第二幕 ツインテール落書
ダダダダダッ!!
ハアハア……妙だな。あんな特徴的な髪型の女なら探せばすぐに見つかると思ったのだが、どういうわけか見あたらない。俺は白昼夢でも見たのだろうか? あんな女見たこともなかったし。
ん? あそこを歩くいかにもモブっぽいショートカットの女のコに聞いてみよう!
ダダダダダッ!!
「ちょっとそこの君! 君に聞きたいことがあるんだが! この俺様が貴重な時間をわざわざ割いて君一人のために費やしてあげるんだから光栄に思うのも無理はないが手短に済ませるためにも今すぐ答えてくれ!」
「ひいっ! 一体なんなんですか!? ちょっ、やめてください! 人を呼びますよ!」
両肩をガッシと掴まれたショートカットは俺のようなイケメンにいきなり口説かれてるとでも勘違いしているのか動転してしまっている。それも致し方ないが今はそれどころではない! そもそもこんなモブなど俺の眼中にはないのである。
「君の反応なんかどうだっていいんだ! 所詮顔グラもまともに設定されてないモブに過ぎないんだから、こっちの予定通りの返答さえすりゃいいんだよ! それより俺の質問にさっさと答えろ! 当然イエスだよな!? なら聞く。いまさっきこのあたりをツインテールの女が通りがかったはずだ! どこに行ったか漠然とでもいいから答えろ! そこからストーリーは動き出すから! いいんだ! ここでつまんないカケヒキなんかして無駄にプレイヤー様の気を惹こうとかそんな余計なこと君は考えなくっても! 主人公は俺なんだから! だからさっさと要点だけ即答しろ!」
が、俺の的確過ぎる質問にもこの頭の悪いショートカットは理解すらできないらしく、全く見当違いな反応しかしやがらない。
「はあ? なに言ってんの? あんたアホォ? 深夜アニメじゃあるまいし、イイ歳してツインテールで平然と登校してくる女なんか常識で考えていないわよ! 変な言いがかりをつけて絡んでこないでよね! 頭おっかしいんじゃないの? この、ヲタク!」
チッ! 使えないモブだ。俺の質問を理解できないばかりか往年のヒットアニメのパロまでご丁寧にぶっ込んで悪目立ちしたがる。これだから攻略ルートもないモブは嫌いだ。こんな庶民に俺自ら声をかけてやったのが間違いの元だった。もうこんな女は放っておこう。今の俺にはサインやメアド交換の暇さえ惜しい。
ボヤヤヤヤヤ〜ン(効果音)
するとどうしたことか、俺の目の前にいるこのショートカットの両側頭部に、束ねられた髪がぼんやりと出現してきたではないか! 目の錯覚か? いや、この俺がそんな幻覚を見るなどありえない! 原理はよく分からんがこのショートカットはイリュージョニストで元々ツインテールなのを何らかの方法で見えなくしていたのだろう。いわばステルスツインテールと言ったところか。巧妙に化けたつもりだろうが俺様の目はごまかせん! 万人は欺けようとも、この俺様のエシュロンアイからは何人をも逃れ得ない!
「わはははは! ついに尻尾を掴んだぞ! ツインテールの女! 俺から逃げられると思うなよ!」