終幕 ツインテールの鏡
バタバタバタ……(ヘリコプターの音)
皆様、ご覧ください。この一見何の変哲もない平和な敷地内で、目を覆いたくなるような惨劇が繰り広げられております! 一人の男子生徒がナイフを手に無差別に人を殺傷しているのです! 被害者は学園の生徒はもちろん、教職員にまで及び、しかも女性が集中的に狙われているようです!
……えー、いま入った情報によりますと、犯人はこの学園の男子生徒のこと。何故このような凶行に及んだのかははっきりしていませんが、放課後に入った頃から様子がおかしく、救出された女生徒の一人が体育倉庫に監禁されたと証言しているようです。
あっ、いま機動隊が突入しました! 犯人はグラウンドから校舎内に逃亡! 校舎に避難していた女生徒が捕まり、犯人に切り裂かれています! 敷地内は血の海です!
(画面暗転)
・・・・・・
(くぐもった男の声)
「あれかね? 今回騒ぎを起こしたサンプルは」
(別の男の声)
「はい。なんでも学生生活の最中に突然発症したそうです」
「確か……ツインテールシンドローム……だったかな? 彼は被験者だったのかね?」
「いえ、ごく稀に自然発症するケースが認められております。これは非常にレアケースなのですが、元々ツインテールに対して異常な執着があるものの、社会に順応するためツインテールへの関心を無意識に抑圧している人間がその抑うつ状態に耐え切れず、幻覚を見たり凶行に走る症例が確認されております」
「どちらにしろ、図らずも我々にとっては有益な結果が得られたということだな」
「そうですね。本来ならばツインテールへの嗜好が露見すると社会的信用を失いかねない地位の人物や資産家に発症する場合が多いのですが、そういう上流階級は財力や権力を駆使して欲望を消化できるのでここまでの事件にはまず発展しません。またクリエイターの場合でも作品への投影で欲求が解消されている事例が確認されております。しかし彼の場合、自分の社会的地位が高いと勘違いしているような一般庶民が発症したため、欲求の解消ができず今回のようなケースに発展したと思われます。ただ、それが本人のパーソナリティによるものかはまだ入念な検査が必要かと」
「あるいは無意識が意識を侵食した結果か。これが我々の計画に支障をきたすようなことにはなるまいな?」
「はい。その点はご安心ください。計画の実施はもう時間の問題でしょう。今回のような事件が起きればなおのこと」
「そうだな。我々『ツインテール撲滅委員会』の計画はもう、誰にも止められんよ」
二人の男が眺める、ガラスで仕切られた密室では拘束服を着せられ、うつろな目をした二本松江理伊人が「ツインテール……ツインテール……」と、うわ言のようにつぶやいていた。