第13話 王への書類
「ったく本当に泊まりやがって。ただでさえ狭いのによ。」
「しばらく見ないうちに随分子供増えたな。ちゃんと働けよハド。」
「がんばれはどぉ〜」
「お前たちはちゃんとお父さんと言いなさい。」
早朝、ハドウィックの子供達に懐かれたメスティは子供達のおもちゃにされている。アリルはというとハドウィックの奥さんに妙に懐いてしまいずっとべったりと付きまとっている。いきなり泊まりに来たというのに随分馴染んでいるものだ。
「ほら、朝ごはんできましたよ。お父さん手伝って。」
「メスティさん!これ私が作ったんですよ!ルーナさんに教わったんです!」
「へぇ美味そうだ。飯を充実させるためにも調理器具も増やすか。色々入り用になりそうだな。」
「買い物はお前らだけで行ってこい。今日は商人の護衛依頼が入ってんだ。飯食ったらすぐに出る。」
「あらそうなの?それじゃあ…私ついていきましょうか?」
「大丈夫大丈夫。俺だってこの街で暮らしていたんだから大体のことはわかるよ。ルーナさんは身重なんだから家でゆっくりしてて。」
ルーナに心配されるメスティ。だが4人の子供の世話を妊娠している状態でしているルーナの方が心配だ。アリルもそんなルーナが心配だからこそずっと離れずにいるというのもあるのだろう。
「あの嬢ちゃんずっと離れないな。あんなブルブル震えてたのに…まるで別人だな。」
「あいつは口減らしで兄弟全員村から追放されたんだ。もしかしたら母親が恋しいのかもな。」
「…そうなのか。あ!もう時間だ。」
「じゃあ俺たちも行くか。ほら、アリルも行くぞ。」
「え〜〜…」
「いってらっしゃい。メスティちゃん。今日も泊まるところなかったらうちにおいで。」
「あ〜そうさせてもらおうかな。宿代浮いたらその分色々買えるからな。」
「本当ですか!わかりました!それじゃあいってきますねルーナさん!」
「はい、いってらっしゃい。美味しいご飯作って待っているから。」
ルーナに見送られてようやく動いたアリル。今日もやらなくちゃいけないことが数多くある。早速街へと繰り出すと周囲の露店や店舗の商品を見て回る。
「市場価格は変動しやすいからな。価格変動に対応できず、安い値段で売ったままの店舗もある。そういう店舗を探すぞ。」
「わかりました。必要なのはなんでしたっけ?」
「農機具を4人分…少し多めに買っておいても良いかもな。それから塩なんかの調味料。飯を美味くしたいから調理器具。あと一番はお前用の調合器具だな。薬品なんかも買い揃えたい。」
「そこらへんに売っているものなんですか?」
「薬草なんかは売っていることもあるが…機材はどの程度の性能が売っているかわからない。だけど確か…そこだ。そこの店舗はそういったものを取り扱っていたはずだ。」
メスティは記憶を頼りに一つの店舗へと入る。そこは確かに薬品の調合に使用しそうな機材を取り扱っている。買い揃えるのならここが良いだろう。しかし店内を一周したメスティとアリルはそのまま外へと出た。
「…想像以上に高かった。」
「あれは…今回作物売ったお金じゃ足りなくないですか?」
「さすがに厳しいことになるだろうな。ただ他で探してもろくなものないだろうし…これは少し考えなくちゃいけないな。とりあえずもう少し見て回ろう。ギルドから金が出るのはもう少し時間がかかる。」
とりあえずアリルの錬金術の加護に必要な機材を後回しにして、農機具などを見て回る。一定ラインの品質と価格からどこで買うか店舗を絞り込む。これでギルドから金を受け取ればすぐに買い物ができる。
そのまま色々見て回っているとメスティたちはまた城の正門が見える位置までやって来た。するとメスティはまた城の方をじっと見つめる。だが今日はそれで終わらない。城を見たメスティは周囲をキョロキョロと見回し始めた。
「アリル、俺は少し野暮用があるからそこの喫茶店で飲み物でも飲みながら待っていてくれ。」
「え?別に待つのくらいその辺でも…」
「店内にいた方が余計なトラブルを避けられる。金は…これだけあれば飲み物一杯くらいは頼めるはずだ。」
「わ、わかりました。じゃあその店で待っていますね。」
「頼んだぞ。」
アリルに待機を命じ、一人歩き去るメスティ。そんなメスティが向かったのは王城だ。ここに来るのもいつぶりだろうか。すると王城の門の前で止められた。
「止まれ。ここから先は王の城であるぞ。」
「俺のことは知っているはずだ。魔法学園のメスティだ。王と謁見したい。」
「魔法学園のメスティ?おいおい、そんなやつはもういないぞ。いるのは追放された哀れな天才、メスティくんだろ?」
門番の後ろから一人の男が出て来た。その男を見た瞬間メスティは明らかに嫌そうな顔をした。そしてそれを見ると男はなんとも満足そうな表情を浮かべた。
「今日の門番はお前かミロトパース…」
「おいおい、口の聞き方には気をつけ給えよ。今日の警部主任は私だ。私の一存で全てが決まる。」
「お前にそんな権限はない。王に会わせろ。」
「ダメダメ。王はお忙しい。いきなり来て王に会わせろなどとふざけたことを言ってはいかん。」
「俺には王に会える権利がある。それに街に滞在できるのはもう明日までだ。できるだけ早く返事が欲しい。だから会わせろ。」
「では今から王に話を通す。明日には返事を出そう。それで良いな?」
「ダメだ!今すぐに会わせろ!」
詰め寄るメスティ。その剣幕に慌てる他の門番。しかしミロトパースは優越感に浸りながらメスティのことを一笑した。
「おお怖い怖い。そんな真似をされると今すぐに取り押さえて明日まで牢に入れる必要がありそうだ。」
「それは!……勘弁して欲しい。すまなかった。じゃあせめてこの書類を王へ渡して欲しい。滞在先も記入してある。すぐに読んでもらって明日の夜までに返事を…」
「ふん。まあ…そのくらいは良いだろう。ほら、よこせ。」
メスティは大切に書類を取り出してミロトパースに手渡す。そして騒ぎすぎたと謝罪してその場を後にした。
メスティが去ったのちにミロトパースは書類を持ったまま王城の中の誰もいない部屋へと入った。そして封を開けて中をさらりと確認する。
「嘆願書か。あの天才様も辺境の森の中での暮らしは堪へられないか。ククク…これはなんとも笑える。前々から気に食わないと思っていたが…こうなるとあまりにも哀れだな。さて、これはちゃんと王に届けてやろう。」
ミロトパースは笑いながらメスティからの書類をひらひらと動かす。すると書類は突如発火し、どんどん燃えかすがそこら中に散らばり始める。
「おっと…私は届けようという気持ちはあったのだが、部下に任せたら紛失してしまったようだ。ああ、残念残念。綺麗さっぱり何処かへ消えてしまった。クククク…これでやつはもう1年は国へと近づけない。もう少し辺境暮らしを楽しみ給え、哀れな元天才。」
ミロトパースは身体を震わしながら大声で笑いそうになるのをこらえる。そして笑いが落ち着いた頃に部屋から立ち去った。
そしてミロトパースが立ち去った部屋は数時間後には清掃が入り、綺麗さっぱりと片付けられた。もうメスティの書類を王が見ることはない。




