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キノコに呪われています

「こんばんは、アニエス。今日のドレスも似合っているよ」

「……ありがとうございます」


 今夜も馬車を降りると、目の前で麗しの王子が出迎えてくれる。

 もはや恒例行事だが、どうにかしてほしい。

 クロードは自分が王位継承権第二位の王子だということを、もう少し考えた方がいいと思う。


 他の馬車の送迎にまで影響が出かねないので、せめて混雑する時間をさけようと時間ギリギリに到着するようにしていたが、さすがに今日はそういうわけにもいかない。

 クロードの兄である王太子の婚約を祝う舞踏会なのだから、遅れるような失礼があってはいけない。

 必然、混雑の中の到着となり、今も各地から痛いほどの視線が向けられている。


 というか、たかが伯爵令嬢が王太子の結婚祝いの舞踏会に参加してもいいのだろうか。

 契約とはいえ最終日なのだから、もうそのまま契約完了で解散していいと思うのだが。

 アニエスが小さなため息をつくと、クロードの白い手袋に黄褐色のキノコが生えた。


「スギターケだね。この傘に散りばめられた鱗片も美しい。それに傘と柄で肉の色が違うというのもまた、興味深い」

 長々とキノコについて語っているのはどうでもいいので聞き流す。

 だが、どうしても流せないことがあった。


「……クロード様。何故私のドレスの装飾とクロード様の上着の装飾が同じなのでしょうか」



 アニエスの今日のドレスも、クロードから贈られたものだ。

 淡い水色のオフショルダーのドレスは、幾重にも重ねたチュール生地を腰のあたりで留めるデザインだ。

 ふわふわとしたドレープが可愛らしく、清楚な印象である。


 問題は腰と胸元の装飾だ。

 矢車菊を模した濃い青の花はとても可愛らしいが、クロードの黒い上着の胸を飾るのもまた、同じ花だ。


「ひとめぼれで首ったけなんだぞ? これくらいは当然だろう。いい加減に慣れてくれ」

「百歩譲って同じ装飾はまだしも。この色は、クロード様の髪の色に似すぎています」

「それはそうだ。俺の髪の色で発注したんだから」


 しれっと答えるクロードの腕に、更なるキノコが現れた。

 濃い青色の傘はコンイロイッポンシメージだが、何故会話と噛み合った色のキノコが生えてくるのだろう。

 キノコの感度が上がり過ぎて、キノコと一緒に会話している錯覚に陥ってしまいそうだ。


「クロード様こそ、いい加減にご自分の立場を考えてください。王子の髪の色と同じ装飾をつけたパートナーだなんて、必要以上の憶測を生みます」

「大丈夫だ。アニエスが揃えたわけじゃなくて、俺が贈ったドレスなんだから」

「なお悪いです」

 不満を訴えていたアニエスは、クロードの胸の花飾りに恐ろしいものを見つけてしまった。



「……クロード様。気のせいでしょうか。胸元の花がキノコに呪われています」

 青い矢車菊の合間から、青いキノコが顔を覗かせている。

 腕に生えたコンイロイッポンシメージと違って、やたらと艶々輝いているし、小さい。

 気のせいでなければ、あれは街で買ったキノコのブローチではないだろうか。


「いいだろう? 色も合っている」

 クロードの掛け値なしの微笑みに、どこからか黄色い声が上がった。

 本当に、この変態キノコ王子は、自分というものをもう少し理解した方がいいと思う。


「青と青ですね。はいはい、お似合いです。……なるほど、それでキノコのブローチを持って来いと仰ったのですね。どうぞ」


 アニエスが取り出したのは、ピンク色のキノコのブローチだ。

 今回のドレスが届けられた際に、舞踏会にはキノコのブローチも持ってくるようにと伝言されていた。

 どうやら、クロードの胸元を二色のキノコで飾りたかったらしい。


「どうぞじゃないだろう。そっちは、アニエスのキノコだ」

「……まさか、私もキノコに呪われろと仰るのですか」

 既に呪われているというのに、追撃ということか。

 思わず眉間に皺を寄せると、クロードは首を振った。


「なら、俺のキノコと交換するか?」

「その前に、何故キノコに呪われることは確定しているのですか」

「何故って。キノコは素晴らしいし、アニエスとお揃いは嬉しいし、いいことづくめじゃないか」


 眩い笑顔に、アニエスの眉間の皺は更に深くなる。

 どうやら、キノコのブローチをつけることは決定しているらしい。

 青い矢車菊の隣にピンク色のキノコはかなり目立つので、同系色の青いキノコの方がマシだ。


 だが、よく考えてみれば、ピンクはアニエスの髪色でもある。

 互いの髪色のお揃いのブローチをつけているよりは、自分の髪色の方が幾分か救いがある。

 ……気がする。



「では、こちらは私が」

 こうなったら、花の中に埋めて見えないようにしようと気合を入れてブローチを持つと、クロードにあっさり取り上げられた。


「同じ配置でつけたいから、ちょっと待って」

「いえいえ。クロード様にそんなことはさせられません。自分でつけますから」

「……アニエスはキノコを隠そうとするだろう? だから、駄目」


 何と、見破られていた。

 そう言えば、招待を断れないようにドレスを贈ってくる人だった。

 アニエスの行動はかなり読まれているらしい。


 渋々されるがままになっていると、胸元の矢車菊の隣に煌めくピンク色のキノコが配置される。

 この上なく目立つキノコに、アニエスの疲労が一気に重なった。


二日連続ノー・キノコデーでしたが、キノコの禁断症状の報告を複数いただきました。

どうぞキノコを補給してください。



【今日のキノコ】

スギタケ(「ひとめぼれで首ったけ」参照)

鱗片を持つ黄褐色の傘で、体質によって中毒を起こすし、酒と一緒に食べると悪酔いする。

「夜会ではお酒に気を付けろ」というメッセージを伝えるべく生えてきた、お節介キノコ。

だがクロードに身の内(肉の色)まで暴露されて、ちょっと恥ずかしい。


コンイロイッポンシメジ(「キノコの変態とキノコのブローチ」参照)

濃い青色の傘を持つキノコ。

ソライロタケと話し合った結果、クロードの髪色はコンイロイッポンシメジの方が近いという結論が出た。

青色キノコの代表として、ピンと傘を張って生えている。

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― 新着の感想 ―
[一言] アニエスの深読み(キノコ読み)が過ぎるだけで、割とクロード様はアニエスを守るためにベストな先手を打ってるような……(・д・) 菌糸の綱渡り的なキノコの変態性は置いといて、視点をクロード様に…
[一言] とうとう契約最後の日ですね、 クロードがどうやって口説くのか楽しみです。 装飾がキノコそのものでなかっただけましだと思った方がよいのでは?
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