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第二部 第十五楽章 哭いた、ファシスト。

 四組目の演者としてクラシックロック・サガのステージに現れた波多津薫と木須裕子の演奏は、会場に熱狂の渦を巻き起こした。


 サポートメンバーに、に佐賀界隈でピカイチだというベテランのドラマーとベーシストを迎えて、その演奏は始まった。


 メチャクチャにヘビーで、ディープな演奏だった。

 初めて聴いた曲だけど、一発で心を奪われた。


「メタリカの"SAD BAD TRUE"だ。……また、シブいチョイスだな」


 鶴さんが、耳元で教えてくれた。

 年齢層やや高めの観客が、皆、髪を振り乱し、拳を突き上げる。


 一曲目が終わると、すぐさま二曲目に入った。


 二曲目からは、男性のボーカリストが加わる。


 先行した波多津薫のギターに、四小節目から木須裕子のSGの音色が絡まった。


 観客席から、歓声が起こる。

 さっきとまるで違う、ものすごくテンポの早い曲だ。


「これは!?」


 ぼくが訊くと、


「アイアンメイデン! "THE TROOPER "!!」


 と、鶴さんが答えた。


 とにかくかっこいい、これぞ王道ヘビーメタルといった曲だった。


 波多津薫のソロを含んだ演奏は言うまでもないとして、木須裕子の、腰だめに構えたギターを全身でリズムを刻んで弾く様も、悔しいけれども、実に堂に入っていた。かっこよかった。


 演奏が終わると、波多津薫は傍らに置いてあったペットボトルを含み、額の汗を拭った。


「薫姫~!」


「髪切ってる~」


「可愛い~!」


 ……などと、好き勝手な声援が客席から飛ぶ。波多津薫は、どうやらここでも名前と顔を知られているらしい。


 「こんばんは」


 波多津薫がマイクを持つと、客席から拍手と歓声が起こる。


「えっと、今日は、頼りになる後輩を連れて来てみました。紹介します……木須裕子!」


 その声に合わせて、木須裕子が右手を挙げ、恭しい仕草でお辞儀をした。

 客席から、また、大きな拍手と歓声だ。


「では、最後はわた……自分らしく、ルーク篁でシメます!」


 波多津薫の絶叫に、ドラムカウントが重なった。


 いつも部室で練習している、はじめてぼくが好きになった、波多津薫の弾くあの曲。


「REMEMBER FLAME」だ。


 スリリングなギター演奏に、観客席が一体になって盛り上がる。


 だけど、ぼくにはなんだか、いつもと違って聴こえた。


 今日の波多津薫のこの曲は、なんとなくだけど、赤いファシストが「哭いて」いるように聴こえる。


 いつもよりすこし速いテンポで演奏されるこの曲を聴いているうちに、何故か、ぼくの目には涙が滲んでいた。


「今日の薫、すげぇギター弾くなぁ……」


 鶴さんも、横で何かを感じ取っている様子だった。


 たっぷりとした余韻と興奮をステージに残して、波多津薫と木須裕子は、大歓声を浴びながらステージを降りた。


 ぼくらのすぐ後ろで聴いていた別のバンドのギタリストさんが、


「アンタの弟子、めちゃくちゃハードル上げるなあ……。おれ、この後に弾くのキッついぞ」


 と、鶴さんにボヤいた。

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