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相討ち覚悟でも転移は覚悟していなかった


*初めての小説作品で稚拙に思われることもあるかもしれませんが、自分なりの表現で作品を伝えたく奮闘しております。





 俺は社会の理不尽に殺された。


 いや、自業自得なんだけど、殺された弟の仇討(かたきう)ちを目論んで返り討ちにあいました。



 薬物乱用で思考がぶっ飛んだチンピラの揉め事に巻き込まれ、弟は喧嘩相手と間違われてナイフで刺された。

唯、偶然、その場に居合わせてしまっただけだった。

 何の罪もない、家族想いの真面目な弟だった。無念だっただろうな。大学進学を目前にしての事件だった。


 その場で犯人は捕まらなかった。混乱に乗じて逃げ(おお)せたらしい。

 目撃情報を頼りに、俺はついに犯人を突き止めた。だが、通報するつもりなんてなかった。

 

 たとえ捕まったところで、生温(なまぬ)い刑罰しか与えられない。法で裁かれたとしても、遺族は到底納得できない。亡くした者はどうしたって還らない。

 犯人には被害者の痛みや苦しみ、遺族の辛さも解らないままだ。残酷な罪人に無慈悲な罰を与えられない理由があるとすれば、罪人にも人権があるからだろう。


 犯罪が憎い。犯罪者が振り翳す権利が憎い。被害者遺族の心まで護れない法が憎い。やり場の無い怒りに満ち、無謀にも仇討ちに乗り出した。

 法が与えられないなら、俺が同じ苦しみを与えてやる。そう意気込んで挑んだはいいが、浅はかでお粗末な計画故に失敗した。

 俺は仇討ちも果たせず間抜けな人生を終えた。



ーーー



 見憶えの無い路地だな。確かアイツを刺し殺そうとして····。

 逆に抑え込まれて胸を刺された瞬間までの記憶はある。そうだ!! 俺は刺されて····。


「うっ·······ん? ····刺されたトコ痛くない。つーか傷も無い。どうなってんだ?」


 頭がぼんやりしてて、上手く思考が纏まらない。怪我も無いし身体(からだ)は動くようだけど、立ち上がるとフラつく。それに、なんだか気持ち悪い。めちゃくちゃ車酔いしたみたいだ。

 壁にもたれて立っているだけで精一杯だ。見上げると、屋根と屋根の隙間から空が見える。曇ってるみたいで薄暗いけど、どうやら夜ではないらしいな。

 右も左も、路地を抜けるにはそこそこ距離がある。今はまだ、到底歩けそうにない。どうしようか····。


 ちょっと落ち着け俺。考えろ。ここはどこだ? なんで生きてんだ? なんで怪我ひとつしてないんだ?

 どうなってんだよ······。


 どのくらい時間が経ったんだろう。状況を整理しようと考えているうちに、座りこんで眠ってたみたいだ。

 先刻(さっき)よりも空が暗くなった気がする。少し眠ったおかげか、最初に目覚めた時よりかは身体が軽い。頭も段々スッキリしてきている。

 そろそろ辺りを探ってみようか、と思った矢先。



「大丈夫ですか?」


 トンッと軽く肩を叩かれ、ぎょっとして振り返った。そこには、心配そうな面持ちで俺を見ている青年が居た。身なりは整っていてめちゃめちゃ爽やかだ。


「····あ、はい。えっと····」


 誰だ? 突然の事で言葉が出てこない。


「あのー、具合が悪そうですが大丈夫ですか? 病院行きますか?」


「····いえ、大丈夫です····えーっと····」


 聞きたいことは山ほどあるが考えが纏まらず、オドオドと受け答えしかできない。


「何かお困りですか? 何かお手伝い出来ることはありますか?」


 とんでもない好青年だ。どう見ても悪人ではない。


「僕はここを抜けた所にある法律事務所で働いている者です。お困りでしたら少しお話を聞かせていただけませんか?相談は無料ですので」


 にこやかに手を差し伸べてくれるこの好青年は、祖父が営む法律事務所で弁護士見習いをしている(はかり)と名乗った。歳の頃は弟の駿(しゅん)と同じくらいか。

 体調が万全ではない上に見知らぬ場所で不安だったせいか、俺は素直に秤君について行った。


 語れるほど多くを憶えてはいないが、状況を整理するがてら経緯を説明した。それを聞いた秤君は、不思議そうに言った。


「不躾な事を伺いますが、あなたはこの国で生まれたんですか? 最近他の国から来たということはありませんか?」


「····どういう事ですか?」


「あなたの話を伺う限り、この国では少々考えにくい事があります」


「はぁ····」


 訝しげな顔をする俺に、彼は丁寧に説明してくれた。


「まず第一に、あなたの弟さんを殺害した犯人です。この国にも少なからず犯罪者は存在しますが、あなたが調べられた限りの薬物中毒者なら周囲に知られないはずがない。野放しにされるはずがないんです」


「そりゃそうあれば良いんですけど····」


「第二に、取り逃した犯人をすぐに逮捕出来なかった事。警察がそんなミスをするなんて、余程の知能犯かCPのシステムエラーか」


「ちょ、ちょっと待って。CP····? いや、いくら警察が優秀でも、万能ではないだろう。取り逃した犯人を捕まえるなんて、そんな簡単に出来ないことくらい俺にだって解りますよ」


 彼は少し考えてこう言った。


「やはりあなたはこの国の人間ではないのでしょう」





ーーーーー



公平(きみひら) (かなめ)

年齢:26歳、身長:179cm

人権により護られた殺人犯に仇討ちしようとして失敗。

返り討ちにあい死亡のち転生。

趣味:パズルゲーム

一人称:俺


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