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キノコの総攻撃を報告します

 叫びと共に破裂音が響き、ケヴィンの腕にキノコが生える。

 中央がへこみオレンジ色を帯びた黄褐色の傘は、カラハツターケだ。

 ケヴィンに毒キノコが生えるのは珍しいが、これは恐らく怒りの感情に反応したのだろう。

 キノコを道連れに怒りをあらわにするケヴィンに対して、クロードは硬い表情のままだ。


「フィリップに婚約者がいることは、皆把握していたと思う。だが本人がろくに社交の場に出ないから、気にしていなかった。婚約してしばらく経ってからはフィリップの悪評が和らいだから、婚約者のおかげだろうという話になっていたが」

 ケヴィンがむしったカラハツターケを受け取ると、クロードはため息をつく。


「それもアニエスのフォローでそう見えただけで、あいつ自身は変わっていないんだろうな。婚約破棄騒動後は、また昔のように評判が下がっている。……まあ、ここひと月ほどは社交の場に顔を出していないようだが」


「正式に木端微塵に振られて、クロード様と一緒の姉さんを見て、ショックでも受けたんですかね。今更ですが。ざまあみろですが」

 ケヴィンは少し楽し気に話しているが、アニエスはフィリップ……というかキノコの影響が気になってそれどころではない。



「……どうしたの? アニエス」

 いつの間にか黙ってうつむいて考えていたらしく、クロードが声をかけてきた。

 気分が悪いのだと誤解されてはいけないと、すぐに顔を上げる。


「いえ、その。……フィリップ様は、ここひと月ほど社交していないんですか?」

「さすがに詳しくは知らないが、姿は見かけないし、話も聞かないね。気になるの?」

「いえ、気になるというか。フィリップ様そのものよりも、その。……キノコが」

「キノコ?」

 意外な答えだったらしく、クロードだけでなくケヴィンまで不思議そうにアニエスを見つめる。


「あの舞踏会でフィリップ様とお話した時。髪をまとめて地味な色で目立たなくしているのは私のためだと……いえ、ルフォール家のために言っているのだと思っていました。それが違うとわかって、フィリップ様に大量のキノコが生えたんです」


 キノコ発生報告に、二人とも驚愕の表情を浮かべた。

 ケヴィンはフィリップの長年のノー・キノコ枠扱いを知っているので、キノコが生えたこと自体に驚いているのだろう。

 だがクロードは明らかに羨ましそうにしている気がする。


「そうか。それを本人の口から聞いて、ようやく呪縛が解けたのか。どうせ姉さんを再び自分のそばに置こうとしたんだろうけど、逆効果だったんだ。ざまあみろ」

 ケヴィンが悪役にしか見えない笑みを浮かべているが、何だか楽しそうだ。



「そ、それで。どんなキノコが生えたの?」

 鈍色の瞳をキラキラと輝かせて、クロードが身を乗り出す。

 キノコの変態にキノコ大量発生という言葉は、刺激が強かったのだろう。


「……説明、するんですか?」

「うん」


「全部ですか?」

「うん」


「……わかりました」

 幼子のような澄んだ瞳でうなずかれれば、断るのも難しい。

 顔にワクワクと書いてあるように見えるのは、気のせいではないだろう。


「まず、フィリップ様の腕にツチグーリが生えました」

「ああ。あの形がいいよね」

 キノコに対して相槌を打てるのは、キノコの変態くらいだ。

 妙な関心をしながら、あの日のキノコを思い出す。


「何故か、オレンジ色でした」

「何? そんな色は見たことがない。新種?」

 キノコの変態の食いつきが良すぎて、思わず体を引いてしまう。


「いえ。たぶん、私のせいだと思います。以前にもそんなことがあったので」

「そうか。オレンジ色のツチグーリ。……もう、ただの剥きかけのオレンジだな」

「その通りです」

「そうか。オレンジ色か。見たかったな」


 遠い空に思いを馳せているのだとしたら格好良いが、キノコに思いを馳せているのだと知っているので、どうにも格好良く見えない。

 キノコはときめきを相殺する。

 アニエスはひとつ、キノコに対する理解を深めてしまった。



「それからツチグーリが増えて、両腕に二つずつ合計四つになり、フィリップ様に胞子を吹いていました」

「いいね!」

 絶対、相槌を間違えていると思うのだが、話が進まないので放っておく。


「それで頭の上にカエンターケが生えて」

「おお! あの猛毒キノコが。それは見事な頭飾りだな」


「あと両肩にブリーディングトゥースーが生えて」

「おおお!」

 だんだんとクロードの歓声が大きくなってきた。


「背中にはタコスッポンターケがびっしりと生えて」

「壮観だな!」


「口の中にドクササーコが生えました」

「何と!」

 悩ましげなため息をつくと、クロードは興奮冷めやらぬといった様子で、背もたれに体を預けた。


「それは凄いな。物理攻撃力の精鋭が揃っている。なんて羨ましいんだ。夢のキノコの饗宴だな」

 キノコの襲撃報告に恍惚の表情を浮かべるクロードには、呆れてしまう。



「ねえ、キノコの名前じゃ全然わからないよ。どんな感じだったの?」

 ケヴィンの意見はもっともだ。

 一般人はキノコの名前も、毒の効果や見た目もわからないのが普通だろう。


「ええと。剥きかけのオレンジを左右二つずつ腕につけて、そのすべてから胞子が顔に向かって吹き出し。頭の上に赤い鹿の角のようなものを乗せて。両肩には白塊から赤い汁を滴らせて服を染め。背中に臭いタコの足をはりつけています」


「……最悪だね」

「はい。控えめに言っても、大惨事かと」

「そうだな。賛辞を贈りたい」


 サンジが違うと訂正する間もなく、クロードの腕にキノコが生える。

 黄金色の傘はコガネターケだろう。

 何やらめでたい色合いだが、これはクロードの言葉に影響されているのだろうか。



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週末に婚約破棄系暴走女子&意地っ張り男子のラブコメを同時連載予定。

今夜の活動報告でタイトルを公開します。



【今日のキノコ】


カラハツタケ(辛初茸)

オレンジ色を帯びた黄褐色の傘を持ち、饅頭型・平・漏斗型に変身するキノコ。

消化器系の中毒症状を起こす毒キノコ。

強い辛味があるので、辛みを感じた場合は飲み込まないこと……その前に、よくわからないのに口に入れるのをやめればいいと思う。

ケヴィンの怒りに賛同して生えてきた。

「毒が効く前に吐かれても、辛みで攻撃できる」と自分のセールスポイントをアピールしている。


第一次フィリップ総攻撃部隊(積年の恨みを晴らし隊)

ツチグリ(土栗)

カエンタケ(火炎茸)

ブリーディング・トゥース(流血する歯)

タコスッポンタケ(悪魔の指)

ドクササコ (毒笹子)

フィリップの長年のノー・キノコ枠が外れた際に、総攻撃を仕掛けたキノコ達。

ちょっと語りつくせないので「キノコ姫 第一章 邪魔者は、消えますから」参照。

特にドクササコ先輩の命がけの特攻は涙なしには語れない……かもしれない。


コガネタケ(黄金茸)

黄金色の粉で覆われた傘を持つキノコで、別名はキナコタケ……相当粉っぽいという評価だ。

一応食用キノコだが生で食べると中毒を起こすので、茹でよう。

というか、そこまでして何故食べるのか、キノコの勇者達。

賛辞という言葉にめでたい響きを感じ、「めでたいと言えば黄金色だよね」と傘を張って生えてきたが、何やら空気を読み間違えたらしい。

少し切なくなり、粉がパラパラ落ちている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怒りのカラハツタケ登場とケヴィンの2回に渡る『ざまあみろ』でジワジワきて、クロード様の『いいね!』で我慢出来ずに噴出しました(笑) 積年の恨みを晴らし隊の説明をするアニエスとどんどんテン…
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