は先ほどよりも殴り書きではなくなった。
その後もその辺にある書類に目を通しながら文句を言っていくメスティ。側から聞いているとそんな悪口を言ったら間違いなく怒るだろうと思うが、メスティが文句を言うたびに老人の機嫌は良くなっていく。
そしてメスティが一息ついたところで老人はペンを置いた。
「ふん!わしの研究書類を見てボロカスに言うのはお前くらいのものだ。」
「ここにあるのはどうでも良い、くだらない研究書類ばかりでしょうに。あとで面白い研究書類も見せてくださいよ先生。」
「溜まりに溜まった研究を見せてやろう。…よく来たな馬鹿弟子。」
「とりあえず飯食べさせてもらっても良いですか?腹減っちゃって。」
笑いながらなんとも図々しい注文をするメスティ。だがそれを聞いた老人はすぐに用意しようと何処かへ連絡をする。
「飯が届くまでしばらく待て。それで?その後ろの小娘は誰だ?なかなか強力な加護を持っているようだが。」
「今俺が預かっている錬金術の加護を授かった子です。今年授かったばかりのペーペーですよ。」
「は、初めまして。アリルと申します。」
「名乗る必要はない。名前なんぞ覚える気は無い。」
冷たく突き放す老人。それを聞いてびくりとするアリル。だがそれを聞いたメスティは笑っている。
「安心しろアリル。この人は人の名前なんて片手で数えられるくらいしか覚えてないぞ。そのくらい人に興味がないんだ。」
「わざわざ覚えたところでなんの役にも立たんからな。ちゃんと国には報告したのか?」
それを聞いて焦るアリル。錬金術の加護は有用な加護。国に知られればメスティの元にはいられなくなる。だが焦るアリルをよそにメスティは笑っている。
「もちろん報告しましたよ。その上で嘆願書を出してアリルを俺の元に置いてくださいとも書いておきました。ただ国王陛下には会えなかったので門番の時間帯警備主任に渡しておきました。」
「何?王には会わなかったのか?」
「王は忙しいと言われてしまい書類を渡しただけです。紛失していなかったら今頃王がその種類を読んでいることでしょう。」
「ヒヒヒ…そいつは以前言っていた優秀な門番と言う男か。」
「ええ、実に優秀です。あれほど優秀な扱いやすいやつはなかなかいませんよ。ああ、対の書類を預かってもらえますか?これが証拠になりますから。」
「以前わしがくれてやったものだな?隠匿の紙も使ったな?」
「ええ、大事な書類ですので誰かに見られないように国王陛下以外には俺が国に戻りたいと言う旨を書いた書類に見えるようにしました。これで俺は臣下としての礼は果たしました。もしも書類を紛失したのならそれは国王陛下の落ち度になりますから、俺の責任ではありません。」
にっこりと微笑むメスティ。それを横で聞いていたアリルはメスティがこの国についた初日に城の方をじっと見ていた理由がわかった。門番が誰かを確認していたのだ。そしてその実に優秀だと笑いながら言う門番、ミロトパースが来るのを待っていたのだ。
「お前の前では愚者も立派な駒となるな。さすがはメスティ。我が一番弟子よ。そしてわしすらもその駒にしようとしている。」
「この国の大臣であるあなたに俺がこの国に来て、王へ報告書を出したと言う証拠を渡せば王も知らぬ存ぜぬでは通せませんから。うちは人手不足なんです。優秀な人材はあげませんよ。」
にっこりと微笑むメスティ。それを聞いた老人は満面の笑みを浮かべる。それを見て聞いていたアリルはゴクリと唾を飲み込んだ。
この国唯一の錬金術の加護を持ち、大臣であるこの老人が手放しで褒め、そして片手で数えられるくらいしか人の名前を覚えていないと言うその中に入っているメスティ。
メスティという人物のことはある程度わかったと思っていたアリルだが、メスティはその想像を超えるほどの大物なのかもしれない。




