転生したった
この作品は完全にファンデッキです。なんか最強系読みたいなって思った結果自分で書いてるだけです。突発的に終わることもあれば、めっちゃ投稿するかもしれません。
もし定期的に見ようと思って頂けたなら、ご了承ください。
————迂闊だった。
俺は何もない空間で頭を抱えて悩んでいた。
この場所がどこかは俺にはわからない。だが、俺に何が起こってここにいるのかは理解できている。俺は死んだのだ。それは間違いない。しかも話せないほど間抜けな死に方をした。現世で俺の死因を知った知人は悲しむよりも笑うことを我慢しそうなレベルだ‥‥‥。
間抜けな死に方をした自分を思い出してさらに落ち込む。が、頭を抱える俺に声をかける者が居た。
「あの‥‥‥大丈夫ですか?」
「ぐすんっ‥‥‥はい、大丈夫です」
「相当落ち込んでいるようですが、死というのは生物には必ず訪れるもの、そう気に病まないでください」
優しく声をかけられ、俺は俯いていた顔を上げた。するとそこには天使が居た。死後の世界なのだから、本物の天使なのかもしれない。
「これは見苦しいところをお見せしました」
「は、はい‥‥‥」
俺はさっと姿勢を正して居直る。
「あなたは死にました。それは理解できていますね?」
「もちろんです。実感は薄いですが、死んだという事実は理解しています」
「ですが、あなたには二つの選択肢があります。一つはこのまま天国に行くこと。特に申請書が来ていないので、地獄ということはないでしょう」
天使さんが何やらカルテのようなものをぺらぺらとめくる。俺に関しての資料かもしれない。
「二つ目はもとの世界とは異なる世界で余生を過ごすことです。今のままの体や知識や経験を継続したまま、新しい生活を送ることができます」
「本当ですか!?」
俺は天使さんの言葉にテンションが上がり詰め寄る。
「は、はい。本当です。若くして亡くなった人間にはそういった処置がされるようになっています。が、元居た世界とは違い、動物以外にもモンスターが平然と跋扈する死と隣り合わせの世界です。辞退する人がほとんどで、あまりおすすめはしていないのですが‥‥‥」
「異世界! 行きたいです!」
俺は食い気味に即答する。迷う余地などあるものか。
「そ、そうですか。でしたらゲートを開きますね」
俺の勢いに気をされたのか、若干動揺しながらも異世界への入り口を開いてくれる。
「ここをくぐればすぐに世界間移動ができます。が、その前に必要なことがあります」
「必要なこと?」
「はい。先ほども言いましたが、この世界にはモンスターが生息しています。ほかにも人間以外の好戦的種族も。その中で生きていくためには何か特別な能力が必要になってくるでしょう。この中から一つ選んで下さい。その一つをあなたのものとして授けます」
天使さんが俺の前の空間にいろんな異能力の情報を映し出す。
だが、俺はその数個を確認すると、さっと踵を返した。
「別にいらないです。それじゃあ俺はもう行ってきますね」
「なっ!? なぜです! 生身の体ではまたすぐに死んでしまいますよ!?」
驚いて俺を引き留めようとする天使さんに振り返る。
「だって俺持ってるんで、異能力。だからいらないっす」
それだけ言って俺はゲートに飛び込んだ。
§
「————よっと」
ゲートの中の浮遊感から一点、重力に引かれる感覚で到着したことを悟った。
どれくらいかかったのか、あまり長くはなかったが、異世界に転移したと思えば短いのではないのだろうか?
「んっんん‥‥‥‥日本より空気が澄んでるな」
凝り固まった体をほぐすために軽く伸びをする。排気ガスを排出するものがないからか、空気は山に行った時のように綺麗な気がした。
ひとまず到着したことに安堵するが、俺はただ異世界転生をしたかったわけじゃない。俺には確認すべきことがあった。
「こういうのって冒険者ギルドとかあるのか? でもそういうのって大きな町にありそうな気がするんだが‥‥‥」
ふと辺りを見回すが、俺が降り立ったのは小さな村。その端っこだ。転移したところを見られないように配慮して場所を決められたのかもしれないが、そこは大きな町にしてほしかった。
まあ愚痴を言っても仕方ない。勝手に先走ったのは俺だし、情報収集も未開の地の醍醐味だ。まずは村の人に声をかけてみようか。
意気込むと村の中にお邪魔する。反対側の端が見えるくらいには狭い村。もしかしたら横に広がっているのかもしれない。
俺は適当な村人を見つけ、声をかけてみた。
「すみません。ちょっといいですか?」
「‥‥‥なんだい、あんた」
声をかけた男は訝し気な視線を送ってきた。まあ確かに見知らぬ男が声をかけてきたんだから不審がるかもしれないが、もう少し物腰柔らかくならないのだろうか。
「俺は辺境から出てきたんだが、どこに行こうにも土地勘がなくてな。大まかな地図でも見せてもらえたらと思ったんだが」
「なんだ、徴収に来た使者というわけでもないのか‥‥‥。すまなかった。こんな場所に客など滅多に来るものでもないのでな。付いて来るといい」
「ありがとう」
勘違いをしていたのか、俺が道を聞きに来ただけだと言うと快く案内をしてくれた。
連れてこられたのは近くにあった家。彼の家なのだろうか。無言で上がるように促され、あとに続いた。
「お邪魔します」
「かしこまらなくていい。何もない家だ。そこに座っていてくれ」
入ってすぐにある椅子に腰かける。その間に男は奥の部屋に入っていった。
何もない家。そう言っていたが、本当に何もない。一見してあるものはこの椅子と机、本当にそれだけだ。奥の部屋にはベッドでもあるだろうが、この部屋を見る限りは何もないと言って差し支えない。
少し待っていると、ほどなくして男は戻ってきた。手に持っているのは恐らく地図だ。
「すまないね。生憎この村から王都までの地図しかないんだ。これでも構わないかい?」
「全然大丈夫です」
というよりむしろ一番欲しかった情報だ。王都となれば中心都市、俺が行くべきはそこだろう。
「それじゃあ、この村がこの場所にあるんだが――――」
地図を広げて説明しようとした矢先、遠くから何かが近づいてくる音が聞こえた。その音を聞いて、男は眉を潜めた。
「すまない。少しここで待っていてくれるかな?」
「それは構いませんが、何事ですか?」
「王都から徴収だ。村人は全員でなければならない。君は客人だ。表に出ないようにここで待っていてくれ」
「わかりました」
おとなしく了解し、男はそのまま急いで家を出て行った。
王都からの徴収。なんだか江戸時代の年貢みたいな制度だな。少し興味もあるし、出るなと言われたが、様子を見るくらいは構わないか‥‥‥?
「ちょっとだけ」
見たらすぐに引っ込もう。ちょっとだけ異世界の文化に触れたくなった。
§
「村人はこれで全員か?」
どこでやっているのかと辺りを見回りながら探すと、一番開けた場所で大勢の人が集まっていた。鎧を付けているのが王都から来た騎士たちか‥‥‥それ以外がこの村の人たち。思っていたより人数が居たんだな、という感想より、その扱いに俺は疑問を覚えた。
騎士たちが村の人たちを円にして囲み、その中で女子供関係なく地べたに正座している。どう見ても普通じゃない。
「大臣様より命令だ。子供一人銀貨一枚、大人一人銀貨三枚だ。さっさと用意しろ」
「用意しろと申されましても‥‥‥ほんの一週間ほど前に収めたばかり、用意しようにも蓄えが‥‥‥」
「なんだ? 問題でもあるのか? まあ金がないのなら値打ちのあるものを出せば代用してやろう。大臣様は寛容だ。見逃してくれよう」
顔を俯けたのは立派な髭を生やした老人。村長だろうか。
家具のほとんどない家。これが原因の一端なのだろう。
「なんだぁ? 王都から騎士が来るってんで身に来たら、やってることは盗賊じゃねぇか」
俺はしびれを切らし、堂々と前に出た。
「き、君! 家で待っていろと言ったろうに」
「誰だ、貴様?」
「騎士様、彼はこの村の者ではありません。ですのでこの件に関しては無関係ですので‥‥‥」
「もう無関係じゃねぇよ。不当な徴収を目の当たりにして放っておくかって」
「不当だと? 貴様に何がわかるというか! 反逆罪だ!者ども、ひっとらえよ!」
騎士の男が命令を出すと、今まで静観していたほかの騎士たちが俺に向かって襲い掛かる。容赦なく剣を抜き、殺す気で振ってくる。が、俺はそのすべてを見切って躱す。
「民間人に本気で剣を振るとは‥‥‥じゃあ俺が殺しても正当防衛だよなぁ? あぁん?」
俺が凄むと、六名の騎士は後ずさる。
「騎士長! こいつただの民間人ではありません!」
「怯むな! 全員でかかれば勝てないはずはない!」
騎士長が策もなく特攻するように命令をすると、それに呼応して団子になって騎士たちが剣を振ってきた。
「おいおい、そんな特攻みたいな攻撃してると、仲間に当たっちまうぞ?」
俺は襲い掛かる騎士たちが二メートルの射程に入ると、両手を広げ、交錯させる。
「うわぁッ!」
「お前どこを切ってる!」
「い、痛い!」
俺に向けて振るわれた剣は、近づきすぎた騎士たちが互いを切ってしまう。鎧があるから致命傷にはならないが、頬を切ったものもいれば、鎧との衝突で剣を折るもの。元からなかったような陣形は完全に崩れている。
「何をやっている!」
「騎士長! やはりこいつ変です!」
「もういい、下がっていろ! 私が相手をする!」
後ろで傍観していた騎士長とやらが前に出る。明らかにほかの騎士より頑丈な鎧を身にまとい、よく研ぎ澄まされた剣を腰から抜いた。
「私の剣技は王都でもトップレベルだ! 先のように避けられるとは思うなよ?」
「避けないさ。さっさと来い」
「舐めやがって‥‥‥!」
「敵を前にべらべらしゃべるのは三流なんだよ」
「くたばれッ!」
最後の煽りに騎士長は沸点を超え、剣技とやらを微塵も感じさせない力任せな一振りを俺めがけて振り下ろした。
が、俺は宣言通り避けることはしない。その代わり、片手を剣と自分との間にかざす。
「『フレイム』!」
剣が俺の手に触れる刹那。そう叫ぶと俺の手の周りから赤い魔法陣が浮かぶ、すると瞬く間に剣は業火に包まれ、原形を留め切れずに溶解する。
「ば、ばかな‥‥‥ッ!?」
「まだやるか?」
「ひぃ‥‥‥ッ!」
手から炎をちらつかせると、騎士長は跳ねるように飛びのき、止めていた馬を走らせて逃げていく。
「待ってください! 騎士長!」
そのあとを六人の騎士が追う。これで追い払うことはできた。
「さて、おっさん。話の続きをしようか」
視界の端に見えていたので話を振ると、返ってきたのは歓声だった。