第二部 第十九楽章 波多津薫、復活ッッッ!!!
久々に女子の制服を着た波多津薫は、ぼくらの前で"くるり"と一回転して、白い歯を見せた。
「うん。やっぱりこっちのがしっくりくる!」
眩い笑顔を見せる波多津薫の横で、
「……なんでわたしの方がチビなのに、薫先輩の方が細いんですかね」
と、木須裕子がボヤいた。
***
ぼくたちの演奏は、大成功に終わった。
舞台袖に捌けると、大勢の先輩方がハイタッチで迎えてくれた。
その先に、波多津薫が立っていた。
目に、涙が滲んでいた。しかし、笑顔を浮かべていた。
「聴いてくれた?」
ぼくが訊くと、波多津薫はコクリと頷いた。
「……恥ずかしかったよ。けど、嬉しかった」
波多津薫は、少し震える声で言った。
「あの時は、嫌な気持ちにさせてごめん。……だけど、君は、ありのままの君でいる方が、いちばん素敵だよ」
ぼくは、真っ直ぐに波多津薫の目を見て言った。
「……これからも、一緒にいよう」
ぼくはそう言って、右手を差し出した。
波多津薫は、その手を無視して、ぼくに抱きついて来た。
***
木須裕子に借りた制服を着て、波多津薫は、熱心にメイクをしていた。
アンコールが掛かり、ぼくと鶴さん、波多津薫と木須裕子の四人で、あと二曲を演奏する事になったのだ。
簡単な打ち合わせを終えた鶴さんの横に、木須裕子の母親が立った。
「木須さん……」
鶴さんが呟く。
その顔を見て、木須裕子の母親が「ぷっ」っと吹き出した。
「本当にからかい甲斐があるね、鶴飼君は。冗談よ、さっきの」
「え!?」
思わず大きな声を上げた鶴さんの顔を見て、木須裕子の母親はお腹を抱えて笑った。
「あの夜、私は小上がりでグーグー寝て、鶴飼君はカウンターで朝まで突っ伏してた。指一本ふれちゃいないわよ」
それを聞いて鶴さんは、安堵と心労で椅子からずり落ちそうな姿勢になった。
そこに、木須裕子が現れた。
「わたし、やっぱりやめときます」
木須裕子は、鶴さんにそう言った。
「ツェッペリン、苦手? 他のがいい?」
鶴さんが訊くと、木須裕子は首を横に振った。
「薫先輩と高田先輩の初絡み、邪魔するのもアレなんで」
そして、木須裕子はぼくの方に向き直る。
「……今回は負けておきます。すっごい悔しいですけど」
そう言って、彼女はわざとらしく、可愛いしかめっ面を作ってみせた。
ぼくは苦笑いして、
「今度、一緒に演ろうよ」
と、右手を差し出した。
木須裕子が、にっこり微笑んでその手を握った。小柄なのに凄い握力で、ぼくは思わず「いてぇ!」と声を漏らした。
*****
「オッケー!」
メイクを終えた波多津薫が、立ち上がり、ぼくを見た。
短くなったけど、艶のある黒髪。
シャム猫を思わせる、大きな瞳。
通った鼻筋の下の、ぷっくりとした薄桃色の唇。制服からすらりと伸びた、モデルのような肢体。
今日の彼女は、息を飲むほど綺麗だった。
波多津薫がぼくに歩み寄り、真正面に立った。
無言で、見つめ合った。
ぼくは、自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらいに、ドギマギした。
波多津薫が、そっとぼくの両手を握った。
「わたし、結構おもいからね。毎日電話もLINEもしてね。浮気とか許さないからね。もしそんな事したら、高田君の目玉を串で繋いで、夢竜で"本日のお勧め"にして出してやるからね」
と、波多津薫がひと息に言った。
「……こえぇよ」
鶴さんが、横から突っ込んだ。
「H4、そろそろだぞ!」
金立さんが、満面の笑みを浮かべて楽屋に入って来た。
「よし、いこうか!」
鶴さんが立ち上がった。
ぼくと波多津薫は、
「おう!」
と、声を返した。




