第九楽章 開演!
流れていた「白い奇跡」が、いきなりピタリと止まった。
次に、突然照明が絞られ、ホールが真っ黒になった。
皆の談笑が止み、代わりに、拍手と歓声が起こった。ぼくも、つられて手を叩く。
「……フハハハハハハハ!!」
スピーカーから、デーモン閣下特有の例の笑い声……の、声真似が響いた。ひときわ大きな歓声が上がる。
「本日の参拝、誠にご苦労。……吾輩は、狡決亜Ⅱ主宰、デーモン大塔である」
狡決亜Ⅱの、リーダーだ!
本物の聖飢魔Ⅱのミサ恒例の「構成員による陰アナウンス」まで再現する懲りように、ぼくは、素直に感動した。
ユーチューブやDVDの中でしか聞いた事がないパフォーマンスを目の当たりに出来るなんて、思ってもみなかった。
「本日は、強力な助っ人も召喚し、いつも以上にド派手で極悪な内容のミサとなっている。諸君……盛り上がる準備は出来てるかぁーーー!?」
リーダーの問いに、大きな歓声が上がり、拍手が打たれる。
凄い。
DVDで、観たとおりだ。
「大変結構! ……ただし、残念な知らせもある」
リーダーが言うと、
「なにーーー?」
と、客席の女性陣から声があがった。
「……実は吾輩。先日、かかりつけ医から“あまり血圧が上がるような行為はしないように”と言われてしまった。したがって、本日のミサは、バラード中心でしっとりと執り行うつもりである」
すぐさま、客席から大ブーイングと笑い声が巻き起こる。
「……ええぃ、わかった! それじゃあ吾輩、喉が枯れても血を吐きながら、血圧計が振り切れても横になったまま歌うからな! お前ら、着いて来れるかぁぁ!」
客席から、拍手と笑い声混じりの大歓声が飛ぶ。気づけば、さっきよりもさらに人の数が増え、客席は、かなりの人口密度になっていた。
「……大変結構。ちなみに、この会場の入り口付近にはAEDが設置してある。吾輩に万が一があった場合には、速やかに、蘇生措置を行うように。わかったかぁぁぁ!」
また、会場は爆笑だ。
「それでは諸君。気合い入れていくぞーーーっ!」
リーダーが叫ぶのと同時に、アンプから、鋭いギターリフが流れ出した。
照明がステージに向けられると、いつの間にか、狡決亜Ⅱのメンバーがスタンバイして、演奏を始めていた。
「エース清水メイク」を施した金髪の女の人の激しいギターの音色に、ドラムとベースが刻む低音のリズムが絡まっていく。
その音が、心臓の鼓動とリンクした様な錯覚を、ぼくは覚えた。
「破れぬ夢の中で」から、演奏が始まった。
観客席から、ひときわおおきな拍手と歓声が沸き起こった。
ぼくは、ステージから溢れる音の激流と、観客席からの熱気にすっかり浮かされて、呼吸をするのも忘れて、飛び跳ね、絶叫し、拳を突き上げていた。




