+Blue Plan-et
少年二人。
月が綺麗な晩、僕はいつものように彼と並んで歩いていた。彼はいつものように、とぼけた顔でそれでも決して隙を見せないスナイパーの様に、慎重に歩を進める。
「だからさ、」
彼の話は何時だって接続語から始まる。
かといって、彼の話は常に先の話題との関連性を持っているわけじゃない。反対に、全くと言っていいほど繋がりが無いことはもう、すっかりおなじみで解りきっているけれど、そこで野暮な茶々を入れることを僕はしない。
「俺はやっぱりまず月に行く算段を立てるべきだと思うんだ」
彼が口にしたのは、やはり先ほどまで僕と議論していた『どのメーカーのナイフが一番切れるか』と言う話とは全く繋がりの無いものだった。
彼の中ではセラミック加工してあるO社のそれが一番だという決着がついたのかもしれない。
その点に関しては僕も異論が無かったので、深く追求しないことにする(だけど、ココだけの話し、僕は本当は刃がぴかぴかに磨かれたM社のものと、折りたたみ方が斬新でカッコイイS社のものと甲乙つけ難いと思っている。けれど彼が話題にしたのは刃の鋭利性の話であって、機能性または装飾性の話ではないのだ)。
それでも僕は、いつものように、もしかしたら彼の中では月とナイフはとても重要な関連性を持っているのかもしれないと考え直し、月とナイフの関連性を必死に考える。
確かに今夜の月の光は、研ぎ澄まされたナイフの刃のように綺麗だ。だが、僕に解るのはそこまでだった。
しかし、彼は僕がどんなに真剣に悩もうと気にすることは無く、火星で火星人を探すよりも、月にムーンベースを造る方がよほど重要であるという持論を熱心に話してくる。
彼曰く、
「ビー玉」
僕はそこで再び眉を潜める。
彼の話にまた関連性を感じなかったからだ。月とビー玉の関連性から言えば、同じ球体である以上ナイフよりも関連性が高そうな気がする。
僕が訝しげに彼のほうを振り返ると、彼は地面にしゃがみこみ、そして転がっていたなにかを拾い上げた。
彼はその手の平のものを月の方へと翳した。
ビー玉だった。
彼の手の中でビー玉はピカピカと輝いている。青いビー球は図書室においてある科学誌で見た人工衛星によって撮影された地球の姿とそっくりだ。
なんとなく僕はナイフと月とビー玉の関連性が解った気がした。
月夜に拾ったビー玉を集めて月のクレーターをいっぱいにするのだ。きっとそれは酷く綺麗に違いない。大きなクレーターいっぱいのビー玉は太陽光を反射して、いっそう輝くのだろう。月に出来たガラスの海。そのためにはムーンベースは不可欠だ。
そして、その綺麗な海に惹かれた火星人を追っ払うためには、大変切れ味の良いナイフが必要になる。勿論、O社製のナイフを持って果敢にも火星人と対峙するのは、僕と彼だ。
きっとH.G.ウェルズだって、想像できなかったであろう未来に、僕達は英雄となるのだ。
火星人はタコ型派です。