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第四幕 ツインテールとよばれて

 サワサワ〜サワサワ〜


 俺は女の側頭部からいやらしく伸びたツインテールの片方を手に取る。サラサラとした髪の手触り。この感触こそこのツインテールの女がツインテールである動かしようのない証。


「ほ〜ら。この束ねられた髪。こうやってここに存在してるじゃないか。上手いことごまかしたつもりだったようだが、こうして手に取られるともう言い訳は効かないなあ。今までの熱演、ご苦労さん」


 これでもう観念するほかはあるまい。が、このツインテールの女はまだ見苦しい悪あがきを続ける。


「はあ? アンタ、ホントに頭イカれてんじゃないの? そんなもんどこにもないじゃないのよ! こんな所でそんなパントマイムやって、誰がウケると思ってんの!?」


「やれやれ、俺としても手荒なマネなど極力したくはなかったが、本当に痛い思いでもしない限りその減らず口は治まりそうもないなあ。じゃあ直接体に聞いてやるよ!」


 俺はそう怒鳴ると手にしたツインテールをグッと握りしめ、そのまま勢い良く引っ張り上げる。これでこの女は激痛と共に悲鳴をあげ、立ち上がる他ないであろう。

 が、俺の予想に反し、俺の掌中にあった髪の毛の感触は消え、女はその場に横たえたままだった。もちろん、ツインテールは厳然とそこにある。

 

「な、なんだ? これは? 俺はいま、確かにツインテールを掴んで引っ張りあげたよな? なのになんでお前はそのままそこに倒れてるんだよ? おい! お前いま、何をやったんだ!?」


「何をやってんのかはこっちのセリフよ! 何もない空間掴んで引っぱり上げるフリして、それで私に一体どうしろっていうのよ!?」


「おかしい。そんなはずはない。俺は今、たしかにこの目の前のツインテールを掴んで引っ張ったはずだ。それなのにどうしてツインテールは俺の手からすり抜けたんだ? ここにこうして間違いなく存在しているのに」


 今しがた起きた現象に理解ができず、俺はもう一度ツインテールを手に取る。確かにサラサラとした髪の毛の手触り。それを確認すると再びぐっと握りしめる。確かに俺はツインテールを掴んでいる。


 もう一度俺はそれを思い切り引っ張る。今度は頭半分の髪の毛がごっそり抜けてもおかしくないほどの力を込めて。

 が、またもツインテールは俺の手からすり抜け、何事もなかったかのように女の側頭部に鎮座していた。


「ふ、ふふん。どう? こ、これで私がツインテールじゃないって認めるでしょ? 分かったらさっさとこの縄を解いてよね。今ならまだ許してあげるから。私にここまで強引なアプローチしてくるぐらいなんだから、大人しく引き下がれば、私も前向きに考えてあげなくもないわよ?」


 女は勝ち誇ったように俺の風上に立とうと小賢しいブラフをぶつ。もちろんそんなブラフなど通用しないし、この女のうろたえた態度からも俺の主張の正当性は毛ほども揺るいではいないのだが、痛い勘違いをされているのが腹立たしい。だいたいこの俺がこんなツインテールの女にアプローチしていると思われるだけで身の毛がよだつ。スーパーエリートの俺がこんな勘違い女に強引に迫っているなどと思われること自体、例え勘違いでもあってはならないのだ!


「やめろ! やめろ! そうじゃない! その反応は違うだろ! 俺はお前をどうこうしたいわけじゃないんだよ! ただお前が許しがたいツインテールでだな、そのツインテールを改めない限り俺はお前を許す道理がないのであって、お前の考え方と生活態度を改めてやらなければならないという俺の義務感でやってるのであって、決してお前と何か関係を結びたいとか、そういう下世話な庶民の下心でもってこんなことやってるわけじゃないんだからな! そこんとこ勘違いするなよ!」


 なんだか動揺して俺の方が訳の分からないことを口走り始めている。無理もない。いかにスーパーエリートとはいえ、こんな超常現象に出くわしたら矢◯純一だって人並みに動揺するに違いない! しかもこの俺がこんな鼻持ちならないツインテールに欲情して体育倉庫に拉致って監禁してると勘違いされているのだから尚更だ。


「分かったわよ! 分かったわよ! 全部アンタが正しいのよ! 間違ってたのが私なんだからいくらでも謝るわよ! だからせめてこの縄だけでも解いてよ! 絶対逃げたりしないから! 話だけならいくらでも聞いてあげるから! だからお願い!」


「違う! 違う! なんだよその態度! まるで俺が聞き分けのないこと言ってお前に折れてもらってるみたいじゃないかよ! そうじゃないだろ! つまんねえこと言ってないでさっさとネタばらしをしろ! お前はどうやってツインテールを見えなくしたり掴めないような超能力っぽいことができるんだ! いーや! 言っておくが俺には全部お見通しだからな! ただ手品に疎いからタネが分からないだけで、聞けばナポ◯オンズ程度のしょぼいトリックに過ぎないってことはちゃんと見抜いてんだからな!」


「そうよ! 全部トリックよ! 今から全部教えてあげるから、まずはこの縄解いてよ!」


「いや! 待て! スーパーカリスマの俺がツインテールごときのトリックを見破れなかったら一生癒えない疵になる! 言うな! ネタばらしなんかするな! うわああああああああーッ!!」


 俺はすっかり動転し、頭を抱えて体育倉庫を飛び出した。もちろんツインテールの女はうっちゃってるが、まあツインテールなら問題あるまい。


「ちょっと! どこ行くのよ! いや、どっか行ってもいいけど、先に縄を解きなさいよー!」


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