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第11話 懐かしの街へ

「え!?今から街へ行くんですか?」


 血相を変えて荷物をまとめているメスティに4兄弟たちは驚き慌てている。まさかこんなにもいきなり街へ行くなど思いもしなかった。


「我が神からそういう啓示が出たんだ。それには従わなくちゃならない。街へ行くのは俺とアリルだ。お前たちはここに残って作物の世話をしてくれ。」


「世話をって…収穫した作物はどうするんですか?流石に3人じゃ食べきれないですよ。」


「それは…ちょっと待て。」


 メスティはおもむろに時空ムロを開く。するとその時空ムロに大量の魔力を注ぎ込んだ。


「収穫した作物はこの中に入れてくれ。多分…半月は持つと思う。それまでには戻る。アリル、早く準備を。」


「え…でも…お兄ちゃんたちは……」


「ここから街までは普通に歩くと半月はかかる。魔力持ちの俺たちでも5日はかかるだろう。今回はお前らの国民権取得や錬金術に必要な機材の買い出しがあるからゆっくりはできない。作物の出荷に何日かかるかもわからんからな。」


「でも…」


「アリル、にいちゃん達は大丈夫だから。行ってこい。」


「俺らがいない間の仕事は頼んだぞ。それに…今回国民権取得したら俺と違って制約のないお前らはいつでも街に行けるからな。来年以降ちょくちょく街までお使い頼むと思うからその時は頼んだぞ。」


 時間に制約のあるメスティはできる限り急ぎたい。アリルも納得したのかすぐに準備を開始し、ものの20分ほどで街へと出発した。




「アリル!もっと全身を身体強化させろ!走るからといって足だけを集中して強化させるな。走るのには全身の筋肉を使う。だから足だけ強化しても他の身体の部分が追いつかない。」


「わかり……ました………」


 出発から1時間。まだ森の中を抜けられていない。このペースで移動しても森を抜けるのは今日の昼過ぎになるだろう。ただアリルの身体強化練習にもちょうど良いと思っていたが、この足場の悪い森の中を走るのはかなり厳しそうだ。


 そもそも錬金術の加護は戦闘には向いていない。身体強化や攻撃系の具象化魔法に対するデバフがつくらしい。それがどの程度のものかはわからないが、魔力操作があれだけできるアリルがこの程度走っただけでこれほど疲れるのを見たらなかなかのデバフなのだろう。


 そしてさらに30分が経った頃、アリルはついに立ち止まってしまった。連続身体強化運動時間は1時間半が限界らしい。この様子では当分休息が必要だろう。


「すみませ…はぁ……はぁ…」


「気にするな。むしろよくここまで走れたな。しばらく俺の背中で休め。」


 多少アリルの息を整えたところで背負うメスティ。息切れと恥ずかしさと嬉しさから顔を紅潮させるアリル。だが次の瞬間にはそんな気持ちは消え去っていた。


 アリルを背負って走り出すメスティ。その速度は今までの数倍早い。この1時間半の間はアリルのことを考えゆっくり走っていたのだ。あまりの速度に恐怖を感じたのかメスティにしがみつくアリル。


 それからものの3〜4時間で森を抜けてしまったメスティはそのまま街道を全速力で走る。整備されていない森の中と比べ、街道に出たメスティはさらに早い。


「すごい…森の先にこんな草原があったなんて……」


「一時期はこの草原を使って大規模な牧畜をしようと考えていたらしい。だがこの草原の中に幾種もの毒草が混ざっていてな。家畜の大量死が起きてからは街周辺の徹底管理された草原でしか牧畜をしていない。当時は森の祟りだなんだと騒がれたらしいぞ。」


 びっくりするアリル。それはこの草原に関する知識もだが、それ以上にもう4時間近くもこんな速度で走っているというのに息を切らすことなく会話できるメスティに驚いている。


「こんなに走っているのに…息を切らさないんですね……」


「こんなただの移動で息を切らしていたら万が一襲われた時に対応できない。走って移動する時は絶対に息を切らすな。身体強化も重要だが、心肺機能も魔力強化できるように訓練するんだぞ。」


「わかりました。」


 メスティの求めるレベルに正直引いているアリル。だがそれでもメスティが求めるものを得られたその時には間違いなく今とは格の違う存在になれる。


 そんなことを思いながらその日は結局メスティの背中で1日を終えたアリル。夜に草原の中で地図を確認するメスティは何やら考え込んでいる。


「どうしたんですか?」


「いや、ずいぶん誤算だった。この調子なら後3日で街にたどり着きそうだ。魔導の力で身体強化がかなり強化されているな。」


「魔導の力…やはりすごいですね。」


「俺の場合はそうでもないさ。戦闘系の魔導の加護を持っていれば街まで1日2日で着くことだろう。俺のはあくまで魔導の力で魔力の出力が上がっているだけだ。魔力を10使うのと100使うのじゃ全然違うだろ?」


「なら魔導の力じゃなくてメスティさんがすごいんです。本当にすごいです。…私たちとは全然違う。住む世界が……」


 アリルは俯く。メスティと自分では明らかに住む世界が違う。メスティはほぼ追放された状態だが、それでも地位的には貴族の地位だ。さらに魔法の知識だけでなく、様々な知識を持っている。アリルの持っていないものを全て持っている。


 それを聞いたメスティは頭を掻きながら考え込む。そして大きくため息をついた。


「違う違うって…俺は元々村生まれだぞ。お前らと同じような人里離れた小さな村だ。記憶はあんまりないけど、自給自足で生きているような何もない村の生まれだ。」


「え!?貴族の家の生まれとかじゃ…」


「あの頃の記憶はほとんどないけど、隙間風が入ってくるような小さな家が貴族の家だというなら俺は貴族かもな。」


「そうなんですか!?でも記憶がないって…」


「まだ小さかったからな。それに今はもう存在しない村だ。…異常発生のモンスターに襲われてな。村の生き残りは俺だけらしい。」


「モンスターって…あの魔大陸に存在するっていう…あれですか?」


「そうだ。本来こっちの方じゃ現れないんだが、数年に1度自然発生するんだ。俺の村を襲ったやつは十数年に1度ってレベルの怪物らしくてな。騎士団が助けに来なくちゃ間違いなく俺も死んでた。」


 メスティの学生時代の話は聞いたことがあったが、それ以前の話は初めて聞いた。そんな危険な目にあったからこそメスティは自衛のために高いレベルの力をつけようとする。


 それを聞いて思わず謝るアリル。しかしそんなアリルに、謝る必要はないと笑顔を見せるメスティ。メスティとしてもそのモンスターと出会ったショックで両親の顔も思い出せない状態なのだという。覚えていないからこそ逆に寂しくもないし、悲しくもない。


「その村で保護されてからしばらくは騎士団に世話になってな。ある程度の年齢になってから魔法学校に行くことになった。本当は孤児院に連れて行かれるはずだったんだけど、保護された際に魔力持ちだとわかったらしい。大切に育ててもらったよ。魔力持ちは希少だ。闇組織に子供のうちから拐われることもざらにある。お前も気をつけろよ。」


「わかりました。…それじゃあメスティさんは騎士になりたかったんですか?」


「そうだな……正直なりたかったというよりも騎士になるものだと思ってた。そしたら違う人生になった。ただ自分でも驚くことに騎士になれなかったのは別に悔しくもなんともない。まあ追放されたのは辛かったけどな。まあ今の生活は楽しいよ。」


 照れながらそう言い放つメスティ。そこに嘘はない。すると唐突にメスティは悩みだした。そしてぼそりと呟く。


「アリル…お前……街に住みたいか?」


「え?きゅ…急にどうしたんですか?」


「お前の持つ錬金術の加護は引く手数多のレア加護だ。それこそ魔導の加護に次ぐ希少加護と言える。この国にも…俺の知る限り1人しか存在しない。しかももう高齢だ。国としても跡継ぎが欲しい。」


「それって…」


「お前がその気ならこの国はお前をすぐにでも雇うってことだ。それも破格の待遇でな。…他の兄弟たちもお前が口利きすれば国が雇ってくれるだろう。」


 これはあまり言いたくなかった事実。アリルはメスティがこの先豊かに暮らして行くのには欠かせない人材だ。しかしだからと言ってアリルをメスティの元に縛り付けて良い理由にはならない。


 もしもアリルが国に雇われるようになれば10年、20年後には大臣の座につけるだろう。それだけじゃない。大勢の貴族がアリルを欲する。伯爵クラスの貴族であってもアリルへ求婚するだろう。たとえアリルが平民の、それも小さな村から追い出された少女だとしても。


 それを聞いたアリルは考え込む。すると急にもじもじしながら顔を赤らめた。


「そ、それじゃあ…メスティさんは私を引き留めるためなら…どうしますか?例えば…結婚しちゃうとか…」


「え?それは無理だ。」


「な゛!!」


 バッサリと切り捨てるメスティ。その答えを聞いて思わず涙が溢れ出しそうになる。それを見たメスティは不思議そうな表情をする。


「有用な加護持ちが結婚する際には国からの許可が必要だ。強力な加護持ち同士が結婚し、子を成すとその子供も強力な加護を持つ可能性が高くなるからな。俺は魔導の加護持ちだが、有用さが示せてない。お前は超有用な加護だからな。国が俺とお前の結婚は認めないよ。この話前にしただろ?」


「そ、そうでしたっけ……」


「したと思ったんだけどな…他のやつにしたんだっけ?本来魔導の加護持ちなら10人でも100人でも側室持つこと許されるんだけどな。まあそういうわけだから俺が結婚できるかどうかは今後にかかっているんだよ。」


 魔力を持たないもの同士が子を成した場合、子供が魔力を持つ可能性は1%もない。しかし両親が魔力持ちの場合は子が魔力持ちの可能性が20%まで上がると言われ、祖父母の代から魔力持ちの場合は50%までその確率が上がると言われる。


 そのため魔法学校に通うものはほとんどが貴族で平民の割合は10%ほどだ。メスティやアリルのような平民で強力な加護を持つものというのは非常に珍しい。


「まあそういうわけだから俺がお前を引き止められる材料は何もない。楽な暮らしもさせられないからな。だからお前が豊かな暮らしを求め、国に士官したいというのなら俺は止めない。いや、止めるべきじゃない。本来お前のことを考えるのなら国にお前のことを報告して、すぐにでも国に雇ってもらうべきだ。お前が俺の元にいるのはただの俺のわがままだ。」


 アリルがこれ以上メスティの元にいる必要はない。全ての理由を考えてもアリルはここにいるべきではないのだ。だがアリルは嬉しそうな表情を必死に隠しながら震える声で言った。


「ま、まあメスティさんのわがままに付き合っても良いですよ。恩もありますし…ここで学ぶことは多いですから。」


 アリルはメスティのわがままだけで求められているのが嬉しかった。メスティはアリルを求めている。その事実だけで良いのだ。


「そ、それよりも明日もあるので今日は早く休みましょう。夜更かしは禁物ですよ。」


 アリルは飛び跳ねるほど喜びそうになっているのを察知されないように眠るふりをする。それを見たメスティはわずかに嬉しそうな表情を見せると難しい顔をしながら書類の作成を始めた。



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