第二部 第十八楽章 仮面を外せ!
一曲目の「immigarant(移民の歌)」を終えた時、会場からは、明らかに戸惑いがちな拍手が起こった。
「悪りぃ……」
鶴さんがぼくに近寄り、小声で言った。
今日の鶴さんのステージは、いつになくガタガタだった。
単純な演奏ミスを幾度か繰り返し、ボーカルの声は、安定出来ずにトンだり裏返ったりした。
いつもとまったく調子の違う鶴さんに、ナッシュの観客が動揺している。
「隆、後はお前に任せる」
なんて、最後にはいつになく弱気な事を言い出した鶴さんを見て、ぼくはなんだか、かえって面白くなって来た。
軽く深呼吸して、客席を見回す。
いちばん奥に、波多津薫と木須親子がいるのが見えた。壁に寄りかかるようにして、ただじっと、ステージを見つめていた。
よし。
あそこに届けよう。
「……聖飢魔IIと君は」
ぼくは、いきなりMCに入った。
「他人と違う生き方をする事がどれだけ大変かという事を、ぼくに教えてくれました」
客席は戸惑い気味だ。
それでも、ぼくは構わず続ける。
「そして、他人と違う生き方をする事の素晴らしさも、ぼくに教えてくれました」
ぼくは、波多津薫の目を真っ直ぐに見た。
「……いつまで仮面を被ってるつもりだよ!」
壁際の波多津薫の目が、まん丸になった。
「……ぼくは、いままでの……本当の君が、大好きなんだ!」
テンポよくアンジェラスをかき鳴らす。鶴さんが、レスポールの音を絡めてくる。
二曲目は、聖飢魔IIの「MASQUERADE」。
波多津薫に向けた、今のぼくの本当の気持ちを込めて、全力で弾いて歌った。
ぼくの腕前で完コピ出来る代物じゃないけど、鶴さんが強力にサポートしてくれる。
やっと調子を取り戻してきた鶴さんのギターが、観客席を熱狂させている。やっぱり、この人は凄い。
ぼくは、鶴さんのギターに身を委ねるように、ひたすらにアンジェラスを弾き、歌う。
……波多津薫は、泣いていた。
両手で口を押さえるようにして、ただ、僕を見つめていた。
その姿を見ながら、僕は、思わず笑った。
ぼくの目にも、なんだか涙が浮かんできた。
そうだ。
君は、自分を偽って、飾らなくてもいいんだ。
誰にも負けない、なんにも染まらない。
いつもの君の、いつもの笑顔を描いてくれたらいいんだ。




